第肆話 蛇の巣
灯りが一つだけ灯された暗い場所。家の中なのか、洞穴の中なのかはわからない。そこで女が三人、トラを囲んでいた。一人は黒い装束を纏い、二人は白い衣を纏っていた。白い衣を纏った二人は医者だった。
「これで大丈夫な筈です。じきに動けるようになるでしょう」
女の医者は目が見えぬようだった。しかしこの医者には目が見えぬ代わりに、患者の怪我や病状を瞬時に見抜けた。見抜くと妹に的確な指示を与え、的確な処置をさせた。白い衣の女二人は姉妹で、妖怪の医者だった。
「有難うございます、みづち様、たつほ様。獲物を横取りされたことに腹を立て、この猫を化け物と勘違いし、毒の牙を使ってしまった…。お恥ずかしながら、まだまだ未熟ゆえのことでございます」
黒い装束の女が深々と頭を下げた。
「それは仕方ないよ、私だってこんな大きい猫初めて見たもの。もしかしたら半分妖怪化しているかもしれないし」
「それに
「かたじけなくございます。しかし、このことは姫には御内密に…」
香清と呼ばれた女が再び頭を下げると、医者の姉妹は顔を見合わせて笑った。
──なんだ? こいつらは一体何を言っている?
トラは今の話を全部聞いていた。先程から蛇の匂いがプンプンしている。一体ここは何処だ?
目を開け体が動くことを確認する、痛みはあるが立ち上がれそうだ。思い切って体を起こすと低く身構えた!
「そんな!」
「嘘!?」
意に反し、突然立ち上がったトラに医者二人は驚く。
──何だこいつらは!?
人の姿をしながら蛇を匂いを漂わせている。しかし、今のトラにはそんなことはどうでもよかった。目の前の黒い装束の女から憶えのある匂いを嗅ぎ取ると、トラは今にも飛び掛らんばかりに低く
間違いない、この女は先程の黒い蛇だ!
──やはりただの蛇では無かったか! 今一度戦え! 今度こそしとめてやる!
香清はトラの言わんとすることを覚ったのだろう。懐から
「お待ちなさい、殺生はいけません。たつほ!」
「はいきた!」
姉のみづちが割って入ると、妹のたつほはポキポキと指を鳴らす。おもむろにトラを掴むと指を喰いこませた。
──っ!!
恐ろしい程の力でトラは掴まれ、気を失った。
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