第三十四話


その後。

とても気まずい雰囲気のまま、変に頑固なところがあるらしいミズの何でもしますから発言にほとほと困り果てて。


ミャコはなんとか、ミャコたちがここに来た理由を聞いてもらうということで妥協してもらった。

そのためには、落ち着いて話せる場所でもあればなおいいかも、というわけで。

ミャコたちは、ミズとアズが言うところの、森の基地へと案内された。




「へぇ、これはなかなか、いいね」


二人の言う基地。

それを見てルーシァが感心したような声をあげる。



「えっと……はい、がんばりました」


それに、未だおどおどした様子で頷くミズ。


「凄いでしょ。ミズちゃんは森の木たちが友達なんだょ」


それに、自分の事のように得意げに胸を張るアズ。

ミズと違って喋る鎧……じゃなかった、ルーシァに戸惑ってる様子は最早微塵もない。

ついさっきまでは、アキの肩の上で軽快なトークを始めるルーシァのことを随分と警戒というか驚いていた二人だったけど。

そこらへんの性格の違いも、はっきりとしているらしい。


むしろ真反対の性格って言っていいのかも。

それなのに似てるって感覚を覚えるのは、こりゃいかにって感じだけど。


確かに、ルーシァが唸るのもよく分かる。

ミズが作ったという基地は、言葉通りちゃんと基地になってるように、ミャコには見えた。

しかもそれらは全て、周りの木々で作られている。


まず、基地のメインというか真ん中にあるのは、三本の背の高い木々が葉をつけたままに複雑に絡まってできた物見やぐらだった。

なるほど、これなら空から見てもそこにやぐらがあるとは思うまい。

実によくできてるなと感心する。

それに加えて、作戦会議用の丸テーブルに丸椅子。

枝にかけられたハンモック。

木でできた氷室に鏡台、本棚。

そしてさらに、作成途中だったのか、木でできた設置用の罠なんかもあった。

ルーシァの言葉に素直に頷くだけある、頑張りっぷり。



「あ、お茶を用意しますから、お好きな席へどうぞ」


しかもお茶まで出るらしい。


「ありがと、何だか悪いわね」


自然とそんな言葉も出るというものだろう。

ミャコは少し恐縮しつつも、手近な丸椅子へと座らせてもらった。


「あ、それってワタシが作った魔法の瓶じゃない?」

「え? あなたが作ったんですか? 凄いですね。重宝させてもらってます」


何やら薬缶にしては随分と縦に長い銀色の筒を使ってハーブティーを木製の湯飲みについでいくミズ。

そこにアキとともにいたルーシァが声をかけて。

何だか盛り上がっている。



「は~い、隣の人に回してね」

「あ、うん」


ミャコは甘い花の香りと、楽しげに微笑むマイカにつられて笑顔で頷く。

何の花だろう?

おいしそうな匂いだった。


「アズちゃん、お茶だよ~」

「はーい!」


マイカが、物見やぐらに興味を示していたえっちゃんとともにやぐらの上にいたアズに声をかける。

すぐに元気で素直な声が返ってきて。

先程までの緊張感はどこへやら、あったかいお茶の湯気のようにほんわかしてくる。


「あっ、マイカ様っ! お砂糖そんなに入れちゃだめですよっ!」

「ええ~いいじゃん。甘いほうがおいしいんだから」


繰り返し行われてるんだろうなって二人のやり取りが微笑ましい。

魂の削り合いに等しいそんな戦いをしたことしか、彼女たちとの記憶はなかったけれど。

まだ魔王になる前のマイカたちの関係はきっとこんな感じだったんだろうなってちょっと思って。



「……あれ?」


ものごっそい違和感、気付いたのはその時になってからだった。

……いつの間にか、話のためのお茶会の面子が増えている。


このメンバーだったら、ルーシァの次にちっちゃな(と言うか、ミャコから見ればアキ以外はみんなちびっちゃいんだけど)ナヴィ。

どピンクの派手派手なドレスに、ワインレッドおかっぱ頭。

アクセントのきいた、黒い蝶々の髪留め。

底知れない無邪気さと純粋さに、残酷な修羅のエッセンスを一滴垂らしたかのごとき漆黒を潜ませた紫の瞳。


闇の魔王……マイカ・エクゼリオ。



「あなた、いつの間に……」


今の今まで、そこにいることを認識するまで気付けなかったミャコ自身に驚きを隠せない。


そう、彼女は気付いたらそこにいた。

あくまでも自然に、そこにいるのが当たり前であるかのように。


すっと背中を落ちる冷たいもの。

たぶんそれはその事だけで、マイカがミャコの知る畏怖すべき対象、魔王と呼ぶに相応しい子だって、実感してからなんだろうけど……。



「あたし? 今来たとこだよ? アズちゃんもミズちゃんも夜になっても帰ってこないからさ、心配になって見に来たの。そしたら、お友達みんなで楽しそうなこと始めてたから、つい混じっちゃった」


そんなミャコの恐れを吹き飛ばすみたいに、マイカは破顔した。

そこには、敵意や殺意のようは負のものは全く含まれていない。

今さっき実感したものが嘘であったかのように。


「あれ? マイカさまも来てたんだ。それじゃみんなでお茶しょー」

「わ~い。こんなにたくさんで夜のお茶会するの初めてだね」


この中で誰よりも幼いナヴィが、そこにいるだけで……。



              (第三十五話につづく)





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