第四十五話



「ふむ、新しい子もいることだしね。改めて名乗っておこうか。私はセイル・ガイアット。華麗なる地のレイアさ。可愛い子たちの味方だ。その胸にしっかと刻み込んでおいてくれたまえ」


そんな事を考えていると。

セイルさんはノリノリで高笑いなんぞしながら、どうどう名を名乗った。

レイアであることを怖がって話さなかったミャコを笑い飛ばすかのようにあっさりと、豪快に。


ミャコはそんなセイルさんに思わず笑みをこぼしてしまう。

それは、ガイアットの人はみんなセイルさんみたいだって噂を思い出したせいもあったけど。


「アズ・アーヴァインだょ。よろしくっ!」

「ミズ・ピアドリームです。えっとその、よろしくです」

「マイカ・エクゼリオだよ。……強そうだね、お姉さんも」


それに初顔合わせの三人が、ならって名を名乗る。

アズは元気一杯に、ミズはおどおどと、マイカは実に楽しそうに。



「ふふふ、ああ。よろしくしてくれたまえ」


それを受けてセイルさんは、本当に満足そうな笑みを浮かべる。


そんなわけで、改めてセイルさんがミャコたちの『世界を救う旅』その仲間に加わることとなって。


ちょうどきりよく? 8人となったミャコたち。

残った4人を助けるために、2組に別れて行動する。

そう事がうまく運べばよかったんだけど。

ミャコたちには、徒歩以外の移動手段が、ルーシァの『ブルバドゥ』しかなかった。


そこで、よりにもよってもう一つの移動手段として挙がったのが、なんとミャコだった。

とはいえ、風の力だけじゃそんな長時間、尚且つみんなを乗せて運ぶなんて真似ができるはずもなく。



「ええっ、ミャコを? 無理だよ、そんな」


何言ってるのって顔をアキに向け、そう言う。


「翼を使えばいい。ミャコは翼あるもの、なんだから」


だけど静かに、アキにそんなことを言われて。



「……そ、それは」


ミャコは違う意味で言葉を失ってしまった。

それを背中につけることの重さと、それを背につけて飛ぶミャコのことを、見たことのないはずのアキが、まるでそれを知っているかのような口ぶりをしたからだ。



「……覚えているか? 翼あるものに会いに来た、ルーシァがそう言っていたことを」

「あ、そっか。そう言えばミャコさんの時の予言の一文、ちゃんと聞いてなかったよね。エミィさんの件で曖昧になっちゃってて」


ミャコがそんなことを考えていると、畳み掛けるようにアキが、ルーシァが、そんな事を言う。

ミャコはルーシァの言葉に、そう言えばと改めてアキの顔を伺う。


「重いさだめを背負いし翼あるもの。孤独とともに哀しみの空へと落ちてゆく。

……それがミャコ、君に下された予言だった」


歌うように言葉を紡ぐ、アキの言葉が心に響く。

それは、その通りだったからなんだろう。

前の世界でのミャコのことが、ありありと思い浮かんで。



「そうだね。覚悟はしてたはずなんだけど」


ミャコはアキの言葉を受け、ちょっと自嘲気味に笑うと、道具袋からその翼を取り出した。

アイラディア様から授かった黄金の縁取りがされた白い翼。

他のレイアの命のキセキを奪うことのできるもの。


この世界に来てから……ミャコはそれが怖くて、背中に負うことができなかった。


命のキセキは、その宿主が死んでしまうことで、その膨大な力の行き場を失い、世界を壊す。

だからその前にミャコがその力を奪い、翼にしまう。


それがミャコの使命。

アイラディアの死神なんて言われるようになったことへの始まり。

ひとたびそれを背に負えば、ミャコの大切で大好きな人たちがその命を散らしてしまうんじゃないか。


……それは、結果じゃなくミャコの思い込みにも等しかったけど。

ミャコにとっては、避けようのない事実だったから。

今の今までそれを背に負うことはなかった。


覚悟できてるって言いながらも、ミャコは逃げてたんだと思う。

この翼を背負えば、アキの予言通りに、一度体験した悲しいことが起きてしまうんじゃないかって。


だけど今は、そんな事言ってられないんだろう。

その宿命を負わずとも、かつて悲しいままに遠くへ行ってしまった子たちが、同じ運命を辿ろうとしている。


背に腹は変えられない。

そう思い、翼を背につけようとして。



「っ、ちょっと待ってくれ。ミャコは勘違いしている。覚悟って……何故今になってあえて口にしなかった君への予言を口にしたと思っているんだ?」


珍しくアキの慌てたような、うろたえているような声。

ミャコは思わず手を止めて、そんなアキを見る。



「……そもそもそれを口にしなかったのは、口にしたらミャコが私たちの前から逃げてしまうんじゃないかって、そう思ったからだ。ミャコは、自分が翼あるものだと言うことを隠したがっていたからだ」


しかし、その口調はすぐに落ち着いていて。

自分自身のみならず、ミャコにも落ち着きを取り戻させようとする。


落ち着いて考えてみれば。

何故今になってその話をするんだろう、というのは確かにあった。

まぁ、アキの言う通り、いきなりそんな予言の話をされたら、臆病なミャコは逃げ出してたかもしれないけど。


「だから私はあえてそれを口にしなかった。だから言わずに予言によって起こることを防ぐことにしたんだ」


一体、どうやって?

そう言わずとも、ミャコがそう聞きたがっているのが、アキには分かったんだろう。

アキはちょっと呆れたような、淋しそうな、そんな顔をする。


「気付いてもらえなかったのはちょっと悲しいな。ミャコは今まで、決してひとりじゃ……孤独じゃなかっただろう?」

「ミャコ、つれない」


苦笑のアキ。

そう言ってさりげなくミャコの手を掴むえっちゃん。



「っていうか三日ルール忘れてるよミャコさん。ミャコさんはとっくに起こるはずだった悲しいさだめから外れてるってことをさ」


そして、決定的な補足をルーシァが口にして。



「あ……」


ミャコはようやく理解した。

ミャコに下されたという予言による悲しい結末が、ミャコの知らないままに代えられていたということに。


アキやルーシァ、セイルさんにえっちゃん、マイカとアズとミズ。

みんなが側にいてくれたことで、抱えていた宿命を語ることで、救われていたというその事実に。


目が覚め、陽光昇るような気持ちになって。

ミャコは改めてみんなを見渡す。



「……ありがとう」


一人ぼっちなんかじゃない。

それをはっきり伝えてくれるみんなの笑顔。


ミャコはひとつだけ涙をこぼして、だけどすぐ同じ笑顔を浮かべて。


そう言葉を返したのだった……。


            (第四十六話につづく)







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