第34話 シャルロットの画策1

「君にはアレンを辞めさせる手助けをしてもらいたい」


 定時後の面談での席。

 ゴーザは窓を背にして座っている。気味の悪い笑みを浮かべて、鼻の穴を広げた。


「具体的にはどうすればいいんですか?」

「それは君に任せる。つまりは騒ぎを起こしてもらいたい。あとはこちらで手続きをとる」

「確認ですが、私が協力したら・・・・・・」

「もちろん。君の願いは叶えてあげよう。派遣先も安全なところにしてあげるし、仕事の評価も高くつけてあげる。そのくらい管理部長の私にとっては造作もないことだ」


 ギュッ。

 手を握るとカボチャパンツにしわができた。手のひらから汗が出ている。良心が邪魔をしている。

 そんなことをやっていいのだろうか。


「君の母親、お兄さんもきっと喜ぶはずだよ」


 お母様、お兄様・・・・・・。

 そうだ。私が活躍しているのを知れば、認めてもらえるはず。アレンがいなくなれば、私は一番速射ができるということで重宝してもらえる。そうすればより活躍できる。アレンさえいなくなれば・・・・・・。

 そのためには多少、泥をかぶったって構わない。それが現実だ。その機会を逃すなんてバカのすることよ。

 この一言が止めになり、シャルロットは計画を実行に移す決心を固めた。


 アレンの最近の行動は決まっていた。

 レベッカ、エルザ、ウィルとともに一緒に外出している。そして昼に食堂に戻って再び外出。夕方に戻ってくる。彼らはいったい何をしているのか気になったが、今はそんなことどうでもいい。

 問題はアレンにいかにして近づくかということ。

 声をかけるのは抵抗がある。なんであいつに私が声をかけなければいけないのか。

 シャルロットは朝会を終えると素早く一階の食堂に行った。階段が見える位置に座り、一人で対策を練る。階段を下りてきた魔法士たち。仲良く会話している様子を見て、反吐が出る。

 ここは学校かなにかなのかしら。バカバカしい。

 アレンたちが降りてきた。シャルロットは睨むように視線を標的に向ける。瞬きもせずに。

 奴に近づくためにはどうするか。取り巻き連中に声をかける? ウィルはダメだし、レベッカは嫌っているだろう。ゆいいつまともに話せる相手はエルザか。彼女とは同じ学校だった。話したことは何回かある。

 その作戦で行くか。

 シャルロットは立ち上がり、彼女に近づいて声をかけた。


「エルザ。これからどこに行くの?」

「ん? シャルロットから話しかけるなんて意外。どうした?」

「べ、別に」


 他の三人は立ち止まって、視線をシャルロットに集中していた。ウィルは変な奴がからんできたといわんばかりに眉を寄せている。レベッカは表情からうかがうことはできないが、内心は嫌っているだろう。

 安心して。私もあんたのこと、キャピキャピしてて嫌いだから。


「暇だから私も混ぜてくれない?」


 エルザは無言でアレンを見る。


「僕は構わないよ」


 と、ここでウィルが彼を引っ張って、壁際に行かせた。


「おい。あいつと一緒に行動するのか?」

「うん。いいんじゃないかな」

「やめといたほうがいいんじゃないか? だってあいつだぜ。レベッカだってほら・・・・・・」


 魔法使用速度を計ったとき、シャルロットはアレンに負けた。そのとき彼女はズルをしたと一方的に決めつけた発言をする。それを受けてレベッカは怒っていた。


「でも彼女から一緒にって。断ったら可愛そうだよ」

「そうだけど、そこはうまく会話でごまかしてだな・・・・・・」

「なにをこそこそ話をしているのかしら」


 ウィルはギクリと肩を揺らした。

 全部聞こえてるんだけど。

 可愛そう? あんたなんかから同情されたくないわよ。この偽善者。


「いや別に」

「あくまで暇だからつき合ってあげようって提案しただけよ」

「ほら見ろ。この上から目線」

「上から目線が気に入らないなら、気をつけるわ」

「うわ。信用できねえ」

「あなたに信用されなくて結構」


 シャルロットはプイッとそっぽを向く。


「まあいいわ。一緒に行きましょう。シャルロットさん」


 レベッカは微笑む。腹の下で何を考えているのかわからないムカつく笑顔だったので、私も同じように微笑み返してやった。


 アレンたちは近くの山へと向かった。そこでやったことは魔物退治。目的はデバフの効果表作成という変わったことをしていた。ノートをつけているアレンは楽しそうだった。他のメンバーは彼につき合っている。レベッカは恋人だから傍にいたいというのはわかる。エルザも彼を弟のように慕っている。ウィルはおまけでいるという感じか。

 常にアレンの近くにはウィルか、レベッカ、エルザがいた。これでは近づくことができない。何とかして計画を実行することはできないだろうか。

 その計画はこうだ。

 カボチャパンツのポケットには財布が入っていた。真珠が埋め込まれたもので希少性が高い。隙をみてこれをアレンのカバンの中に入れる。そして寮に戻った後、財布が盗まれたと騒ぎ、アレンのカバンから動かぬ証拠が出てくるという流れ。泥棒に仕立てたあとはゴーザがアレンを辞めさせる。


 シャルロットはアレンたちの様子を眺めながら考えていた。カバンは木に寄りかかるように置かれていた。肩にぶら下げることができるひも付きの黒いカバンで、チャックは開いているが、近くにアレンたちがいる。入れるのは無理そうだ。それにウィルが疑っているのか、チラッとこちらをうかがうことがある。

 勘の鋭い奴だ。

 相談がある、と持ちかけるのはどうだろう。奴のことだ。誘いに乗るはず。そこを狙う。

 

 夕方。

 アレンは効果表作りに満足したようで、山を下りた。仲間たちもそれに続く。ウィルと話しているアレンとの間に、シャルロットは入る。


「ちょっと相談があるんだけど」

「え? 僕に?」

「そうよ。いいかしら?」

「どんなことかな?」

「ここじゃあ話にくいから・・・・・・」

「わかった」


 アレンはシャルロットと話すことをレベッカに伝える。彼女はうなづいた。


「またあとで」


 別れ際、レベッカは手を振った。そのすぐあと。


「またあとで」


 今度はエルザが言った。


「あとで、ってどういうこと?」

「アレンの部屋に行く」

「なんでエルザも来るのよ」

「レベッカがアレンを襲わないように見張るため」

「襲わないわよ!」


 なんて言いながら寮のほうへと歩いていった。


「アレン。お楽しみの夜になりそうだな」

「え? いや別に・・・・・・」

「またあとで、な」


 ウィルは意味深な言葉を言い残し、去っていった。

 やっと邪魔者は消えた。仲良しごっこにつき合ってるとイライラしてくるわ。


「じゃあ、行こうか」


 アレンは歩き出したので、シャルロットは後を追った。

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