第五十話



レイアの持つ命のキセキ。

正しく使われなければ世界が壊れてしまうこと。

ミャコたちがアキの予言の力をもとに、他のレイアたちを助けて回ってること。


レイアに迫る危機、それはディノだけじゃなく、光のレイアであるユーミも同じであること。

ミャコたちは、ディノに今まで会ったことを余すことなく、だけどかいつまんで話してみせる。




「……自分のさだめを変えられるのは自分自身だけですわ」


危ないところを助けられたことに拗ねているというか、プライドにきたのか、一通りの話を受けて、初めにディノが口にしたのはそんな言葉だった。


ただディノのプライドっていうのは、ちょっとひねくれてて……

それは、自分一人でもやれました、的なものではなく。

どちらかというと、こんな自分のために何故こんな労苦をって感じなのだ。


よく言えば自己犠牲が強いというか、悪く言えば卑屈すぎるというか。

一見プライド高そうで実際お姫様みたいなもので、口調も含めて高飛車な印象を受けるのに、よくよく見るとその中身は全く違う。


どうにも扱いづらいと言うか、落ち込みがちなミャコといると、二人して卑屈の底に転がっていっちゃうから、ウマはあうけど、ちょっと苦手な相手でもあった。


だけどそんなディノだから、アキの予言のこと、ミャコたちがここにいる理由については快く受け入れてくれた。

騎士として本来仕えるべきであるユーミにも危機が迫っているわけだから、ディノが協力してくれるのは、ディノにとっては当然なのかもしれないし、ミャコたちとしてはもちろん助かるんだけど。


問題というか、どうにも戸惑ってしまうのは。

その一番の理由が、ミャコとディノの言う新しい神だと何故か思い込んじゃってる点だろう。

違う、知らないでは埒があかないので、今度はそんなディノの言い分を聞いてみることにしたわけなんだけど。



ディノが言うには、新しい神と言うのは、ディノが城を離れるよりも大分前からウルガ王が懇意にしていた水の国の客人……相談役だったのだと言う。

王がいつ、どこでその神と名乗る人物と出会ったのかは分からない。

だが、ウルガ王が全幅の信頼を置き、いつも側に仕えさせていたその人物は、どうにも不思議な人物だったらしい。


何故かいつも背中だけ開いた全身鎧を着ていて、その背中には黄金の縁取りがなされた大きな翼があったのだ。

声からしてナヴィ、ミャコと同じ風のナヴィではないかと囁かれたが、本人は自分は神であるの一点張り。


ディノはそんな彼女が、どうにも腑に落ちなかったそうだが。

ユーミも、ユーミの兄であるガブリエ王子も、そんな彼女に心を開いているようだったので、特に深くは考えなかったそうで……。



「そうですね。ちょうどセイル様の肩上におられる方、あなた様と同じようなお姿でしたわ」

「めぇー?」


そんな話の途中で、ディノはルーシァもどきの羊さんに視線を向ける。



「でも、翼はミャコのとおんなじなんでしょ?」

「ええ、そうですわ。ですからミャコ様が新しい神様であると、わたくしは思ったのです」


ミャコはそう言うみんなに視線を向けられて、ちょっと考え込む。

違う、知らないって否定はしてきたけど、確かにミャコはそうなるためにアイラディア様に翼を託されたわけだし、そのためにみんなの命のキセキを集めていたのだ。

その事を考えると、確かに辻褄があっているような気がしなくもないミャコである。


だけど違うって思ったのも確かだった。

かつての世界から、今の世界へとやってきたミャコ。

そんな世界を移動したり、あるいはやり直すなんて力はミャコにはないわけだから、ミャコにそれをした誰かがいるのは確かなんだろうって思う。

今までは、それをしたのもアイラディア様だと思っていたけど……。



「同じ翼ね。ところで、騎士さま。子猫ちゃんがその新しい神だと信じた理由、

他にもあるようなことを言っていたけど」

「ええ、もちろんですわ。わたくしが確信したのはむしろそちらほうかもしれません」


すると、ディノは深く深く頷いて。

ミャコがその新しい神様であると思ったもうひとつの理由を話してくれた。



神と名乗ったその正体不明のナヴィは、先に語る通り、水の国の客人にして王の相談役だった。

何でも彼女は、起こる未来を見る力があったのだと言う。

水の国は、世界は彼女の助言で画期的なほど豊に平和になったのだそうだ。

世界がナヴィにもやさしくなった、そのきっかけだろうウルガヴ法ですら、元々は彼女が考え出し、王が世界に広げたものなのだと言う。



「広場に、とても大きな鏡のようなものがあったでしょう? あれもその方が王に頼んで作らせたものなのです。お伺いを立ててみても、何に使うのかまではウルガ王さまは教えてくれませんでしたけど」


ディノは、一通り話し終えた後、そう言ってミャコのことを見た。

それは、ディノがそうだと思い込んでる彼女が、ミャコだからなんだろう。


未来を見る力。

かつて体験した世界の記憶が、この世界に起こったことを示唆しているとするならば、確かにミャコは、未来を見てるってことになるんだろう。



ミャコはえっちゃん、そしてセイルさんと顔を見合わせる。

どうやら二人ともミャコと同じ意見のようだった。

ディノの言う新しい神、それはミャコなんかじゃなくて。

もしかしたら……アキのことを言ってるんじゃないだろうか、って。


ミャコがそう口にしようとした時。

なにかの危機を知らせるかのような、鐘の音が遠くから響いてきたのは。




「この音は……まさかっ!?」


それが何を知らせるものなのか、分かってるらしいディノは話もそこそこに血相を変えて聖堂を飛び出していく。

頷きあい、その後を追いかけるミャコたち。



聖堂を出たディノが神殿の裏手に回ったのが見えたので、すぐさまその後を追いかける。


神殿の裏手を抜ければ、そこはウルガヴの国まで続く街道のある町の出口だった。

すぐに視界が開けて、広大な緑の大地と青空、その半ばに大きなお堀に囲まれた水の国が見えて。



「……なんてこと!」


驚愕の呟きのままディノが見上げるのは、その上空だった。

そこには、ここへ来たときに見た黒い雲がある。

水の国の陽のあたりを塞ぐように。



「……あっ」


すぐ近くでえっちゃんの声。



「ま、まさかあれが全部?」


そう言うセイルさんの声も、心なしか震えているように思えて。

黒い雲だと思っていたそれ。


それは、雲じゃなかった。

端から細かくばらけて、水の国めがけて降っていくのが分かる。

急降下していくのが分かる。


まるで終わらない雨のように。

空舞うことのできる黒い何かが、水の国を闇色に染めようとしていた……。



             (第五十一話につづく)






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