第3話ミステリー小説の舞台について

 ミステリー小説の舞台についてなのですが、まあ此処も範囲の広いミステリー小説としてしまうと際限がなくなってしまうので、一般的に認識されている辺りの推理小説の舞台ということで書いていきたいと思います。


 前項で書いたと思いますが、推理小説には色々な種類があります。紹介していない推理小説の区分で社会派とかトレインミステリーとかもあります。社会派の代表的な存在には、松本清張氏の、点と線などがありますが、現実世界のリアリティーを感じさせる作風というのが特徴になります。私も五十冊位読んでいる西村京太郎氏のトラベルミステリーも社会派の一つになりまして、トラベルミステリーに関しては列車に特化した社会派ミステリーという区分になると思われます。時刻表や駅などの描写は現実世界の物と同一の物が使われる事になります。




 社会派ミステリーの特徴としては密室などは殆ど出てこなく、主にアリバイトリックを主体とした作品が多いように思います。西村京太郎氏のシリーズでは、特に日本海殺人ルートなどが時刻表を上手く使ったアリバイトリックが素晴らしかった記憶があります。また東野圭吾氏の容疑者Xの献身のトリックも凄いと唸らずにはいられないものでありました。



 ただ社会派は現実の舞台を使用してそのリアリティーを感じさせるが故に、舞台は現実の物になってしまいます。東尋坊とか京都とか現実の町や名所が魅力的であれば、舞台は魅力的になりますが、場所に限りがあります。また先人の方々が書きつくしているのでどうしても二番煎じになってしまいます。なので社会派ミステリーを書く場合には舞台より、トリックなどに力を入れて書く必要があるのではないかと思います。



 では一度社会派ミステリーから離れて本格ミステリー小説に話を移したいと思います。本格ミステリーに関しては舞台は重要なギミックになると思われます。外の世界から隔離されたクローズドサークル。隔離されていなくても魅力的舞台である洋館、世俗から切り離された村とか、舞台が魅力的であればあるほど、作品は魅力的になってくると思うのです。ただ、これも先人が多く、島の洋館とか、吹雪の山荘とかは、掘り起こせばそのような舞台の小説は数限りなく出てくるのではないかと思います。ミステリーマニアにはそのお馴染みの舞台を好む方も居るとは思いますが、更なる刺激を求めて、そのお馴染みの舞台では満足出来なくなってしまう方々も居られるかと……。


 そんな背景もあり、新本格ミステリーと呼ばれる辺りの作品では、変人が建てた奇妙な建造物などが登場してくる事になります。正直これは現実世界にないものですから、一応無限に作り出す事が出来ます。日光江戸村にある怪怪亭みたいな館でも良い訳です。ただこれも人が考える事なので、無限に作り出せる要素はありますが、ある程度で似たような物までしか生み出せなくなってきてしまいます。そして現実世界との乖離の問題が生じてきます。余りに突飛な建造物になりすぎると舞台として納得してもらえなくなってきてしまうのです。そんな建造物は非現実的だとか、消防法上建てられないだろう、とか突っ込みを入れられる事になってしまう恐れが出てきてしまうのです。


 最近増えてきたファンタジーの世界での推理小説というのがあります。ファンタジーとの線引きは難しいですが、新しい物を作り出すという上では、ファンタジーという魅力的な舞台を利用するというのは面白い試みだと思います。消防法などはありませんからそれこそもっと魅力的な舞台を用意する事も出来るでしょう。個人的にそういう試みは好きなのでとてもいい事だとは思います。しかしながらミステリーマニアには受け入れられなさそうな気が少々します。ミステリーマニアは新しい刺激を求めていますが、概念的な物に細かいような気がするのです。魔法が使えたりする世界観だと、ノックスの十戒における、探偵方法に超自然能力を用いてはならない。とか探偵は偶然や第六感によって事件を解決してはならない。とかの項目に引っ掛かるとか云われかねない気がします。



 私個人としては新ジャンルとしてファンタジーミステリーとかという区分を作り、そのジャンルとして確立した方が良いよう感じられます。ファンタジーの読者からすれば新鮮で斬新な物として受け入れられるのではないかと思うのです。


 さて、本格ミステリー小説における舞台として、魅力的な舞台というものが行き詰ってきているのを感じずにはいられませんが、ただ掘り出せば実際はまだまだあると個人的には考えます。先人達が手を付けていない新しい舞台。例えば、日本の中でピラミッドそっくりに建てた邸宅とか、同じように、日本の中でタージマハルそっくりに建てた邸宅。トルコのブルーモスク風に建てた建造物とか、まあ一応東京ジャーミーというモスクが代々木上原にありますが、そんなありそうでない建造物をミステリーの舞台に添えるというのは今までには余り無いのではないかと思います。個人的にはモンサンミッシェルそっくりな施設での殺人事件とかを書いてみたいと思ったりもします。


 兎に角ミステリーにおける舞台は重要なギミックになります。魅力的な舞台で繰り広げられる殺人事件を書いたり読んでみたいと思うのです。


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