第19話 悩み苦しむアレン

 その日、食堂で昼食を食べていた。

 最近は新校舎一階にある食堂で食べる毎日になっていた。頼むのはA定食。パン、スープ、野菜がセットされた定番メニューをおぼんに乗せ、長机の上に置いた。

 丸イスに腰かけた。食堂内には生徒三人ぐらいが離れて座っている。

 昼のチャイムがなるまで少し時間がある。昼になると多くの人が押し寄せてくるため、早めに食べにきていた。

 焼きそばパンがおいしかったけど、わざわざ外に出る必要はない。それにいじめられる心配はなくなったわけで、ならば安くてボリュームもそれなりにある食堂、ということで落ち着いた。

 一人、パンを食べていると入り口から見知った顔が入ってきた。


「よおアレン」


 フェイルだ。ガキ大将のように太った体を持ち、赤い髪を逆立てた髪型はいつもと変わらない。仲間のフリーもいた。痩せた体に青い短髪。

 彼らはアレンと同じ定食を頼み、おぼんを持ってきた。そして、アレンの隣の席に座った。


「最近どうだ? 順調か?」

「うん。まあ・・・・・・」


 慣れない。

 笑顔を向けてくるのだが、以前は睨まれたことしかなかったので違和感しかない。でも嫌じゃない。


「アレンは魔法士になったらどこに派遣したい?」

「その前になれるかな。魔法士に・・・・・・」

「おいおい。あんだけの魔物を倒したんだ。魔法士になれなかったらおかしいだろ?」


 フェイルの隣にいるフリーはうんうんと相づちを打っていた。

 確かに功績はあるけど、評価は最低のままだし。ただ可能性は大いにある。特別枠として魔法士になったものたちもいる。


「俺は無理だけどな」

「そうなの?」

「ああ。補助魔法コースの中では中の下だ。とてもとても・・・・・・」

「俺は下の下だ」とフリーは笑ってみせた。


「俺たちの分まで頼んだぜ。アレン」


 肩をポンと優しく叩いてきた。アレンは微笑み、「ありがとう」と返す。ちょっと幸せな気分になった。こういうのを友達と呼ぶのだろうか。


「どこに派遣かあ。やっぱり実家の近くがいいかな。帰るの楽だから」

「やっぱりそうだよな。いきなり危険区域は勘弁してほしいぜ。D区域とかな」


 D区域。

 そこはもっとも危険だとされた魔物の巣のような場所。ベテランの魔法士たちでも眉をひそめるほどだ。


「いきなりD区域に派遣されることはないだろ。お前死んでこいって言ってるようなもんだぞ」


 フリーはつっこんだ。「それもそうだな」とフェイルは笑って答えた。


「それでタッグの相手は誰だ? レベッカか?」


 アレンは言葉を詰まらせた。曇った表情を察知したのかフェイルは真顔になる。


「どうした?」

「いや、別に・・・・・・」

「なにかあったのか?」

「なんでもないよ。気にしないで」


 これ以上詮索されたくなかったので、パンを口に詰め込んだ。

 例え僕が魔法士になったとしてもレベッカは城に勤めることになる。そして許嫁と結婚。そこに僕はいないだろう。彼女と一緒にいられることができれば幸せだろうけど、それは父親が許さない。

 このまま魔法士なってもいいのだろうか?


 フェイルの心配を「大丈夫」と言って避け、旧校舎の教室に戻った。イスに腰かける。

 アレンは悩んでいた。

 あの巨大ワームを倒したのはマグレだ。それで凄い奴だと間違った評価をされて、いざ魔法士になったあと、使えないというレッテルを貼られるんじゃないだろうか?

 現に僕は魔力は少ない。攻撃系魔法だと初期のファイアボールぐらいしか放つことができない。その上のレベルになると魔力がないため発動すらしないだろう。

 体内に貯めることができる魔力を増やすことは基本的にはできない。生まれたときから決まっている。呪いの道具とか使えば可能かもしれないけど麻薬みたいなもので体の負担が大きすぎる。

 そんな僕が魔法士なんて・・・・・・。それにレベッカともこのままだと・・・・・・。


「・・・・・・レン。おいアレン」

「うわっ」


 悩んでいて気づかなかった。ガロ先生がドア付近に立っていた。


「な、なんですか?」

「お客さんだ」


 入ってきたのはどこかで見た若い男だった。

 金色の髪を逆立て、上は黒のゆったりとした魔法士専用の上着、下はぴっちりとしたズボンをはいている。上着の胸辺りには魔法士の証である黄色の魔法陣が縫い込まれていた。


「君がアレンくんだね。俺のこと覚えているかな?」

「・・・・・・あっ」


 思い出した。

 この人確か、巨大ワームが都市で暴れていたときに駆けつけてくれた魔法士のお兄さんだ。


「俺はリオン。リオン・ド・サンボルト。よろしくな」


 リオンは白い歯を見せ、握手を求めてきた。

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