第四十三話
グォガァンッ!!
「うひゃっ、こ、今度はなにっ!?」
突然の爆発音。
えっちゃんのお気に入りの人形よろしく抱きかかえられていたルーシァが、はっと我に返ってそう叫んだ。
「今の、お城の爆発じゃないよね?」
「うん……聞こえたの海のほう」
「マイカ様っ!」
「今のは、マイカさまだょ、何かあったんだ!」
ミャコの問いかけに、みんなの視線が海のほうへと注がれて。
ミャコたちは再び駆け出す。
すぐにぐっと道が下って、見えるのは海と、上がる黒煙。
それは、死者の水の軍が残した船から上がっているように見える。
もっとよく確かめようと、さらに近付こうとして……。
「船が! 沈んでく……」
先行していたアズが立ち止まり、そう呟く。
追いついてよくよく見れば、確かにその言葉通り4隻の船は沈んでいた。
いや、それは沈んでいるというより、崩れて海に向かっていくみたいに見えた。
まるで、何かに解放され、その役目は終わったと言わんばかりに。
「マイカ様っ!」
と、その船たちがほとんど海の中へと消えていった頃。
船の止まっていた浜辺に降り立つマイカの姿が目に入った。
ミャコは大方の予想通り、やっぱりマイカはじっとしていられなかったらしい。
アキの姿がないことに、ルーシァと顔を見合わせ訝しく思いながらも、再び走り出してしまったアズとミズの後を追いかける。
「あれ? 思ったより早かったね?」
現れたミャコたちを見て、悪戯がバレた子供みたいに舌を出すマイカ。
見ると、そのピンクの派手派手ドレスは、煤にまみれ、あちこちに引き裂かれたような痕があって痛々しかった。
「マイカさま、大丈夫!?」
「マイカ様、お怪我を?」
叫び、突進するんじゃないかって勢いでマイカに駆け寄るアズとミズ。
「ああ、これ? 平気だよ、一張羅はちょっと汚れちゃったけど」
見た目はともかく、まるでこたえていない様子で朗らかに笑う。
だけどそれは、明らかに戦いの後だった。
「一体何があったの? お留守番しててって言ったのに」
無事だったみたいだからよかったものの、思った通りになっちゃったなって内心へこみつつ、ミャコはそう問いかける。
「ん? ちょっと退屈に我慢できなくなっちゃってさ。船でも見にいこうって思ってここまで来たら船にむかつくやつがいたんだよね。多分、煙か何かのドリードだと思うんだけど、偽物の神がどうのこうの言ってて、神に仕える闇の眷族は俺だ、とか言い出してさ、あたしのこと殺そうとしたから……返り討ちにしちゃった、どぉーん! って」
するとマイカは、実に楽しそうに身振り手振りあったことを解説してくれた。
そう言うマイカの言葉に聞き覚えがあって、ミャコははっとなる。
偽物の神に組するもの。
火(カムラル)の名において。
それは、ガルラが言っていた言葉で。
一体どういうことなんだろう?
それは、ミャコたちと喋るドリードの彼らに、それぞれの神様が別々に存在しているかのようにも聞こえるけれど。
「そしたらさ、船が崩れ出して沈んじゃったんだ。多分、あの船とゾンビたちを操ってたのはそいつだったんだろうね。元々船も苔とかすごくて、ずっと昔に海の底に沈んでたやつだったみたいだし……」
続くマイカの言葉は、ゾンビたちを見てミャコが考えていたことと同じだった。
「あれだけの数を操るなんてやるじゃんって思ってたけど、弱かったな~。このことが最初から分かってれば、城も壊さなくてもよかったのかもね」
だけど続いた言葉がやっぱり身も蓋もなくて。
くたびれもうけの骨折り損って言われてるみたいで、さらにへこむ。
「ま、どっちにしても作戦成功ってことだね。あたしも楽しめたし、ごくろうごくろう!」
そんなミャコたちを見て、フォローするみたいにマイカが笑って。
「それはいいんだけどさ。マイカさん、アキ様は?」
たぶん聞きたくてしょうがなかったんだろうルーシァの問いかけ。
一瞬の間。
何だか焦らしてるみたいでドキドキしたけど……。
「あ、そうそうアキちゃんったらひどいんだよ。お話してたら急に眠っちゃって、何しても起きないんだもん。だから退屈になっちゃって」
まるでお留守番できなかったのはアキのせいだ、とでもいいだげなマイカ。
でもなんだ、寝てるだけか。
そう思って安堵しかけて。
「また予言が下されるんだ……」
ルーシァの重い呟きが、辺りに響く。
それの意味するところはつまり。
ミャコたちには休む暇もないらしいといった、純然たる事実だった……。
(第四十四話につづく)
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