リカオン拳闘倶楽部

@zatou_7

伝家の宝刀ワンツー

 バシッバシッパシパシパシパシ!

 ジャパリパークの森の一角に乾いた音がリズムよく響く

 枯木に巻かれたどこから拾ってきたのか分からないマットを何度も何度もリカオンは叩いていた


 ここはリカオンお手製のトレーニング場、ハンターたるもの常に自己鍛錬を欠かさないようにとの真面目でプロ意識が高く、そして頑張り屋のリカオンらしい考えだ

 お手製のサンドバッグを叩きながらリカオンは考えていた

 自分にはヒグマやキンシコウのような武器がない、頼れるのは己の拳だけ

 フレンズの中には自分の爪でセルリアンを攻撃できるものもいるがそれも自分にはできない


 動物だった頃は群れで狩りをして、噛みつきひっかきそんな事ができたが今はそうもいかない

 だからこうして地道に唯一の武器たる拳を鍛えるしかないと思った

 みんなを守りたいとハンターを志した頃、自分の長所を伸ばすべく何かいい作はないものかと図書館でハカセ達に相談して出会ったのがボクシングというものだ

 ヒトが行っていた戦い方らしい、幸い図書館の本には絵付きでボクシングを学べる本があり字が読めない私でも学ぶことができた

 見よう見まねではじめたボクシング、毎日毎日特訓を積み重ねていくうちに身体に染み付いてきた、その成果が「伝家の宝刀ワンツー」だ

 やや半身に構え左のジャブから繋げる右のストレート、たったこれだけだがこのワンツーをもっと完璧なものに仕上げるべくこうして本を見て作った手作りのサンドバッグを叩いている

 小型はもちろん、やや中型のセルリアンなら一人でも問題なく対処できるようになったがそれ以上となると仲間の力が必要だ

 ヒグマとキンシコウ、彼女らは強い、特にヒグマにはまだまだ足元にも及ばないと思っている、だから二人に追いつけるように、置いていかれないように己を鍛え上げている

 自分でも素手で戦うしか無いのにハンターになるなんて無謀だったのかもと思うこともあるが持って生まれたものがこれしかないなら仕方ない

 フレンズをセルリアンから守りたい、その気持は誰にも負けないつもりだ…ヒグマにも

 だから精一杯やれることをやる、みんなのためにも”オーダー”はキツくとも必ずこなす、それが私の信条だ


「ふぅ・・・ちょっと休憩しよう・・・」

 木漏れ日の下に寝転び竹に入れた水を飲み干す、森の心地いい風が頬を撫でる

 すっかりリラックスしていたその時・・・茂みの向こうで嫌な気配がした

「・・・なんだろう?あっ!」

 セルリアンだった、自分より大きめだがこの位ならやってやれない事もないだろう

 もっと大きなセルリアンを仲間と倒したこともあったし、ハンターとして活動して経験も重ねた、だから自分一人でもいけると思った

 気配を殺してセルリアンの石のある背後から野性解放し一気に距離を詰め伝家の宝刀を見舞った

「シッ!」

 ガンッ!ゴッ!

「!?・・・か、硬い・・・」

 予想外の硬さに握った拳が一瞬緩んだ、一旦距離を取りセルリアンとにらみ合う

 嫌な感じだ、このヒリヒリとする空気、このセルリアンは見た目より強いとハンターの勘が囁く

 ビュッ!

 セルリアンの口のような腕がリカオンに向かって伸びる

「んっ!ふっ!」

 膝の曲げ伸ばしと上半身の振りを使うボクシングの防御法ダッキングでセルリアンの攻撃をかわす

「これは…キツイかも…」

 ギリギリで攻撃をかわしていたがまともに当たったら一発で食べられると分かった

 攻撃を避けながら間合いを詰めワンツーを見舞ってから再び間合いをとるヒット・アンド・アウェイでセルリアンの身体を削っていった

「もう少し・・・次でキメてやるっ!」

 セルリアンに向かってリカオンは一気に畳み掛けた

 ビュッ

 バシッ

「うわっ!しまった!」

 紙一重で避けたと思ったセルリアンの攻撃が身体をかすめ体制を崩して尻もちをついてしまう

 尻もちをついたリカオンにセルリアンの腕が襲いかかった

「うわぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 やられる!そう思った刹那

「はああああああああああ!!!」

 パッカァァァァン

「ヒ、ヒグマさん!」

 ヒグマの強烈な一撃でセルリアンは四散した

「大丈夫かリカオン!?」

「は、はい!」

「バカ!なんで一人で戦ったりした!?群れで戦う事の大切さをよく知ってるお前らしくないぞ!」

「す、すみません!」

「全く・・・間一髪だったから良かったよ・・・ほら、立てるか?」

「だ、大丈夫です・・・」

「次からはちゃんと私とキンシコウを呼べよ?チームなんだから」

「はい!すみませんでした!」

「よし、じゃあ行こうか、向こうの方でまたセルリアンがでたらしい、キンシコウは先に向かってる」

「了解しました!」


 ヒグマさんに言われてハッとした、なんで一人で戦ったりしたんだろうか

 慢心・・・があったのかもしれない、自分でもよくわからない焦りがあったのかもしれない

 でもヒグマさんに言われて気づくあたり、やっぱりヒグマさんにはまだまだ勝てないということをハッキリ実感した

 これからもっと頑張ってヒグマさんに近づかないといけないな


「なんだよリカオンじっーと見つめて・・・なんかついてる?」

「い、いえ!なんでもありません!さあ行きましょうキンシコウさんが待ってます!」

「ああ!」

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