第二十話

ミャコと、生涯の相棒出会ったえっちゃんの、二人の勝利。


そう思ったとたん、ミャコの全身からがくんと力が抜ける。


最近は、一日に三回くらいまで、この最大出力のレイアークを使えるほどにはなってたんだけど。

世界が変わったからなのか、久しぶりに放ったからなのか。

抜ける力の代わりに入り込んでくる、疲労と眠気、寒気は結構なものだった。

だけど悪い気分じゃなかったから、それにそのまま身を任せようとして……

ミャコはそのまま倒れる。


「……あ」


と、そこに背後から声。

後頭部は冷たいのに暖かい、どこか矛盾した手のひらに支えられる。



「わ、わ、重い」


ごすっ!


「にょわぁっ!」


だけど、そのびっくりするくらい小さな手では支えきれなかったらしい。

結局ミャコは凍って硬い地面に頭から落ちて、変な悲鳴をあげてしまった。



「……へいき?」

「う……いたたぁっ……うん。だ、大丈夫だよ、えっちゃん。おかげで目が覚め……はぅっ!?」


仰向けになって痛がるミャコを覗き込むように彼女……えっちゃんはそう聞いてくる。

それがあまりに自然だったから。

ミャコがレイアークを使う決意をして、ガルラを倒すまでの息のあったコンビネーションが、ミャコの知ってる前の世界のえっちゃんそのものだったから。


気付けばミャコは、アキとタメを張るほど表情の乏しい、だけど長年の付き合いのせいで心配してくれていると分かる彼女に向かって、素で言葉を返してしまった。


『えっちゃん』と。

さも親しげに。



「ほんとに平気?」

「あははっ、う、うん。平気平気っ!」


だけどそれが彼女には聞こえなかったのか、再び伺うようにそう聞いてくるから、ズキズキする後頭部を気付かなかったことにして、無理矢理立ち上がった。


薄く強い蒼の光を湛えた、くりくりで大きなえっちゃんの瞳。

そんなミャコの強がりすら、気付いてるよと言わんばかり向けられる。



「……えっちゃんて、私のこと、だよね?」


さらに、ミャコの失言はばっちりえっちゃんの耳に届いていたらしい。

今更だけど確認するよって感じでえっちゃんが聞いてくる。


やっぱりえっちゃんは昔の、前のミャコの事を知らない。

それは良かったのか悪かったのか、ミャコに判断がつかなかったけれど。


「あ、うん。ご、ごめんね? その、なんて言うの? 勝手に変なあだ名とかつけちゃって」


そんな心内は表に出さず、ミャコは誤魔化すようにそう言った。

すると、えっちゃんはゆるゆると首を横に振って、


「ううん。べつに変じゃない。私の名前エミィだから、あってる」


そんな事を言った。

ミャコはもちろん、えっちゃんの名前がエミィだと知ってるよなんて言えず、誤魔化し笑いを浮かべるしかなくて。


「あ……その、自己紹介してなかったよねアタイは」

「あなたはミャコ。それも知ってる」

「え? そうなの? じゃ、じゃあ……」


やっぱりアキの言う通り氷の棺の中で眠っていても、現れるものを見、その声を聞いていたのだろうか。

世界にたったひとつしかない命のキセキをあげられるただ一人を探していたのだろうか。

いろんな思いがあって、おそるおそるミャコはそう聞いていた。

すると、えっちゃんはミャコの心中が分かってるみたいにひとつ頷いて。


「……うん、そう。私はミャコ、あなたを選んだの。命のキセキで願いを叶える、たった一人のひととして」

「う……あっ、ち、ちょっと、ちょっと待ってね? だ、だってアタイはナヴィなのよ? しかもえっちゃんと同じレイアで、極めつけはそんなレイアのこと狙ってる翼あるものなのにっ!」


アキにその可能性を示唆されてまさかとは思っていたけど、ほんとにえっちゃんがそんな事言ってくるもんだから、ミャコは自分でもびっくりするくらいうろたえてしまった。

氷の棺の向こうでミャコの話を聞いていたのなら、きっとえっちゃんも全てを承知の上だったのかもしれないけど。

前の世界では考えられなかったくらいの勢いで、ミャコが話さないで秘密にしてたことを暴露してしまうくらいには。


でもそれはきっと、一度目に隠し騙し続けて悲しい結末になったことへの後悔に押されたせいもあったんだと思う。


そして、改めて聞きたかったんだろう。

こんなミャコにそんな事を言って本当によかったの? って。



「ぐふふ。大丈夫。ふたりの愛があればなんだって乗り切ることができる」


そしたらえっちゃんは、そんなミャコの不安とか混乱とかでわやくちゃになってこんがらがっていたミャコの気持ちを解きほぐすかのような、そんな言葉を返してくれた。

えっちゃんらしい、起伏のない棒読みのようなセリフ。

全力で似合わないえっちゃんの口癖になってる笑い声。


それらが全部、その奥底にある感情を隠そうとしてできないでいる、ミャコの知る不器用なえっちゃんに他ならなくて。



「そっか……そうだよね、うん!」


そっぽを向くえっちゃん。

思わずぎゅっと抱きしめたくなるのをぐっと我慢して、ミャコはそう言った。


理屈じゃない。

えっちゃんの心の中まで分かるわけじゃないから、それはあくまでミャコの想像だけど、ついて出たその言葉には理屈なんてないんだと思う。



まだ、出会ったばかりのミャコたちなのに。

ミャコには確信を持ってそう思えて。


それは決して一方通行じゃない。


そう、思っていて……。



              (第二十一話につづく)






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