第16話 レベッカと一緒じゃなきゃ嫌だ

 放課後。

 アレンは旧校舎の二階、倉庫のような教室で待っていた。

 コンコン。

 ノックの音がして、彼女を出迎える。


「失礼するわね」


 女の子を部屋に誘うなんて良くないことだが仕方ないんだ。寮は男子寮なので自分の部屋に呼ぶわけにはいかないし、誰にも見られない場所といったらここしかない。

 彼女は部屋に滑り込ませるようにして入って、素早くドアを閉じた。


「ど、どうぞ」

「どうも」


 ドア側に引いたイスに彼女は座った。アレンは奥の窓際のイスに座る。すぐ傍には使われてないイスが高く積まれてあった。

 なんかドキドキする。この部屋に僕とレベッカ二人だけだもんなあ。


「暗いわね。この部屋」


 窓のカーテンは閉めてある。


「開けようか?」

「うん。……あ、いや、いいわ。外から誰かに見られるの嫌だから」

「そ、そうだね」


 立ち上がりかけて、元のイスに腰を落ち着かせる。

 シーン。

 薄暗い室内で、気まずい空気が流れていた。

 別にこれから変なことをするわけじゃない。彼女からどういったことを父親から言われたのか、現状を知りたかっただけだ。

 先に声を出したのはレベッカだ。


「お父様がね。私が外に出ていることを嗅ぎつけたみたいで。昨日、帰ったらすぐに詰め寄られて……」


 彼女の表情は暗かった。うつむいて、声は小さい。


「なんでお父さん。気づいたんだろうね」

「わからないけど、近所の人からお母様が聞いたみたい。それで母から父にと情報が流れたみたいだわ」


 どこかで誰かが見ていたということか。

 都市の外で待ち合わせしていたといっても、外では人に見られるわけだし。レベッカは美人だから目立つし、僕は僕で有名になってしまったからかもしれない。


「レベッカは……外に出たい?」

「うん。当たり前じゃない」

「こっそりと外に出たらバレないかな?」

「それは……難しいかも。だって最近注意してたのに噂されたからね」


 学生じゃなければ二人で都市を飛び出すことができたかもしれない。お金を稼げていれば両親からそれほどうるさく言われないだろうから。

 アレンはうつむいて、首を捻った。「う~ん」というセリフがつい口から出る。


「アレンは気にしなくていいよ」

「え?」


 顔を上げる。同じく顔を上げた彼女の顔が目の前にあった。


「私のことは気にしなくていい。だから別の人と外に出て、実験を続けてほしい」

「いやそれは……」

「試したくてウズウズしてること知ってるよ。私のせいでその気持ちを削ぎたくない」


 違う。


「私と一緒じゃなくても楽しめると思う。だから……ね」

「嫌だ」

「アレン……」

「僕はレベッカがいいんだ。レベッカと一緒じゃなきゃ嫌だ」

「ば、ばか……」


 カア~と赤くなるレベッカ、そしてアレン。お互い湯気が出そうな勢いだ。

 自分で言ったあと急に恥ずかしくなる。自爆してしまった。


「そういうことならしょうがないわ。お父様を説得してみる」

「うん。頼むよ」

「あまり期待しないでね」

「わかった」


 さて話はこれで終わりだ。レベッカはイスから立ち上がり部屋から出ていくのか、と思いきや彼女は動かなかった。アレンを見つめるレベッカ。彼女の表情は柔らかった。愛おしいものを見るような目つきに思わずアレンは口を開いた。


「どうしたの?」

「え? あ、別に……」


 ふぅと一息つくと、彼女は立ち上がった。表情は元に戻っている。やや吊り上った目つき、引き締まった表情は外面モードといったところか。


「じゃあまた明日」


 レベッカはドアノブに手をかけたときだった。ピタリと動きが止まったかと思うと、すぐに引き返してきた。


「誰か来るわ!」

「え? うそ!」


 こんな時間に誰が? 先生か?

 いずれにせよ、男女が二人きりのこの場面。見つかったらマズい。いや、別に変なことしてないけど、疑われるのは必至だ。


「レベッカ。そこの壁に隠れて!」

「うん。わかったわ」


 彼女は壁際に移動すると、壁を背にして屈みこんだ。

 足音が聞こえてきた。それも複数人だ。

 誰だ?

 コンコン。

 ノックする音がして、アレンは慌てて立ち上がる。ドアを開けた。

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