第41話 あんたと仲良くする気はない
イヨの国。ライプ町。
そこにたどり着いたのは日が傾いてからだった。アレン、エルザ、シャルロットは馬車から降りる。テレポート施設があるのは主要な都市しかなく、それ以外の離れた場所への移動手段はいまだに馬車だった。
町は山を開拓して作った場所にあり、起伏に富む。店が並ぶメインストリートから長い階段が伸びていて、その頂上に魔法士の拠点があった。平屋の大きな建物だ。
アレンたちは顔合わせということで会議室に集められた。粗末な長机の向こう側に座っていたのは戦士のような大柄な男。年は三十ぐらいだろうか、視線を外さない鋭い眼光が自信の高さを物語っている。周りには三人立っているのは先輩魔法士だろう。
「よく来たな。どこでもいいから座ってくれ」
促されて、アレンたちは席に着く。
「俺は、ここのリーダーをやらせてもらっているギルだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
アレンたちは答えた。そのあと手短に自己紹介を終える。
「この辺りは暑いだろ?」
確かにちょっと蒸し暑い。アルファナ国は季節による温度差はさほどないが、このイヨ国は夏は暑く、冬は寒いと感じるぐらいの差はあるようだ。
「そうですね」
アレンは答えた。
「メインストリートにかき氷屋があるから、そこはオススメだ。魔法士なら割引が効くしな。かき氷を食べるのが最初の仕事だ」
アレンたちから小さな笑いが起こった。場の雰囲気が和らいだところでリーダーは本題に入る。
「君たちの仕事だが、簡単にいうと森にいる魔物の巣を駆除することだ。詳しいことは明日の朝、説明する。今日は休んでくれ」
「自由に行動していいんですか?」
「もちろんだ」
アレンたちは部屋から出た。
「かき氷食べる」
そう提案したのはエルザだ。反対意見はなく、アレンたちは階段を下り、メインストリートに向かう。
アレンはシャルロットをちらっと見た。あの日、彼女が涙を流した一件以来、彼女とは気まずい雰囲気が流れていた。
泣いてしまったのは自分のせいじゃないか?
そんなことを思うとなかなか声がかけられずにいた。
露店のかき氷を注文。店の前にはベンチがあり、そこに三人は座った。
「おいしい」
「まあまあね」
女性二人は満足げだ。
メインストリートは馬車がゆうに通れるほどの広さがある通りで、商人のかっこうをした人や、買い物をしている女性や子供たちなどが往来していた。行き交う人々の中には剣を腰に携えたものがいて、こっちを見てなにを思ったのか睨まれた。その態度の悪さを気にしてると、エルザはそれを察知してか、ポツリと話し始める。
「魔法士は戦士によく思われてない」
「え? どうして?」
「人々からの依頼を奪われている、と思いこんでいる。昔は戦士が一番強い時代もあった。けど今は魔法士。人々も魔法士に頼ることが一番と思っているから、魔法士に依頼が集中。そのことが彼ら戦士たちにとって気に入らない」
「くだらないわね」
シャルロットは、ばっさりと断ち切るように言った。
「そう。でも彼らを刺激するようなことは言わないようにしたほうがいい。争いになったら面倒」
かき氷を食べ終え、エルザは口を開く。
「帰る?」
「そうだな」
拠点に戻る。アレンの部屋は他の魔法士たちが寝泊まりしている相部屋だ。覚悟していたがプライベート空間がない部屋にはやはり抵抗があった。満員というわけではなく空きはあるが、先輩魔法士と一緒の部屋なので気を遣う。
ドア近くの二段ベッドの下が空いていたのでカバンを下ろした。食堂があるので、そこで夕食を食べる。エルザ、シャルロットも来たので一緒に席に座った。そこで驚愕の事実を知る。アレンは相部屋で大変だと言うと、彼女たちの反応は違った。
「私たち個室だけど?」
「え? そうなの?」
女性は個室。そういうことなのだろうか?
「確認してみる?」
エルザに同意し、彼女の部屋を見せてもらった。確かに個室で、ホテルとはいかないものの民宿の部屋のような綺麗さがあった。棚も自分用の机もある。さらにお風呂つき。
この差はいったい?
疑問を通りかかったギルにぶつけてみた。
「貴族は個室。一般は相部屋っていうのが昔からの流れでな。アレンくんには悪いが我慢してくれるか?」
申し訳なさそうに言うリーダーに、アレンは首を縦に振った。
仕方ないか。でも貴族とそれ以外は別れているんだ。やっぱり・・・・・・そういうことなのだろうか?
貴族の中には一般の人と一緒を嫌がる人がいる。そういう差別はまだ残っている。
「アレン。私の部屋に来るといい」
「え? いやそれは・・・・・・」
「相手が許可するなら良いはず」
「ダメでしょ。そんなの」
シャルロットが割って入った。
「むっ。じゃあシャルと一緒ならいい?」
「私が見張り役ってこと?」
「そう。アレンが私を襲ってこないように」
「僕はそんなことしないよ!」
「そうよ。アレンにはレベッカがいるんだから」
彼女は遠く離れた場所にいるが、それを良いことに他の女子と同室とか裏切り行為だろう。
「ばれなきゃいい」
ポツリと恐ろしいことをいう。
落ち着ける環境がほしいのは事実だ。彼女が傍にいて落ち着くのかは疑問だが。
というわけでエルザの部屋で少し休憩することになった。といってもなにかするわけでもなく敷かれた絨毯の上に座る。シャルロットは少し離れたイスに座った。エルザは窓を少し開け、ベッドに腰かけた。制服と黒のハイソックスを脱ぎ出す。
なんか嫌らしい感じがするけど、靴下脱いでるだけだし咎める理由はない。
「さっき。エルザ、ばれなきゃいいって言ったわね。たぶん無理よ」
「なぜ?」
「アレンに、それを隠し続けるほどの度胸があるとは思えないから」
「なるほど」
ひどい言われようだが、まさしくその通りなので反論はなかった。しかもレベッカは勘が鋭い。表情から読みとられる自信がある。
考えただけで手のひらから汗が。
「まあ、私がそんなこという資格ないのかもしれないけど」
意味深な一言だった。が、誰もつっこまず話は流れる。
「明日から仕事だけど、難しい内容じゃなければいいね」
「B区域だから簡単な仕事だと思うけど」
「アレンは私が守るから、安心していい」
そこで安心したらダメ男になりそうな気がして嫌なんだけど。
「それより効果表作りはどうする? いったん、保留?」
「いや、もちろん続けるよ。そこで二人にお願いがあるんだけど」
「なによ。改まって」
「その・・・・・・図々しいとは思ってるんだけどね。手伝ってくれないかな。もちろんタダってわけじゃなくて」
「オーケー。シャルは?」
「私は・・・・・・」
彼女は考え事をしているのか、少しの間うつむいた。
「私は手伝わない」
「そう。じゃあ二人きりでやる。ふっふっふ」
「なにそのふっふっふっていうの」
「くっくっく」
エルザは悪い人の顔をしていた。
時間になったのでアレン、シャルロットは部屋から出た。別れの挨拶もなしに彼女は廊下を歩き出す。
「あ、シャルロットさん」
「なに?」
「その・・・・・・」
シャルロットが泣いたときのことを聞こうかと思った。しかし、声をかけられたのが気に入らないのか、眉を寄せて不機嫌をあらわにしている。
「いや、なんでもないよ」
「勘違いしてるようだから、はっきり言っておくけど」
「・・・・・・」
「私はあんたと仲良くする気は、ないから」
彼女は一瞬、寂しそう表情を見せたことを、アレンは見逃さなかった。
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