第43話 ハントキャットの森で初仕事

 ハントキャットの森。

 そこが仕事の場だ。朝、魔法士たちは指輪の準備をした。ハントキャットは火属性が効果的ということで、火属性魔法の指輪を持っていく。通常は発動言語セット済みの魔法指輪を借りて使う。

 ファイアだったらファイ。アイスはそのまま。頭三文字が発動言語で、統一されていた。

 リーダーを先頭にライプ町北側に広がっている森へと入っていく。移動はカートだ。立っているエルザの後にアレンが立ち、落ちないように彼女の肩をつかんでいた。

 なんかやっぱり恥ずかしい。みんな普通に乗れてるのに、自分だけ・・・・・・。まあしょうがないか。

 名前のとおり、そこはハントキャットの巣になっている。この魔物は以前、効果表を作ったことがあるのでよく覚えている。ライプ町周辺のミカン農園を荒らすため、巣の一つを駆除をする。それが仕事の内容だった。


「おまえら離れるなよ」

「「「はい」」」


 ギルは大声をあげ、メンバーをまとめる。今日のメンバーはアレン、エルザ、シャルロット、その他、先輩魔法士が一人いた。二十代女性で、名前はマイン。赤い髪のポニーテール。気さくに話しかけてくれる優しい先輩だ。

 森の上空を進む魔法士たち。上から眺めるのは緑一面広がる密林。日差しが照りつけ、アレンの額から汗が垂れた。

 暑い。この気温に慣れないときついな。

 ハントキャットの巣は、目星をつけているのかカートを下りてすぐ歩いたところにあった。地面に穴があいていて、洞窟のようになっている。アレンたちはその前で立ち止まった。途中、魔物に襲われることはなかった。警戒しているのだろう。


「入り口近くに、見張り役がいる。そいつに攻撃すれば奥からどんどん出てくるはずだ」


 ギルは小声で話し始めた。


「見張り役の攻撃は、マイン。お前に任せる。攻撃後、すぐに入り口まで戻れ」

「わかりました」

「アレン、シャルロット、エルザの三人は入り口で待機。ハントキャットが来たら、一斉に火魔法で攻撃する。奴らは火が弱点だからな」

「はい」


 アレンは返事をした。シャルロットは緊張した顔をしている。エルザも少し表情は硬い。

 初仕事だ。緊張するなというほうが無理というもの。ただ、アレンは少し余裕を感じていた。ハントキャットはアルファナ都市にいたとき戦ったことがあるし、失敗しても先輩やリーダーのギルさん、エルザたちがフォローしてくれるだろうと思った。

 洞窟内に消えていくマイン。すぐに爆発音がした。彼女が魔法を使ったのだろう。駆けてくる足音が聞こえ、彼女が入り口から飛び出した。


「来るわよ!」


 ドッドッドッドッド。

 少し遅れて獣が地面を跳ねる音が近づいてきた。暗闇から現れた黄色の毛で覆われた体。虎のような大きさを持つ獣が牙を向け、爪を立てて飛び出してくる。


「今だ! ミドル!」

「ミドル!」


 中級火力の火球がハントキャットに向かって射出される。次々と、まるでハエをはたき落とすような勢いで倒していく。


「ファイ!」


 アレンが放つファイアボールは威力が弱いためか命中しても起きあがる。そこを上手に処理していくのはギルだった。

 彼は右手を挙げ、制止させた。入り口に折り重なるように倒れている獣。そこから焦げ臭さが漂う。奥から出てくる気配はなくなった。


「確認だ。マイン。灯りを頼む」

「はい」


 ギルを先頭に、中に入っていく。暗闇を照らすのは彼女が持ってきたカンテラだ。最後尾にはアレン、エルザ、シャルロットの三人が続く。滴が垂れる音、ひんやりとした風が頬をなでる中、奥へと進んだ。

 グルルルル・・・・・・。

 ギルは獣のうなり声に立ち止まった。


「子供か」


 灯りに映し出されたのは、ハントキャットの子供たちだ。ネコほどの大きさがあり、牙をちらつかせ、敵意をあらわにしている。


「焼くぞ。成長したら厄介だからな」

「・・・・・・はい」


 マインは一拍置いた後、手のひらを向けた。


「フレイ」


 火が小さな獣たちを包み込む。弱々しい最後の悲鳴に、アレンは険しい表情になった。そばにいるシャルロットも同様だ。

 可愛そう。だけど仕方ないんだ。これは。

 後味の悪さを感じながら、初仕事は終わった。

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