第五十五話


それからの事は、あまりにハチャメチャで、ここまでしてきたことを忘れてしまうくらい衝撃的だった。


ミャコだけじゃなく、えっちゃん、セイルさん、ディノとユーミ。

みんなへとへとのくたくたで。

寄り添い助け合いながら、ウルガ王のいるシノイの町へと向かったのが運のつき。


ミャコたちは……特にミャコは、一生涯忘れないだろうってくらいの拍手喝采、歓声に迎えられることになったからだ。



コドゥもナヴィも関係ない。

町じゅうの人や、王の警護と花のドリードと戦うために集まっていたという水の国の兵士たち全てが、町に辿り着いたミャコたちを待っていた。


しかもいつの間にやらどこで知ったのか、口々にミャコの名を、みんなの名を呼び拍手を送る。

それは決して嫌な雰囲気ではなかったけれど。

何がどうなってるのか分からなかったから、すごく怖かった。


どうしたらいいか分からなくなって、思わず泣きそうになって。

いっそのことまた、意識の内の世界に逃げてしまおうか、なんて思ったとき。

そんなミャコたちを助けてくれたのは、ウルガ王とガブリエ王子だった。



ミャコたちは、今にも取って食われるんじゃなかろうかって群集の中、何とか彼らに連れられて。

事が終わるまで使っていたという宿屋の一室に案内された。




みんなが部屋に入っても余裕な広い、町一番の宿屋のその一室。

温和な王と、実はそれが一番衝撃だった……王にそっくりの、ミャコの記憶とはまるで別人の優しそうな王子は、そこで思わず卒倒してしまうくらいありえないことを語りだす。

まぁ、言葉通り卒倒しちゃったわけだから、あんまり細かい事は覚えてないんだけど。



一言でいえばミャコはこの世界をつくり、救った神になってしまったらしい。

当然、神様なんて言うくらいだから、今ではみんながミャコのことを知っていると言う。


その人となり。

思うこと。

今までなしてきたこと。

みんなが知ってて、しかも感動して共感しているというのだ。

そんな恥ずかしいことあるわけないじゃんって断固主張したかったミャコだったけど。

まさしくそれを証明するかのようにガブリエ王子が見せてくれたのは……二冊の本だった。



タイトルは『臆病風の冒険』。

続き物らしく、背表紙にはそれぞれ1、2と書かれていて。

勧められるままにそれを見て、ミャコは愕然とした。


まず手に取ったのは、出たばかりだという2巻。

その物語に出てくる主人公の名前が臆病風のナビィであるということを除けば、

それはミャコがこの世界に来てから水の国に来るまでのほぼ全てのことが余さず記されていたのだ。

しかも心を覗かれてるんじゃないかってくらいミャコの心の中まで詳しく。

それだけでも恥ずかしいを通り越して天に召されそうだったけど。



かなり昔に出たという1巻はもっとひどかった。

何故なら、今の今まで語ることのなかった、誰も知るはずのない前の世界のミャコのことが書かれていたからだ。


後悔ばかりの悲しい話。

まるでずっとミャコの隣にその作者がいたみたいに。

あるいはミャコ自身が書いたみたいに、それは記されていて。

一緒にそれを拝見したみんなが、貰い泣きしていて。

得体の知れない恐怖とともに、何だかミャコも泣きたくなったけど。


衝撃の事実はまだ終わらない。

少なくとも、この本だけならその主人公がミャコだとは知らない人なら分からないはずだったのに、今回の水の国で起きたことで、その主人公がミャコなのだと知られてしまったのだという。


何故してそんな殺生なことが起こったのか。

それは町の広場にある、ヴルックの力によって作られた、大きな鏡のせいらしい。

そこには、ミャコとその仲間たちの活躍がリアルタイムで展開されていたのだという。



「悲しい風のナビィの物語は、小さい頃によく読んだよ。……今考えれば世界を支えてくれるナビィのみんなを大切にしようって戒めの物語だったんだろうね。その待望の続編が出て、今回の件で初めてこの物語の主人公が実在してるって知ったんだ。礼を言わなきゃならないな。今回の件も、弟の件も」


まるで憧れの人物を見るようにそんなことを言うのは、もはやすっかり別人のガブリエ王子で。


「もうすぐ三巻が出るらしいのう。今回の件が本になるということは、いよいよわしらも登場するわけじゃな。今から楽しみじゃわい」


同じ憧れを見るような目。興奮した様子でそんなことを言うウルガ王。



「にゃ~っ! 誰よっ、こんなの書いたのっ!!」


だからミャコがそう叫びたくなったのも当然の帰結で。

話の流れは、作者って誰なんだろうってことと、探してとっちめてやる! って展開に移行する。



「……アキヨ・シリヴァだって、ミャコ」


そして、1巻に感動しきり? だったえっちゃんが、ぐすぐす言いながら作者の名前を読み上げて。

なんていうかそれは、偽名にもならない分かりやすすぎる名前で。


「確か、事が終わったら一度落ち合う手はずになっていたはずだよ。私の宿屋に、アキたちとはね」


セイルさんの心底楽しげなその一言に、今後のミャコたちの指針が決まったわけで。


ミャコと同じように物語の、新しき神の仲間として有名人になってしまったディノとユーミをみがわ……じゃなかった、この場を任せ、冷めやらぬ観衆の目を避けるようにして、ミャコはセイルさんとえっちゃんとともに、ヤーシロにあるセイルさんの宿屋にやってきたんだけど。



そこには……アキの姿はなかった。


その代わりにマイカとアズミズ、この世界では初めて会うカコとコウの姿があった。

どうやらここにいるみんなは、アキに先に水の国へ行っている、なんて言われたらしい。


そんなみんなも、ミャコたちと同じくらい世界で有名人の人気者になってるらしくて。

一人が好きなコウはほとほと困り果てていて。

そう言うのが嫌いじゃないカコは喜んでいたけれど。


それは、よくよく考えてみると、レイアとしてその身に危険を感じながら生きる必要がなくなった、というわけで。

ある意味、ミャコのほんとの願いが叶った、とも言えるわけだけど。



こうしてみんなで集まってお互いの紹介をするよりも早く、ミャコには非常に気になることがあった。


それはカコの肩、コウの肩、そしてセイルさんの肩にそれぞれ座しているルーシァ? のことで。



「ねえミャコ、私気づいたんだけど、ルーシァの胸のとこにあるまるいのって、これとおんなじ?」


えっちゃんが、ルーシァから借りた不思議な鏡を取り出し、そんなことを言う。

言われてみればそうだと納得して。


考えついたのは一つの結論だった。

シノイの町にあったでっかい鏡に映されていたというミャコたち。


一体それは誰が映していたのか?と。

たぶん、その時のみんなの心は一つになってただろう。


それに気づいたのか、その瞬間。

めぇめぇ鳴いてルーシァ? のそれぞれが別々に一目散に逃げ出していって……。



            (第五十六話につづく)







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