よぼうせっしゅ
@ytd
第1話
「カバン、手伝ッテ 欲シイ 事ガ 有ルンダ。」
あれから2週間ほど経ったころ、ラッキーさんが頼みごとをしてきた。
やることがない訳では無いが、船出も「いつか」に延期された今、急ぐ用事も無い。何より他でもないラッキーさんの頼みだ。協力してあげたいと思う。
「はい、僕でよければ力になりますよ。」
僕は、ラッキーさんに返事を返す。今にして思えば安請け合いだったと思う。
「アリガトウ、カバン。カバン二 手伝ッテ 欲シイ ノハ―」
====
「おねがいなのだ!許して欲しいのだ」
僕とサーバルちゃんに押さえ込まれアライグマさんは身じろぎ、絶叫し、涙ぐむが、それ以上の抵抗は叶わぬようだ。
「助けてくれなのだ!フェネック!!」
「アライさーん。大人しくしなきゃダメだよー。天井の染みでも数えてればすぐ済むからさー。」
フェネックさんに助けを求めるも、フェネックさんはこちら側だ、というかむしろ何故か嬉しそうですらある。
「ハーイ チクット シマスヨ」
ラッキービーストさん(ラッキーさんとは別の個体)の腹部から鋭利に尖った針状ものが飛び出し、それが徐々にアライグマさんめがけ近づいてくる。
「のだー!!」
僕が抑えているアライグマさん二の腕にその針が刺さった。
ビクン、とアライグマさんの体が跳ね、それからぱたりと動かなくなった。
「頑張ったねーアラーイさーん。」
フェネックさんは動かなくなったアライグマさんの頭を撫ではじめた。
「アリガトウ、カバン、次デ 最後ダヨ。 頑張バロウネ。」
なんでもラッキーさんが言うには、これは「よぼうせっしゅ」というもので、フレンズさん達が病気になるのを防ぐことができるらしい。
事前にそう説明するのだが、フレンズさんたちの中には酷く抵抗する方達も多い。
中には、野生開放まで使って抵抗する方や、「フレンズのわざ」を使って体を針が通らない程固めたり、姿を消したりする方も居た。
そんなフレンズさんたちに、僕は、朝から夕方に至るまで、あらゆる方法を使って、なんとか「よぼうせっしゅ」を受けるお手伝いをしているのだ。
アライグマさんのように力で抑え込める方はむしろ楽な方だと言っても良いだろう。
それも次のフレンズさんでようやく、終わりのようだ。
「最後ハ サーバルダヨ。」
ラッキーさんが、最後に「よぼうせっしゅ」を受ける者の名を告げる。
サーバルちゃんは、今日は一日僕を手伝ってくれたが、そういえば、まだだった。
「サーバルちゃん、それじゃあ―」
僕はサーバルちゃんの居る方へと声を掛け、顔を向け―、
いない。
先ほどまでそこに居たサーバルちゃんは忽然と姿を消していた。
いや、いた、猛ダッシュで遠くに走り去るサーバルちゃんの姿があった。
====
「あちらへ逃げたのです。」「回り込むのです。」
日もすっかり落ちた現在。逃げたサーバルちゃんを捕まえるべく島中のフレンズさんたちが追跡中だ。
あれからそれなりに追いかけっこが続いているが、中々捕まえられない。というのもサーバルちゃんは抜群に逃げるのが上手かった。単純に足が速く、また、耳や鼻がよくこちらの動きを事前に勘付かれてしまう。さらに木や崖を使って立体的に逃げ回り、おまけに(僕と旅をしたせいで)島中の土地勘にも長じ、今やこの島で最強の逃亡者となっていた。
「見失ってしまったのです。」「のです。」
ハカセさんたちの追跡までも振り切ってしまったようだ。
これはもう、追いかけっこでサーバルちゃんを捕まえるのは不可能かもしれない。
しかし、あきらめるわけにはいかない。ラッキーさんが言うには「よぼうせっしゅ」を受けることが出来ないと、大変な病気に罹ってしまうかもしれないのだ。ラッキーさんから説明時に投影されたグロテスクな画像の数々が頭をよぎる。
「…お疲れさまです。」
ハカセさんたちに声を掛けつつ、僕はサーバルちゃんを捕まえる方法を必死で考えている。
追ってダメならば…罠を仕掛けて…においで看破されてしまうだろう。だめだ、いい方法が思いつかない。
どうすれば、どうすれば、
「―わっ」
頭を使うのに夢中になって転んでしまった。本当に僕はどんくさい。
擦りむいたひざこぞうが赤く滲んでいる。
痛みと焦燥感からじんわりと目が熱くなってきた。
「かばんちゃん」
背中からの声。
「大丈夫?いたいの?」
声が正面に回る。
僕は眼前のぼやけた影に抱きつく。
抱きついたそれで目を拭う、視界がはっきりとした。
「サーバルちゃああん」
見慣れた、大きな耳と、絶妙にアホっぽい、優しい顔がそこにあった。
「今ダヨ」
「ミッ!」
僕に抱きつかれ、身動きが取れないサーバルちゃんにラッキーさん(別)が針を突き立てた。
よぼうせっしゅ @ytd
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