二月二二日

 森林地方に到着。島の長であるコノハ博士と対面した。アフリカオオコノハズクのフレンズ。彼女だけは、まだ人間がここにいた頃からジャパリ図書館で働いていた。いや当時はまだ元のアフリカオオコノハズクだったかな。私とも面識はあったはず。でも私がミライだとは最初分からなかったみたい。

 料理当番のヒグマが出かけて私がヒトだから料理を作れとか理不尽なこと博士から言われて、野菜炒めを作ってあげたのに、ダメ出しされてしまった。「料理」ってカレーのことだったんだって。いつからそんな意味になっちゃったの? それで作り直し。でも私は料理が苦手だからスパイスから調合するのがどうも上手くいかなくて、博士たちの口に合わずまた作り直し。最後は炊いたご飯を炒めて、さっきのカレーで味付けして、適当に香辛料をぶち込んだらドライカレーらしきものが出来た。これは気に入られた。でも二度と同じものを作れる自信がないから次を求められたら逃げよっと。

 ジャパリ図書館は、観光客向けにテントの立て方から火のおこし方、料理の仕方といったキャンプ情報を提供するとともに、フレンズ向けに知識を得るための仕組みとして利用してもらう施設だった。もっともフレンズは訓練しないと文字が読めない(それはヒトだって同じだけど)から、コノハ博士やミミちゃん助手が口伝で「智慧を授ける」。ちなみにこの言い回しはコノハ博士自身が使っていたもの。

 ジャパリ図書館には、パークを運営する私たち人間の立場で使う別機能もあって、ラッキービーストが収集した情報を集約するセンターにもなっている。もっとも、システムは稼働こそしてはいるもののデータの更新はされていないようで、ラッキービーストのパーク内の知識が古いのはそのせいみたい。放置されたままのシステムが今も動いていること自体が驚異的なんだけどね。

 そういえば私が昔ラッキービーストに覚えさせていた音声メモは他の個体と共有されてはいなかった。一個体がローカルで保存したままになっているようだ。


 さて、ここからが本題。博士の話によると、今ヒトのフレンズが私たちを入れて四人いるらしい。皆同じ外見。同一種の別個体がフレンズ化することは珍しいのだけど(でも無いわけではない)、ここまで同時期に何人も見るのは博士も驚いたみたい。ヒトのフレンズの一人が「かばん」。もう一人はやはり一年ほど前に、森林地方に棲むニホンオオカミが山の中で発見した子。「ゆみ」という名前で、今はニホンオオカミと一緒に「かばん」を追ってゴコク地方へ旅してるらしい。もしかしたら今は「かばん」と「ゆみ」は一緒にいるかも知れない。そして私と大石くん。これで四人。ただ、フレンズ化する前の記憶を保持してるのは私だけみたい。何が違うのだろう‥‥フレンズ化の状況の違い? それとも“材料”の違い?

 そういえば、「ゆみ」と一緒にいるニホンオオカミもフレンズ化の前の記憶が無かったと博士が言っていた。ニホンオオカミは私が生れたときには既に絶滅していて剥製しか残ってなかったから、そのうちの一体がニホンオオカミのフレンズに変わったようだ。昔ニホンオオカミ展をパーク内でやろうと企画したことがあって、もしかしたらその際に持ち込まれた剥製が完全退去時のどさくさで放置されてしまったのかも知れない(この件については、私が担当者でなかったので帰って調べてみないとだけど)。少なくともここで言えるのは、生きている動物でなくてもフレンズ化する可能性はあるということ。そしてその時は、どうやら動物の頃の記憶が残らないこと。


 残念ながら、ジャパリ図書館にあった通信機はすべて壊れていた。

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