2章 魔法士編

第23話 D区域の惨劇

 D区域。

 そこは魔物の巣窟となっている場所であり、世界でもっとも危険な場所だ。


 次々と現れる魔物に、とった対策は鉄の壁だった。壁は巣を囲い、外に出ようとする者を拒む。しかし、その壁が破壊されたときは魔法士たちの出番だった。


 ミノタウロス。

 牛頭の巨大な魔物が壁を破って外に出た。体長は大人二人分を越え、丸太のような筋肉を持つ腕の力で巨大な斧を振るう。


「ぐあっ!」


 魔法士の一人、若い男の頭部に直撃し、吹き飛んだ。


「距離をとれ! 動きを封じろ! 俺がやる!」


 草原でリーダーの男が叫んだ。三十才の男。金色の天然パーマ。目つきが鋭く、無精ひげが目立つ。

 魔法士たちはミノタウロスを囲い、じりじりと距離を詰めた。


「アイフィ!」


 アイスフィールド。

 メンバーの魔法士が放つ氷魔法だ。ミノタウロスがいる辺りの地面を氷の床に変え、足を氷で凍らせた。その隙を狙ってリーダーは駆け寄る。


「うおおおおおっ! サンボル!」


 広げた手のひらから空気を切り裂くように走る稲妻。ミノタウロスに命中し、うなり声をあげる。膝を折るが、ダメージはまだ浅い。


「今だ! やれ!」


 周りにいる魔法士たちが一斉に魔法を放つ。氷の玉が降りそそぎ、爆発、そのあと地面が隆起。巨体は宙を浮いて地面に激突。動かなくなった。リーダーは雷撃でとどめを刺した後、負傷した若い魔法士の元へと駆けよる。彼は仰向けに倒れ、ピクリとも動かなかった。頭部からは血が流れ出ている。

 先に回復役の女性が傍にいて、回復魔法をかけた。淡い光が倒れている彼を包み込むが、反応はない。女性は手首を持ち、脈を調べた。首を左右に振る。


「くそっ!」


 リーダーは悔しさを爆発させた。

 また犠牲者が出てしまった。今、破壊された壁を職人と魔法士たちが共同で修復しているが、どうせすぐに壊されてしまう。そして犠牲になるのは魔法士たちだった。


「どうすればいいんだ・・・・・・」


 諦めの声に、メンバーで一人の若い男が近づいてきた。


「あの・・・・・・」

「ん?」

「状態異常魔法はどうでしょう?」

「ああ・・・・・・」


 アルファナという都市に巨大ワームが出現したとき、一人の青年が石化魔法(ロックプリズン)を使って一撃死させたことで、見直しされつつある状態異常魔法。デバフとも言う。

 しかし、あんなものは偶然だ。


「そんなもの。実戦投入できるわけないだろ」

「しかし・・・・・・」

「デバフの効果範囲は近接だ。近づいたらやられる。だいたい、なにが有効かいちいち試してられるか。その間に何人死ぬと思ってるんだ?」


 男は黙った。

 わかっている。この惨状を目の前にしてどうにか対策を打ちたいというみんなの気持ちは。もし魔物が少ない種類しかいない場合、デバフは有効だろう。しかしこのD区域の魔物は多種だ。閉じこめられている壁の向こうで、進化を繰り返しているのだ。恐ろしいことに。

 リーダーは雲の隙間から光が射し込む光景を眺めた。

 だがもし素早く、安全にデバフを使える手段があるとしたら、そのときは・・・・・・。

 リーダーは首を振った。

 素早く、安全に?

 そんなこと、ありえるわけがない。そんな救世主がいるわけない。叶わぬ夢を見るとは、俺もついに焼きが回ったか?

 「ふっ」とリーダーは力なく自嘲した。

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