第三十五話



そんなこんなでお茶会が始まって。

マイカのことについては、ミャコの中でうやむやになってしまった。


それは、マイカの本当がどうであろうと、マイカが涙こぼすようなことは絶対に止めたいって、そう考えてる気持ちがあったからなんだと思うけど。

それより何より、楽しげにはしゃぐマイカを見ていたら余計なこと考える必要ないよねって思ったからなんだろう。



「ええと、改めてまず自己紹介からかな」


だからミャコは気を取り直して。

集まった面子を見渡し、まずはそう切り出した。



「アキ・リヴァだ。その名の通り時の御名をもつレイアだ……よろしく」


すると、一番手に答えたのは意外にもアキだった。


「やっぱり」

「そうだょねぇ。道理でボクの力がきかないわけだょ。おんなじレイアなんだもん」

「……」


こっちのことを信じてもらうために、正直に話そう。

それは、ここに来る前に決めていたことだった。

それに驚くかなと思っていたけど、アズやミズの反応は思ったよりか大人しいものだった。

それはたぶん、かつてルーシァが言ってたように、二人にも何となくその予感があったからなのかもしれない。


そんな中マイカは、名乗ったアキをじぃっと見つめていた。

それはアキも同じで。

まるで睨み合いのようにずっと続きそうにも見えたそれは、しかしすぐにカタがついた。


ルーシァやえっちゃんが、それに続いて自己紹介をしたからだ。

そうなってくると、必然的に次はミャコの番なんだろう。


マイカやアキだけじゃなく、みんなの視線が集まってくる。

アキたちまでミャコに視線を向けているのは、ミャコがほんとのミャコのことをちゃんと言えるかどうかってとこなんだろう……たぶん。



「ミャコ・ヴァーレストだよ。風のレイアで……翼あるものとか、アイラディアの死神って呼ばれてる」


マイカたちがミャコの正体を知ってどんな反応をするのか。

正直見当もつかなかったけど。

後ろめたいまま黙ってるのはもう嫌だったから、思い切って全てをぶちまけた。


前の世界では、まともに言うことすらできなかったこと。

慣れってのはちょっと怖いなって、そんな事を考えてたミャコだったけど。



「ふぅん? 翼もないのに翼あるものなの? 変なの」

「そうやって自分にあだ名つけるの、はやってるんですか? 正直死神というのはあなたのイメージじゃないような気がしますけど」

「二つもなんて欲張りだなぁミャコちゃんは。でもよかったぁ~。あたしもね、『魔王』って言う通り名を使おうかどうか、迷ってたんだよ」

「……あれ?」


ミャコはさっきと同じ、でも意味合いは全然違う、拍子抜けした呟きをもらしてしまう。

これは盲点だったっていうか、三人の反応を見ていると、翼あるもののことを知らないんだってうかがえる。



「よし、今度はボクたちの番だね! ボクはアズ・アーヴァイン! 月のレイアで……かっこいい通り名を考え中だょ」

「えっと、ミズ・ピアドリームです。御名の通り木のレイアで、アズちゃんとは生まれたときからの付き合いで、マイカ様とは……」

「二人が可愛かったからね、お友達になってもらったんだ。このあたし、マイカ・エクゼリオ……闇の魔王のねっ」


律儀に自己紹介、ミズとアズがマイカの元にいるその理由まで語ろうとするミズ。

それに繋ぐようにして、マイカがそう纏める。



三人一緒にいる、その理由。

あえて語らせなかった、その理由。

ミャコははっきりと聞いたわけじゃなかった。

だけど、かつての記憶で予測はできる。

刃向け合う間柄であった以上、そんなに深い話をしたわけじゃなかったけど。

何故そこまでして魔王につくのか、ミャコは聞いたことがあったからだ。


その時は、二人そろってその命救われたからと言っていた。

きっとこの世界の二人にも、命救われた、そんな何かがあったのかもしれない。

たぶん、二人はレイアであることを隠してなかったんじゃないかなって思う。


木の一族と月の一族は親密な間柄だと聞いていたけど、グーラの国と匹敵するくらいに閉鎖的だった。

二人の命のキセキを、その二つの一族だけで利用しようとしていたのかもしれない。

何も知らない二人を騙して。


マイカはそんな二人を一族のしがらみから救ったんだろう。

利用するためじゃなく、ただ一緒にいて欲しくて。



「なんか、今つけましたーって感じだけど、それじゃあマイカさんが魔王ってことでいいんだ?」


なんて、知りもしないのに勝手に三人の過去を妄想していると、自己紹介も終わったところで、改めて次の話題とばかりに、ルーシァがそんな事を言った。


「うん、いいよ~。それがたぶん、あたしの役目、なんだろうし」

「……」


無邪気かと思えば、かつての畏怖を思い起こされる、意味深な言葉。

そんなマイカは、再びアキのことをじっと見つめている。

アキも、やっぱり同じようにマイカのことを見返していた。

まるで、視線だけで秘密めいた何かを話し合ってるみたいに。


「さしずめ今回は、そんな魔王を滅ぼそうと大軍が攻め込んでくる……そんなとこ?」

「……あれ? マイカ、知ってた?」


どうしてその事を? って息をのむ場面だったんだけど、もしかしたら会話に混ざりたかったのか、小首を傾げてそう聞き返すえっちゃん。


「まぁね。海の方にいる闇が、船の灯りが眩しいって言って騒いでたから。

それに、アズちゃんとミズちゃんをそれぞれの一族からさらってきちゃったわけだし、こうなるだろうなってことは薄々感じてたんだ」


たぶん、さっきミズの言葉を遮ったことを考えると、本当はそのこと言うつもりなかったんじゃないかなって思う。

でも、えっちゃんがあんまりにも素直に聞くもんだから、つい口から出ちゃったんだろう。

言って舌を出しバツが悪そうにしているマイカを見ていると、そんな気がして。



「別にボク、さらわれてきたわけじゃないょ。マイカさまとミズちゃんと一緒にいるほうが楽しいって思っただけだもん」

「そうですよ、マイカ様。わたしたちがマイカ様のお側にいるのは、わたしたちの意志です。人聞きの悪いこと、言わないでください」


それに反論するように、アズとミズのまっすぐな言葉が、マイカに直撃して。



「うぅ、その方が絶対に魔王っぽいのにぃ」


泣き笑いのような表情を浮かべて、マイカは照れくさそうに愚痴を零す。

一見、誰も寄せ付けないような、魔王って言葉がふさわしいような、そんな強さを、無邪気さの裏に隠してるマイカ。


だけどそのさらに奥には、どこまでも優しくて寂しがりやな幼い見た目のままのナヴィがいる。


思えば初めて出会ったとき、マイカは何より先に二人のことを心配していた。

二人のために、さらってきたってのもたぶん本当で。

お友達になりたかった……一緒にいたかったっていうのも、本当なんだと思う。


それは改めて、マイカという一人のナヴィのことを知ることができたその瞬間で。

知っちゃたからには、やっぱり助けてあげたいって思う。

かつてのような、悲しい思いをさせたくないって、強く思って。



「やっぱり、水の国の人たちは、マイカたちが目的なんだよね」

「マイカさんがアキ様の予言で言う魔王だとするなら、まぁ間違いないだろうねぇ」

「水の国? 月や木の人たちじゃないの、あの船って。それに、その予言って?」


何でなんだろうって思って無意識に出たミャコの言葉にルーシァが反応して。

その真新しい言葉に、マイカは目を輝かせる。

どうやら危機感よりも、好奇心のほうが勝ってるらしい。

まぁこの場合、こんな言い方されれば誰だって気になるに決まってるけど……。


何だか、本題に入るまで大きく話が逸れてしまっていた気もしつつも、ミャコたちは早速本題に入った。


何でも願いが叶う、命のキセキが世に知れたことを導火線にして、世界に滅びの危機が迫っている。


それがアキの始まりの予言。

それを防ぐためには、世界にある命のキセキ、それを内に秘めたレイアたちを守り助け、命のキセキが本来あるべき形で使われるようにしなくてはならない。


それは、言葉で単純に表わせるほど簡単なものじゃなかったけど。

アキの予言の力は、そんなレイアたちの悲しいさだめを知ることのできる力を秘めていた。

ルーシァにもえっちゃんにも、でもってきっとミャコにもそんなさだめがあって。

その悲しいさだめを打ち破ることで、ミャコたちは今ここにいる。


こうして改めて考えてみると、アキの力ってちょっと凄すぎないかなって気はする。



前の世界でアキがいてくれたら。

そんな理不尽なことを考えてしまうくらいには。



            (第三十六話につづく)






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