第32話 エルザ仲間入り

 エルザがアレンの部屋のシャワーを浴びた次の日。

 アレンはドキドキしながら朝を迎えた。服を着替え、準備をして部屋を出る。寮の入り口でレベッカが来るのを待っていた。

 その間、言い訳を考える。

 エルザと一緒にいた理由を話せばきっとわかってくれるはず。

 彼女はやってきた。普段と変わらず微笑んでくる。

 怒ってないのかな? でも一応、昨日のことを話しておかないと。


「おはよう。アレンくん」


 やっぱりくんづけだ。表情は軟らかいのに何かがおかしい。


「レベッカ。昨日のことなんだけど」

「ん? なんのことかな? アレンくん」


 ニコニコしているのが不気味だ。

 絶対これ、怒ってるでしょ。


「エルザがね。勝手に入ってきて、お風呂に入るっていうから・・・・・・。いや止めるべきだったんだけど、急に脱ぎだしたからあんなことに」

「ふうん」


 誤解、解けたかな。表情から探るがよくわからないまま、研修室へ行く。

 今日から自由行動となった。といっても遊べるわけじゃない。


「これから各自、自分が不安だと思う課題に着手してくれ。カート乗りが不安なら地下に行って練習してくれ。定時後、派遣先の面談を行う」


 リオンはそう言った。オリジナル指輪を作成するものや、友達になった魔法士たちが地下に行こうと仲良く部屋を出ていく。リオンは部屋にいて、他の魔法士たちの世話をしていた。

 そういえば、とアレンは近づいて口を開く。


「リオンさん。あの話はどうなりましたか?」

「図鑑の訂正の話か?」


 アレンはうなづく。リオンの表情が曇った。


「まだ回答をもらってないな。部長が言うには会長は今、忙しいらしく、話を聞ける状態じゃないようだ」

「そうですか・・・・・・」

「もう一度尋ねてみるよ」

「はい。お願いします」


 少し残念だった。このまま流されるのでは? という悪い予感がある。

 はやる気持ちを抑え、なにをしようかとレベッカ、ウィルと一緒に食堂へ行こうとした。

 視線を感じる。


「じー」


 エルザだった。仲間になりたそうにこちらを見ている。レベッカを見た。意図を察した彼女は「いいんじゃない?」の一言。


「エルザも来る?」

「うん」


 こうして四人は部屋を出て、食堂のテーブル席に腰を下ろした。まだお昼ではないので客はほとんどいない。

 ウィルはエルザに視線をチラチラ動かし、喜んでいるようだ。彼女はアレンしか眼中にないのか、ウィルは無視している。


「先生は自由だって言ってたけど、どうする?」


 レベッカが切り出した。


「僕はカートの練習してもしょうがないから、外に出るよ」

「外に出てどうするんだ?」


 ウィルの質問に、アレンはこれまでの経緯を説明した。


「そんなことやってたのか」

「まあね」


 テーブルの上に効果表のノートを広げて見せるアレン。その表情は宝物を自慢する少年のようだった。


「なら私も行く」


 エルザは言うと、レベッカはぴくりと眉を動かした。


「アレンはレベッカと二人だけで行動したいらしいぜ」


 ウィルからの珍しいフォローが入る。「なぜ?」とエルザは首を傾げた。


「恋人どうしだからだろ? な?」

「うん。まあ、ね」

「・・・・・・はっ。誰もいない茂みでアレンを押し倒す?」

「しないわよ! ていうかなんで私が襲う側!?」


 即座につっこみを入れるレベッカ。


「ならよし。私も行く」


 エルザは聞かないようで、レベッカは諦めたようにため息をついた。


「いいわよ。じゃあ三人で行きましょう」

「ちょっと待て。俺は?」

「海岸で散歩でもしてたら?」

「なにが悲しくて一人で・・・・・・」

「水着ギャルでも追いかけてれば?」

「れば?」

「それもいいけど、お二人が水着になるという提案はどうでしょう?」

「ないわね」

「ない」


 微笑みながら話しかけるウィルに対して、女性二人は冷めた目をしていた。


「おい。アレン」

「な、なに? なんで僕を見るの?」


 目を細めて合図を送ってくる。「お前が言えば二人は言うことを聞くだろ、言えよ」という心の声だったが、アレンは聞こえないふりをした。


「そんなことより、どうするの? 蜂に対する対策」


 レベッカは話題を変える。ウィルは千載一遇のチャンスを逃したとばかり残念そうに「くぅ」とうなった。


「昨日試したのはスタン、毒、石化だから、それ以外のデバフを使うよ」

「でもその方法だとまた襲われない? 危険じゃないかしら」

「大丈夫。レベッカがいるから」

「・・・・・・頼りにしてくれるのはありがたいけど、もしものことがあったら心配だわ」

「なにが問題なんだ?」とウィル。


「デバフを使うにはあの蜂に近寄らないといけないでしょ? だから・・・・・・」

「遠くからデバフするといい」


 エルザは言った。他の三人が彼女を一斉に見る。


「近距離から遠距離にする補助魔法を使う」

「ああ。あれか」


 ウィルは気づく。しかし、アレン、レベッカは口を開けたまま静止していた。

 攻撃力を上げたり、防御を固めたりする基本的なものは知っているが、攻撃範囲を拡大する補助魔法は知らなかった。レベッカも知らないとなるとかなりマイナーな魔法のようだ。補助魔法はデバフと同じように重要視されてない。


「レンジシャープネスって魔法名だ」

「じゃあそれを使えば」

「ただ、遠距離にすると命中率が落ちる。それがネックだな。まあ、試したことがないならやってみる価値はあるんじゃないか?」

「そうなると指輪。作らないとね」

「プログラムなら俺が打ち込んでやるよ」

「魔法石は研修室にある」


 こうして、四人の意志は固まった。

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