第四十四話
そんなこんなで、ミャコとルーシァなんかずぶ濡れだし(水の国のローブだけあって、スケスケにならないですんだのは助かったけど)、そうは言ってもちょっとは休みたいなぁなんてぼやきつつ、アキが寝てるという『ブルバドゥ』のある入り江まで戻ってきて。
「あれ、アキ様起きてる?」
身体を起こし、じっと虚空を見つめたままのアキを見て、不思議そうにルーシァが首を傾げる。
微動だにしないアキの瞳は、どこか切羽詰っているようにも見えて。
そこはかとなく嫌な予感のするミャコだったけど。
「……予言が下された。それも、三つ同時にだ」
その嫌な予感は、戻ってきたミャコたちに気付いて発せられたアキの言葉で、確信めいたものへと様変わりした。
「予言って、今回の件と同じようなのってこと?」
『ブルバドゥ』から少し離れた場所で火を焚いて、それをみんなで囲むようにして話し合いの場をかためた後、初めにそう聞いたのはマイカだった。
「ああ、そうだ。たった今……まだ会っていない4人のレイアの命の危機を知らせる予言が下された」
4人……ここにいないセイルさんを除けば、残った全てのレイアの数に相当する。
「そんな、一気に4人も? こんなこと今までなかったのに」
フルアーマーを着込み、ようやく定位置に戻ったルーシァだったけど。
その表情見えなくとも、言葉通りそれがありえない事態であることがよく分かるほどに、その声は重く沈んでいる。
「今度のはどんなの?」
そんなルーシァの代わりに、先を促すようにえっちゃんが聞いた。
アキはそれに重々しく頷き、歌うように言葉を紡ぐ。
「……雷の魂を宿したサーカスの猛獣使い、光の使いと手を取り、永久の見世物と化す。……孤高の炎、強き魂を持つもの。孤独の残酷さを知り、物言わぬ氷の彫刻と化す。……水の国の騎士、守るべき光の王女を守ることも叶わず、その剣を折る。偽りの神をあがめる狂信者の手によって……」
「……」
長く重い、永久に続くような沈黙。
だけど、アキの口から紡がれたその予言の中身が浸透してくるにつれて、ミャコはさらに愕然とした。
「そんな……3つともここからじゃ遠いよ。一度にこの数日以内で何とかするなんて」
不可能だった。
誰かを助ける代わりに誰かが犠牲になってしまう。
そう考えたら怖くて動くこともできない。
「遠い……それってミャコ、みんな場所、しってるってこと?」
だがしかし、ふいに発せられたえっちゃんの言葉に、そこにいるみんながミャコに目を向けた。
みんなして絶望の中に光を見た、そんな顔をしている。
「え? そ、それは……たぶん、知ってるよ。雷の猛獣使いっていうのはユーディル大陸で一番有名なサーカス団で花形張ってる、カコのことだろうし、孤高の炎って言えば同じユーディル大陸のカムラル火山に暮らしてるコウのことだと思う。水の騎士は言うまでもなく水(ウルガヴ)の国の聖騎士をつとめてるディノのことだし、ディノが仕えてるのが光のレイアにして水の国の王女の……ユーミのことじゃないかな」
今更もう、何で知ってるのかなんて考えてる余裕なくて。
指を折々、ミャコはそれに答えた。
ミャコはその言葉に間違いないよねって強い確信めいたものを持っていた。
何故ならば、アキの予言はレイアの危機を知らせるものだからだ。
ここにいない子でまだ会ってないレイアは、もうその4人しかいないんだから。
「ミャコさん。顔が広いねぇ。さすが翼あるものってところ?」
「ミャコ、友達たくさん、すごい」
そんなミャコを誉めそやすルーシァとえっちゃん。
何故ミャコがそんなにも顔が広いのか、特に疑問に思うことなく各々納得してくれたらしい。
ただアズが、やっぱりって顔で瞳をきらきらさせてたのが、ちょっと気にはなったけど……。
「なんだ、それなら話は早いじゃん。これだけお友達がいるんだもん。みんなで手分けして助けに行けばいいんじゃない?」
「それしか……ないだろうな」
どこか楽しそうなマイカの言葉に、重々しく頷くアキ。
手伝ってくれれば助かるなぁとは思ってたけど、ちょっとびっくりなミャコである。
「手分けって、手伝ってくれるの?」
「何を今更~。もうとっくに巻き込まれてるじゃん。何せもう、帰るとこなくなっちゃってるんだし」
そのびっくりを口に出すと、マイカは心外そうな顔をして皮肉げに笑った。
「ご、ごめん」
「んもう。真面目だな、冗談だよ。つまり恩返しくらいさせてってこと。それにここまで来たらさぁ、レイアが12人全員揃ってるとこ、見てみたいじゃん?」
くすくすとおかしそうに、マイカは笑う。
「だったら善は急げだね、セイルさんにも応援を頼もう」
みんなで手分けして他のレイアたちを助ける。
そう決まったところでルーシァが手を打ち、何やら鏡のようなものを、ルーシァが持つ金の力で、その小さな手のひらに出現させた。
何だろって思って覗き込んでいると、ルーシァが何やら操作して。
それまでルーシァとミャコが写ってた鏡がぐにゃりと歪み、黒くなったと思ったら。
そこには相変わらず妖艶で不敵な笑みを浮かべたセイルさんの姿があって……。
(第四十五話につづく)
「ふふふ。ようやく私の出番のようだね。……おやおや?しばらく見ないうちに可愛い子たちが増えたようじゃないか。うれしいね。さぁ、みんなまとめて私の胸に飛び込んでおいでよ」
ルーシァの珍しい力に、そこにいるみんなが集まってアキにくっつくようにして鏡を覗き込んでいると、セイルさんが本気で嬉しそうな顔をして、腕を広げている姿が見えた。
アキはみんなによってたかられて迷惑そうにしていて。
最近自分自身のことをちょっと自覚したせいか、そんな嬉しそうなセイルさんの心情が分かるような気がしてきたミャコが、いいやら悪いやらだったけど。
「それは後でね。今は緊急事態なの、話を聞いて!」
「緊急事態?……まぁ、私に連絡してくる時点で予測はしていたがね。……聞こうじゃないか」
ルーシァの言葉に、片眉を跳ね上げ、手を下ろし真剣な表情になるセイルさん。
そんな彼女に、ルーシァは今までのことを手短に話して見せて。
「ふむ。一度に3つの予言か。なるほど、のんびりしてはいられないということか」
実に頼もしい笑顔で、そう呟くセイルさん。
だけどその時ミャコは、そんな二人のやりとりに違和感を覚えた。
だからミャコは、話の腰を折ることを分かっていながら、口を開いていた。
「あれ?セイルさん、アキの予言の力のこと、知ってたの?」
「ん?ああ。初めて会った日に聞かされたよ。私の宿から出てはいけない。故郷に帰ってはいけない……ってね。出なきゃ死ぬぞって脅されたのさ。
そう言われると怖いもの見たさに出たくなるものだが、可愛い子の頼みは聞く主義でね。……もちろん、見返りはたっぷり戴いたが」
言ってウィンク。
アキとルーシァがそろって肩を震わせる。
どんな見返りなのかは、怖いから考えないでおくとして。
「そんな話、全然聞いてないけど……」
「あ、そうだった。ミャコさんその日寝たっきり朝まで起きなかったもんね。言い忘れてたよ」
しれっと、そんな事を言って笑うルーシァ。
つれないなぁとは思ったけど、その時のミャコだって二人にたくさん秘密にしていたことがあったのは確かだったから……何も言えなかった。
でも、これで微妙に引っかかっていたことが解決したのも確かだった。
ナヴィ専用の宿を探していたアキたち。
たぶん初めから、セイルさんにも用があったんだろう。
山に登る前にわざわざ泊まったのも、セイルさんに予言のことを話し、ひいてはセイルさんのことを助けるためだったに違いない。
ミャコのことはレイアだと分かってたってことは、セイルさんに対しても当然そうだったってことだから。
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