第10話 アレンと一緒にタッグを組みたいな
レベッカと一緒に毎日、都市の外に出るようになった。
校内ではそのことが噂になっているようで、ともに歩くアレンの姿を目撃し、一様に「誰?」となり、状態異常魔法コースの学生だと知ると、次に「なぜ?」となった。
そのことがフェイルの耳に届くのは時間の問題だった。彼を含むいじめっ子たちは朝、校門前の階段で待ち伏せしていたことがあった。
しかし、ともに歩くレベッカが視界に入ると目をそらし、なにも言ってこない。彼女がバリアの役割をしている。
「あいつらって本当、しつこいわね」
昼食時間。ベンチでアレンの横に座っている彼女が言った。この場所は都市入り口付近にあり、高い壁によって影になっていて涼しい。二人の定位置になりつつある。
彼女はカレーパンが好きなようで、それを食べていた。それと今日は木を編んだ、弁当箱のような大きさの箱を持ってきている。アレンはいつもの百ゴールドの焼きそばパン一つ。
「しっかり私が守ってあげないと」
「あはは・・・・・・ありがとう」
アレンは力なく笑った。
女の子に守ってもらうなんて情けない。
「それにしても、昨日は驚いたわね」
「うん。そうだね。まさか石化が効くとは」
最近のアレンたちは危ないので森へは行かず、都市から少し離れた村や、林の中、湖などを歩き回っている。行動範囲を少しずつ拡大している感じだ。
その間、魔物とは何度か遭遇した。
レベッカはアレンの後方で待機。彼が状態異常魔法を試行し、魔物図鑑と照らし合わせて正解かどうか確認する。そのあと、彼女が氷魔法で魔物を倒す流れだ。
その中で強い部類に属する魔物に石化が効いた。強い魔物には石化は効かないのが常識だ。しかも、図鑑を見ると効かないと書かれてあるが、それでも効いた。これにはアレンだけでなくレベッカも驚いたようだ。
ちなみに図鑑は図書館から借りたもので、以前借りたボロボロに裂けた本の弁償は免れた。というのも理事長が特別に弁償してくれたからだ。
ありがたくもあったが、申し訳ない気持ちが膨らんできた。理事長は昔、賢者と呼ばれるほどの腕前を持つ魔法士であり、女からモテていたらしい。
ああ。そんな時代に僕も生まれていたら・・・・・・と思う。
理事長の力になりたい、という気持ちが強くなった。近いうちに僕がやっていることを理事長に知らせよう。きっと驚くぞ。ふふふ。
「アレン。なにニヤニヤしてるの?」
「い、いや。なんでもないよ」
レベッカは疑いの目を向ける。彼女の口元にパンの屑が貼り付いていた。
「あ・・・・・・え~と・・・・・・」
「なにかしら?」
「やっぱりなんでもない」
ここでデキる男ならパン屑を摘んで口に入れるところだろうけど、そんなことできるわけない。恥ずかしい。でも教えておいたほうがいいか、なんて思ってると、彼女が目の前にやってきた。
腰を屈んで、アレンの顔を仰ぎ見るような感じだ。
「なにか隠してる?」
「い、いやその・・・・・・」
フワッといい香りがする。アレンは視線をそらした。
彼女の端正な顔が突然目の前に来たからだ。
「私、アレンに信用されてなかったのね。がっかりだわ」
「そんなことは・・・・・・」
目を細めているが、怒ってないことは何となくわかる。早く白状しなさいという追求だ。
「あの、口にパン屑がついてるよ」
「あっ」
すぐに気づいた彼女は、慌てるようにパン屑を摘んで口に入れた。頬を少し赤く染めて、ベンチに座り直す。
「は、早く言いなさいよ」
「ごめん」
「てっきり、私以外に知り合いの女の子がいるのかとごにょごにょ」
「え? なに?」
「な、なんでもないわ!」
今日は不機嫌そうだなあ。
アレンは焼きそばパンの最後のひとかけらを口に入れた。
最近は食べ物が喉に詰まることなく食べられている。彼女に慣れてきたってことかな?
「それと」
レベッカは横に置いてある木の弁当箱、そのふたを開けた。サンドイッチが並べられている。
「これ、よかったら食べて」
「いいの?」
「うん」
レベッカは小さくうなづいた。アレンはサンドイッチの一つを取って、端の部分をかじる。
レタスと甘いネバネバしたもの、これはジャム?
え? レタスにジャムって・・・・・・。
レベッカはアレンの表情を観察するように見つめている。
「どうかな?」
「あ、うん。おいしいよ」
あまり噛まないようにして飲み込んだ。
せっかく買ってきてくれたものだ。まずいと言ったら失礼だろう。
「あらそう? それってマズいと評判の店で買ったものなんだけど」
「ええ?」
なんでそんなところで買うかな。
「これから毎日買ってきてあげるね」
「……ごめんなさい。マズいです」
「なんてね。本当は私が作ったものでした」
「どっちなの!?」
「さあ。どっちでしょう?」
レベッカは口の端をつり上げて、小悪魔的な笑みを浮かべている。
もしかして、からかわれてる?
捨てるのはもったいないのでサンドイッチを全部口の中に押し込んだ。
午後も外に出て、魔物図鑑の訂正にはげむ。彼女がいるおかげで不安は少なく、試行することに没頭できた。
都市に戻ったあと別れ際、レベッカは声をかけてきた。
「アレンは魔法士に選ばれなかったらどうするの?」
「そうだね。村に帰るよ」
魔法学校は二年で誰でも卒業できる。その中から成績の良さ、性格などが考慮され、最終的に魔法士に選ばれるのは卒業生の中で三パーセントほどだ。三百人の生徒のうち九人ぐらいが選ばれる狭き門だった。
僕の場合はあこがれがあった。巨大な魔物に対し、タッグを組んで討伐する魔法士の物語は幼いときに胸を打った。だから、魔法士を目指して学校に入学した。
貴族の場合は魔法学校卒業という経歴ほしさが大半で、魔法士になるのは目的ではない生徒ばかりというのが実態である。
「畑仕事を手伝うの?」
「まあ、そうなるかな」
「私は魔法士に選ばれたら・・・・・・」
風が強めに吹いた。背中まで伸びるサラサラの青い髪が顔にかかり、手で払う。
「アレンと一緒にタッグを組みたいな」
「え?」
そ、それはどういうこと?
魔法士になったものは二、三人で行動することが多い。タッグを組むというが、カップルや親友がなる確率は非常に高い。特にレベッカの場合、魔法士になるのは必至で、誰がタッグを組むのかというのは男子生徒の中で関心事の一つとなっている。
ぼ、僕のことが好きってこと? いやいや。飛躍しすぎだろバカ。勘違いするな。調子に乗るな。
「ーーなんて言ったらどうする?」
「あ、いや・・・・・・」
うまく答えないでいるさまをレベッカは楽しんでいるかのように眺めていた。フッと笑う。
「冗談だよ。じゃあね」
いつものように手を振る彼女。降り返すのがやっとのアレン。
また、からかわれたのかな? う~ん・・・・・・。
ていうか、僕が魔法士に選ばれることなんてありえないから、気にしてもしょうがないことなんだけど、そうはいっても気になる。
夕方になり、日は沈みかけていた。
帰るか。
アレンは北東の学校へと戻っていった。帰る途中、大きな揺れを感じた。今度は前回よりも大きい。
大通りだったので大勢の人がいた。女性からの悲鳴が聞こえる。子供たちが泣き出す。若い男女のカップルは上を見上げ、なにかものが降ってこないか不安そうにしていた。
やがて地震はおさまった。人々は歩きだし、平穏が戻る。
また地震。最近多いな。
誰しもが、そんなことを思うだけだった。
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