ロックってなんだ!?
荒野豆腐
イワビー、アイデンティティの危機!?
「やっぱりまずは『コウテイは本当にマゾかどうか』ね」
「待て、なぜそうなる」
練習の合間に雑談を楽しむPPP。話題は『PPP七不思議を決めよう!』というもの。
こういう時に意外にもノリノリなのがプリンセスだ。
「いじられキャラ」が定着しつつあるコウテイは彼女の格好の餌食だ。
「20分以上潜ったままでいられるって本当なんですか?」
とジェーン。
「120日間何も食べないって本当ー?」
フルルもそこにかぶせてきた。
「いいじゃねえか、自分から過酷な環境に身を置くなんてロックだと思うぜ」
コウテイに対してフォローを入れるイワビー。
そういえば、とフルルが
「ずっと気になってたけど、イワビーの言う『ロック』ってどういう意味なの?」
一瞬の静寂の後。
「確かにはっきりとした意味はわたしもわかってなかったわ」
はっとした表情になるプリンセス。
「音楽のジャンルのことじゃないんですか?」
「違う意味合いで使われている時も多いぞ」
顔を見合わせるジェーンとコウテイ。
「お前らわかってなかったのかよ、オレの『ロック』ってのはだな――」
得意げな表情を浮かべたイワビーだが。
「――『ロック』ってのはだなぁ…」
(やべえ、改めて聞かれると何て答えたら良いんだ…?)
言葉が出てこない。
「そういえばフルルはジャパリまんを食べていない瞬間がないんじゃないかって言われてますよ?」
その時やや慌て気味にジェーンが話題を変えた。
「ライブの時は食べてないよ」
「ライブの時に食べてたら私が許さないわよ!」
イワビーにとっては幸いだった。
その後ロックについての話題は一切出なかったのだが。
(オレ明らかに気を遣われていたなぁ)
一日を振り返って肩を落とすイワビー。
何より自分の方向性がわからなくなった。
自身のロックの意味がわからないままではダメだとイワビーは思った。
明日は休養日。明日中にロックの何たるかを掴むことをイワビーは決心した。
「この人たちにロックについて聞いてみようよ」
フルルが手伝ってくれることになったのはいいのだが。
彼女が連れてきた三人のフレンズを見てイワビーは思わずチベットスナギツネのような表情になる。
「私に任せればどんな謎もたちどころに解決よ!大船に乗ったつもりでいなさい!」
自信満々で名乗りを挙げたのはアミメキリン。
「ズバリ!ロックとは鍵ね!」
「間違ってなくもないけど違う!」
続いてコツメカワウソ。
「きっとたのしーことじゃないかな?」
「うん、そう言うと思ったぜ」
最後にジャガー。
「そもそも何で呼ばれたのかも全然わからん」
「うちの
結局三人には帰ってもらった。
見送った後イワビーはため息をつく。
「何も解決しなかったじゃねえか」
「イワビーの中にはロックに対するイメージはないの?」
「単にかっこいいって意味じゃねえ。ただなんて言ったらいいのか…」
フルルの問いに唸るイワビー。
「もっとこう…デカいものに立ち向かっていく感じなんだ。例えば…って聞いてんのかフルル?」
「イワビー、あっちからセルリアンが…」
フルルの指さした方向、木立の間から青い球状のセルリアンが姿を現した。
その黒い眼はこちらの方に向けられている。
「チッ、オレたちよりデカいな。だがこのサイズなら二人がかりで何とか…」
できるぜ、と言いかけたイワビーだが。
(待て、ここであのセルリアンをオレ一人で倒したらそれこそロックじゃねえか?)
決断するが早いかイワビーは眼前のセルリアンに向かって駆けだす。
「へ!?イワビー!?」
フルルが慌てた声を上げるが走り出した足は止まらない。
「でええええええええい!!!」
雄叫びを上げながらセルリアンの体に飛び付くと弱点の石がある頂上の部分によじ登ろうとするが。
「…!!!」
突如、今まで目立った動きのなかったセルリアンがその場で急旋回をした。
巨大な球体が回転を行えば当然発生する遠心力も相応のもの。
イワビーは振り飛ばされ木の幹に衝突してしまう。
「…いってえ」
「イワビー!今からでも遅くないよ、一緒に逃げ…」
言いかけてフルルは絶句する。
もう一体、同じようなセルリアンが忽然と現れたのだ。
「そんな…こんなのどうしたら…」
反射的に後ずさりするが、まだ動けずにいるイワビーとともに二体のセルリアンに挟み撃ちされる形になってしまう。
イワビーのぼやけた視界には自分をかばうように立つフルルの姿が映っていた。
(動けよオレの体…オレ一人のバカにアイツまで巻き込む訳にはいかねえんだ!)
ためらいなく野性解放。「ごめんな」と侘びを入れ
「ヒャア!?」
悲鳴を上げてフルルが地面を転げる。イワビーが体当たりをしたのだ。
「頼む!近くのフレンズを呼んできてくれ!」
そしてイワビーはボクサーのような構えでセルリアンを挑発した。
(これでいい、アイツはセルリアンの視線を外れた)
しかし野性解放を使ったことと先ほどのダメージで彼女はすでにボロボロだった。
目眩を覚え片膝を着いてしまう。
その刹那。
何者かが視界の隅を駆けていった。ソイツは目の前にいたセルリアンに飛びかかると
「そこっ!」
鋭い声とともに石を砕いた。
声の主は背後を振り返り一声。
「キンシコウ!」
「はい、こちらも片付きました」
凛とした声が答える。
「アンタら、セルリアンハンターの!」
我に帰ったイワビーに対してヒグマが答えた。
「ああ、この付近でセルリアンの目撃情報があった。最悪の事態は避けられたようだな」
「すぐ近くでヒグマさんとキンシコウさんに会ったんだよ」
とフルル。
「本当に幸いでした。パークのアイドルを失わずに済みました」
キンシコウはもう一言つけ加えた。
「原則自分より大きいセルリアンとは戦わないこと、これは守ってくださいね」
ヒグマとキンシコウは去っていった。
イワビーは側の木に倒れかかった。
「よかった、命拾いしたぜ」
「よくないよ」
「え?」
目の前にフルルの顔があった。大きな瞳に涙を湛えていた。
「勝手に一人でセルリアンに立ち向かって、危ない目に遭って、無事で済まなかったらどうするの?残された私やペパプのみんなはどうなると思うの?ロックなんてどうでもいい、私はイワビーがいてくれなきゃイヤだよ!きっと他のみんなそうだよ!だって、私たち、仲間じゃない…!」
感情の起伏が表に出ない彼女が今、自分に対して涙ながらに訴えかけている。そして彼女が涙を流す原因は自分にある。
「ごめん…オレどうかしてた」
イワビーは自らの行動を恥じ入る。
「じゃあ、約束。二度と一人で無茶しない。危険なことに首を突っ込まない。守ってくれるよね?」
「絶対に約束する」
イワビーの返答を聞いてフルルは泣き顔をほころばせた。
「フルルは笑っている時が一番かわいいな」
「イワビー…」
「それからわりぃ、肩貸してくれよ。もうボロボロなんだ」
返事を聞かずにフルルの肩に腕を回すイワビー。
もう、と苦笑しながら受け入れるフルル。
「フルルの体ってあったかいよな」
「その言い方なんかいやらしいよ」
「どこがだよ…何でお前はそういうことには詳しいんだ」
結局この一日でイワビーが『ロック』の正体を掴むことはかなわなかった。
確信したことは一つ、仲間たちに悲しい思いはさせられないということ。そんなのは絶対に『ロック』じゃない。
いつのまにか陽が沈んでいた。けれど焦ることはない、生きてさえいればきっと明日も太陽が昇るのを見られるのだ。
ロックってなんだ!? 荒野豆腐 @kouyadouhu
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