第24話 そうそうたるメンバー

 海岸近くにある魔法学会本部。敷地内の式典の場。

 本日、ここでは入会式が開かれていた。劇場のような広い部屋に集められた新米魔法士たち。その中にアレンとレベッカもいた。並んで席に座る。みんな、支給された魔法士専用の黒の上着を羽織っていた。

 それ以外は自由で、男はズボン。女はスカートが多い。レベッカも膝丈のスカート、黒のハイソックスで可愛らしい格好をしていた。

 期待が大きいのだろう、笑顔の人が多い。魔法士の一員として出発することを誇らしげに思っているようだった。


「おっ。ここ空いてる?」


 爽やか系の男がアレンに近づく。名前はウィル。卒業式にちょっと話をした人で、人見知りしない性格。背が高く、顔が整っている。アレンは少し驚きつつも「うん」と返事すると、ウィルは隣の席に座った。

 レベッカが一瞬、嫌な顔をするがウィルは気にする素振りを見せない。


「いやあ。ドキドキするな。アレン」

「そうだね」


 彼は最初からアレンのことは呼び捨てであり、ウィルも自分を呼ぶときは呼び捨てで、と言っていた。彼なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。ちょっと最初から距離が近すぎる気もするけど・・・・・・。


「早く一人前になりてえな。アレン。お前の目標は?」

「え? 目標? う~ん。なんだろう?」

「レベッカとイチャイチャすることか?」


 からかうように、ウィルはアレンの耳元で囁く。苦笑いで返す。反対側に座っている彼女はジト目でウィルを見ていた。


「いいなあ。うらやましいなあ」

「ははは・・・・・・。ウィルは目標はあるの?」

「聞きたいか?」

「え・・・・・・。やっぱいいかな」

「なんだよ聞けよ~」


 バシッと肩を叩いてくる。スキンシップが多い人だ。


「とりあえず、ハーレムを作ることだな」

「ぶっ!」


 アレンは吹き出す。レベッカは眉間にしわを寄せた。小声なので聞こえてないはずだが、変なこと言いやがったなと疑っているようだ。


「冗談でしょ?」

「いやマジだ。そして毎晩二人以上の可愛い女の子とイチャイチャし、胸に顔を埋めて寝るのが俺の目標というか、夢だな」


 その正直さに、アレンは口を開けっぱなしにして横顔を眺めることしかできなかった。


「おっ。きたきた。あれがトップのお偉いさんだ」


 壇上に現れたのは、白い髭を長く伸ばした初老のおじいさんだ。高級そうなローブをまとい、まるで長老のような格好だ。周りの役員から礼を受けながらイスに座る。


「あの人が会長?」

「そうだ。魔法学会のトップ。ラスゴル様」


 あの人か。

 魔物図鑑の訂正を拒んだ魔法学会。そのトップが目の前にいる。彼になぜ訂正させないのか、今すぐにでも聞きたかった。しかし、初対面でそんな失礼なことはできないので我慢した。


 入会式が終わる。

 若き魔法士たちは式典場を出た。学会で働く女性の人に引率され、敷地内にある高い建物に足を踏み入れる。これからすぐ現場に入るわけではない。研修を行い、各地に派遣される。

 一階にある掲示板に書かれた名前と行き先の教室を見た。レベッカとウィルは同じ教室だった。三階の302教室に入る。

 二十人ぐらい入る四角い部屋だった。席は自由でいいということで、一番前の席にレベッカと並んで座った。アレンの後ろにウィルが座る。机の上には見たこともない機器が、各々一つずつ置かれていた。黒い長方形の平たいもので、片手で十分持ち運べるほどの軽さだった。うかつにさわらない方がよさそうだ。

 続々と入ってくる魔法士たち。式典場では八十人ぐらいいた。僕らの在籍していたアルファナ魔法学校からは八人。それ以外の国から七十人ほど選ばれたことになる。

 ウィルは暇そうにあくびをした。目の前の機器は折りたたみになっているので、開く。知っているのか、「ふうん」と興味なさそうに言った。


「あっ! 貴様はウィル!」


 大きな声だった。見ると背の低い女子がいた。ふわっとした金髪を襟首まで伸ばしている。クリッとした目をしていて、童顔だ。下はカボチャパンツなので幼女みたいに見えなくもない。


「ん? 誰だっけ?」

「んぐぐ・・・・・・。シャルロット! 全国大会の準決勝で戦った相手よ!」

 彼女は両の拳を握り、ウィルを睨んでいる。

「そうか? 覚えてないな」

「ここの地下に闘技場があるわ! そこでもう一度勝負よ!」

「え? いやだよ。面倒くさい」

「な・・・・・・」


 後ろがにぎやかだった。

 全国大会か。僕は魔力が低いことで出場資格がなかったので見学をしていた。レベッカは三位、ウィルが二位。そして一位は――。

 教室のドアが開く。入ってきた人に視線が集中し、静かになった。

 全国大会一位、エルザ。

 身長はアレンより高い、すらっとした女子だ。土色の髪を肩まで伸ばし、毛先は内側にカールしている。左目は髪に隠れていた。下はショートパンツに黒のハイソックス。

 驚く魔法士たちをよそに、本人は眠たそうな目を向けていた。ふらりふらりと歩きながら、前列左の席に座る。


「おいおい。全国一位から三位がこの教室にいるのかよ。すげーな」

「ほんとだぜ。このクラス優秀すぎるだろ」


 周りの人が囁く。

 眺めてみると確かに凄い。そうそうたる顔ぶれだ。僕がこんなところにいていいのだろうか?


「どうしたの?」


 横にいるレベッカが聞いてきた。


「ちょっと緊張しちゃって。すごい人たちばかりが周りにいるから」

「アレンも十分すごいわよ」

「いや、僕なんて全然・・・・・・」

「巨大ワームを倒したのに?」

「あれは偶然だから」

「ここで言いふらしてあげよっか? 彼があの、都市を救った英雄なのです! って」


 レベッカはニヤリと少年のように微笑む。


「あはは・・・・・・それはやめてください」

「冗談よ。そんなことして有名になったら困るからね」

「そうだね。注目されると疲れるし」

「うん。それもあるけど、他の女子がアレンの魅力に気づくのが困るの」

「え・・・・・・」

「そういうの、私一人だけでいいから」


 ドキッとすることを言ってくる。「なんてね」とレベッカは白い歯を見せた。

 また、からかわれたのかな?


 二十人ほどの魔法士たちが席についたところで研修担当の先生が入ってきた。生徒たちは静かになる。先生は教壇の前に立った。

 あっ。

 声を上げそうになった。彼は知っている。


「俺はリオン・ド・サンボルト。ここの講師だ。よろしくな」


 アレンに魔法士になったほうがいいと言ってくれた現役の魔法士で、逆立った金髪が特徴的だ。彼はアレンを見て、微笑んだ。

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