第28話 プログラム作成は面白い
「ポイ・・・・・・ポイ・・・・・・」
研修二日目。
午前中は昨日に引き続きプログラム研修だ。最前列にアレン。
左横にウィルがいて、アレンの先生をしてくれている。右隣にはレベッカがいた。
「あれ? おかしいな」
「どれどれ」
ウィルはプログラムキーボードに映し出された画面をのぞき込んだ。
if str = ポイ then sine = true endif
どこに間違いがあるんだろう。
「あ~。つづりが間違えてるぜ。shineのところ見てみろよ」
「・・・・・・あっ。本当だ」
sineになっていた。正しくはshine。点灯させるコマンドだ。
打ち直してからコード石に出力するため、メニューからコード出力を選択。待機を示す横棒が現れ、いっぱいになるまで待った。完了を示すcompleteの文字が表示される。
「ポイ」
コード石が光った。
「おおっ」
予定通りに動かないと少しイライラするけど、動いたときはうれしいかも。
「ところでポイってなんだよ」
「ポイズンキャッチのポイ、だよ」
「あまり短すぎるのも禁物だぜ。今は魔法石とリンク(接着)してないから構わないけどな」
短すぎると誤発動してしまう危険がある。例えば今回の場合だと「○○っぽい」と何気ない会話の中、言っただけで条件が合う。それに周囲にどんな魔法を使ったのかわかりにくいということもマイナスだ。
「うん。一文字にはしないよ」
演習問題のコードが確認できたところで、次はいよいよ魔法コマンドを入力する。基本的な形は同じだが、shineのところをmasicBs(1)と書き直さないといけない。masicBs(1)はポイズンキャッチを現している。数字を2にするとブラインドカーテン。
この魔法コマンドは裏で動き、書き換え不能で膨大なプログラムを持つ。プログラムの中身はほとんど呪文だ。この魔法コマンドがあることで簡単に、各々の魔法の呪文を呼び出すことができた。
ウィルは暇を持て余していて、左の席にいるエルザのほうをチラチラと見ていた。そして、なにか思いついたのかすぐ後ろの席に戻ってキーボードを叩き始める。
そのとき、後ろからシャルロットが近づいてきた。
「ウィル。私も演習問題、全部解いたわよ」
「あっそう」
「すぐに解けたからって、調子に乗るんじゃないわよ」
「はいはい」
カタカタカタ、とタイピングをやめない。
ウィルの適当な返しに、シャルロットは歯ぎしりした。彼女の目の下にはクマがついている。明らかに昨夜、無理した痕跡が残っていた。彼女はすぐに席に戻った。
アレンは書き直したコードをコード石に出力。リンク作業に入る。魔法石とコード石を接着させ、さらに指輪をつけた。まるで工作のようだ。そうしてオリジナル指輪が完成する。
右人差し指にはめてからマナを体内に溜めた。
「ポイ」
反応なし。ということはコードが間違ってる?
「う~ん」
画面をにらみ続けること数秒。
「あっ。masicbs(1)のbが小文字になってた。大文字にしないと」
修正後、再度コードを出力。そして。
「ポイ」
成功を示す、指輪の魔法石が淡く光った。
「やった! やったよ。レベッカ!」
「良かったわね」
彼女は微笑んでくれた。母親のような慈愛のある笑顔だ。
うまくいくと面白いもんだなあ。
プログラムの面白さにちょっとハマっていると、後ろからトントンと肩を叩かれる。振り向くとウィルがオリジナル指輪をはめていた。作成した三本の指輪を左手人差し指、中指、薬指にはめている。
「ウィルもできたんだ」
「ああ。こいつの条件はちょっと特殊でな」
「へえ。どんな?」
「エルザ」
「え?」
人差し指にはめている指輪が光った。自分の名前に反応し、彼女は後ろを振り向く。ジーっと眠たそうな目でウィルを見た。
「君が」
中指の指輪が光った。
「好きだ」
薬指の指輪が光る。
「どう思う?」
ウィルは恥ずかしげもなくニヤニヤしていた。愛の告白を、指輪を使ってするなんて、僕だったら赤面ものだ。
「エルザ」
「君が」
「好きだ」
ウィルはもう一度繰り返した。今度はエルザをチラッと見て様子をうかがう。とうの彼女は関心がなくなったのか、前を向いて無視を決め込んだ。それでも続けようとするウィル。
「エルザ・・・・・・。君が・・・・・・」
「リオン先生! ウィルくんが遊んでます!」
レベッカは声を大にして言うと、ウィルは口をつぐんだ。そのあと、ウィルはリオンに怒られていた。
こういう遊びは彼の余裕の表れでもあるわけで、少し見習いたいところもある。
こうして午前の研修が終わった。
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