第37話 図鑑作りの真実
まさか強い、と分類される魔物でも石化が効くとは。
間違いに気づいたのは、アルファナという都市で学生が巨大ワームを石化で倒した一件だ。それにより思いこみが崩れることになった。
「コレル君、図鑑作りはどういうふうにやったのかね?」
呼び出されたのは魔法学会の会長がいる場所。本部にある建物の一つ、その最上階。ソファーに座る会長。対面するように座るコレルの表情は固い。金色のメガネをかけた五分刈り。どこにでもいそうな五十代の男は、胃が縮こまる覚悟でこの席に望んでいる。
「実は・・・・・・」
正直に話した。
コレルは学会から依頼されて、図鑑を作った責任者だ。
図鑑を作るにあたり、効率化をはかった。元来、強いと分類される魔物にデバフはほぼ効かない。であるならば調べる必要はない。特に睡眠や麻痺、石化といったものは強力であり、効くわけがない。
だから最初から効果表には×を記載した。その他の弱いデバフであるスタン、毒、暗闇などは調べた。
思いこみと効率化。それが間違いの元だ。時間に追われていたとはいえ、この間違いを学会が許すわけがない。もうすでに図鑑は学会の承認つきで高値で売られている。コレルの額には汗が垂れていた。
「そうか」
全てを聞き終えた会長の目は、どこか遠くを見ていた。なにかを考えているのだろうか。
「話はわかった。下がってよいぞ」
「は? はあ・・・・・・」
「どうした?」
意外だった。とがめられると覚悟していたからだ。罵声を浴びせられ、とんでもないことをしてくれたな、と責任を追求される。その覚悟をしていたため拍子抜けだった。
「よろしいのですか? その・・・・・・」
「よい。あれはそのままにしておこう」
「ですが」
間違いは訂正するべきでは?
という声が出そうになり、口をつぐむ。会長の目が鋭さを増したからだ。
「よいな?」
「はい」
コレルは立ち上がり、その場をあとにした。
部屋から出たあと、胸をなで下ろす。窮地は脱したが、あれで良かったのだろうか。
おそらく・・・・・・。
コレルは廊下をゆっくりと歩き、会長の考えを読んだ。
学会の信用。
すぐに思いつくのはそれだ。間違いを間違いでした、と言うのは容易いことではない。魔法学会という組織の信用が傷つく。ならばそのまま放置しておこう、という考えなのだろう。私への責任を追求したところで信用が回復することはないのだから。
しかし、すぐに気づく者がいるはず。その者たちへの対処はどうするつもりなのか。
いや、私がこれ以上考えても仕方ない。私にとってこれは幸運。このままでいいんだ。このままで。
テレポーターで立ち止まる。魔法陣が描かれた床だ。そこから一階へ一瞬で移動した。
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