ツチノコの話

@takuntyu

ツチノコの話

「あら?ツチノコも来てたのね」

 

「ん?ああ、ギンギツネか。調べ物か?」

 

「ええ、ちょっと新しい薬のヒントを得ようかと思って」

 

「そうか、変わってないな」

 

「そういうツチノコはだいぶ変わったわね」

 

「そうか?…そうかもな…」

 

「昔のままだったら図書館なんて無縁だったでしょ?」

 

「そうだな」

 

「それ以前に話をすることも無かったかもね」

 

「女王討伐の時、俺もお前もいたろ?」

 

「そうだったわね」

 

「まあ俺は変わったのかもな」

 

「あの人が原因かしら?」

 

「そうだな。今じゃこうやって本を読むのも楽しいと思うようになった」

 

「酒好きのコミュ障がここまで変わるものなのね」

 

「コミュ障じゃない、独りが好きなだけだ。それは今だって変わらない」

 

「…」

 

「でもな…他の奴らとこうやって話すのも悪くないとも思うぞ」

 

「フフッ…そう…。じゃあ私はそろそろ行くわ。またね、ツチノコ」

 

「またなギンギツネ」

 

ギンギツネが言っていた通り、以前の俺はいつも独りだった。

 

サーバルたちと一緒に行動していたことはあるが、女王討伐のあとはまた独りに戻った。

 

それから半年が経ったある日、俺は1人の人間と出会った。

 

一年前…

 

「君は?」

 

「俺はツチノコだ。お前は誰だ?人間が俺に何の用だ?」

 

「僕はタクヤ。最近セルリアンが姿を見せるようになったから、中央から調査するように派遣されたんだ」

 

「セルリアン?女王倒してからは見かけなくなったのに、またアイツらが出てきたのか?」

 

「そうみたいなんだ」

 

「それで?俺に何の用だ?」

 

「いやー、迷ってしまってね」

 

「そりゃ迷うだろ。ここ洞窟だぞ?何でわざわざ…」

 

「ここの洞窟はセルリアン出現に関係しているみいでね」

 

「そうなのか」

 

半年近くここで暮らしているがセルリアンは見たことがない。

 

「どうやらこの洞窟の最深部に原因があるみたいなんだ」

 

「最深部…ああ」

 

確かに下へと続く道はあるが、そこから行けるのか。


「下に続く道を知ってるかい?」

 

「一応な」

 

「本当かい?そこまで案内してくれないかな?」

 

「…着いて来い」

 

まあ悪いやつではなさそうだな。

 

暇だし案内してやるか

  

………

 

「ここから下に行ける」

 

「ありがとう、ツチノコ」

 

「ああ。俺は帰るぞ」

 

来た道を戻ろうとした時

 

「何だ?」

 

道の先に何かいる。

 

「先に何かいるぞ」

 

「なんで分かるんだい?」

 

「見えるんだよ」

 

「こんなに暗いところが?…もしかしてそれって『ピット器官』かな?」

 

「そうなのか?」 

 

「うん。ヘビのフレンズにはピット器官っていう器官があるんだ。この器官は赤外線を見ることが出来てね、だからヘビなんかは暗いところでも狩りが出来るそうだよ」

 

確かに暗いところだとボヤッと形だけ見えていたりしたが、そういうことだったのか。

 

「お前、本人より詳しいな」

 

「僕は動物が好きでね。そういう本ばかり読んでいるんだ」

 

「そうか。…マズイな。下の奴らも俺たちに気付いたみたいだ」

 

「セルリアンも目がいいね」

 

「そんな呑気なこと言ってる場合かよ。どうする?」

 

「あいにく僕は頭脳担当でね」

 

「俺だって戦闘担当じゃないぞ。…上ってきてるな。逃げるぞ」

 

「下への道はここだけですか?」

 

「知らん。これ以上奥には行ったことない。とにかく走れ」

 

まったく、何でこうなった。

 

俺一人ならどうにかなったかもしれないが、コイツが一緒だとな…

 

「ふむ」

 

「どうした?」

 

「この先に見えるのは橋ですね」

 

「橋?こんな所にか?」

 

「本当に謎が多い洞窟ですね」

 

「おい、止まってないで行くぞ」

 

「この橋、使えるかもしれませんね」

 

「何に?」

 

「セルリアン退治です。取り敢えず向こう岸まで渡りましょう」

 

「ああ」

 

なんか策があるんだろう。

 

俺にはこれといった策もないし乗ってみるか。

 

「追っ手が橋の半分ぐらいまで来たらここを蹴ってください」

 

「分かった」

 

ドスン!ドスン!

 

「デカイな…」

 

「通常個体の2倍はありますね」

 

「蹴るぞ」

 

「お願いします」

 

ズダン!

 

俺は言われた所に渾身の一蹴りを入れる。

 

すると、

 

ガラガラガラ!!!

 

「ほお」

 

橋が崩れた。

 

セルリアンたちが橋と一緒に谷底へ落ちて行った。

 

「上手くいきましたね」

 

「さすが頭脳担当だな」

 

「かなり老朽化しているように見えたので。しかもあんなに重たそうなのが3体も乗ったら…」

 

「そりゃ蹴れば崩れるな。これからは注意して渡らないとな」

 

「石橋を叩いてってやつですね」

 

「待てよ?もしかして向こうに戻れなくなったか?」

 

「どうでしょう?まだ他の橋があるかもしれませんよ?」

 

「…それに賭けるしかねぇか」

 

「ツチノコ!ここから下へ行けそうですよ!」

 

「おお本当だな。行くか」

 

「安全な所に出たら少し休みましょう」

 

「そういや朝から何も食ってないな」

 

「ジャパリまんなら持ってきたので食べましょうか」

 

「助かる」

 

………

 

「今日はありがとうございました」

 

「止めろ。大した事はしてない」

 

「そうですか。でも気持ちをその場で伝えるのは大切なことですよ?いつ相手がいなくなるか分かりませんから…」

 

「その話も止めだ。縁起でもない」

 

「そうですね。それでは一杯いきますか?」

 

「一杯?…もしかして酒か!?」

 

「ええ。確か好きでしたよね?」

 

「ああ、大好物だ」

 

「ならちょうど良かったですね」

 

………

 

「起きてますか?」

 

「明日もあるんだ。早く寝ろ」

 

「本当に今日はありがとう。一人だったら多分ここにはいません」

 

「何だよ急に。明日死ぬのか?」

 

「かもしれませんね」

 

「まあ俺がいるから安心しろ」

 

「ツチノコは独りを好むと聞きますが、そうではないのですね」

 

「独りは好きだ。…でもお前といると少し楽しいな」

 

「それはよかったです。お休みなさい」

 

「お休み」

 

…………

 

朝目覚めるとアイツはいなかった。

 

代わりに一冊の本とそれに挟まった手紙と時計だけがあった。

 

手紙にはこう書かれていた。

 

 ツチノコへ

今日は本当にありがとう。

僕は一人で深部へ向かうことにしました。

パーク職員の使命はフレンズを守ること。

だから君を危険な目に合わせるわけにはいきません。

勝手にいなくなったお詫びに、本と時計を贈ります。

それとお願いが一つ。

僕が戻るまでここで待っていてくれますか?

もし今日中に戻らなかったら中央に連絡してください。

最後に、外の世界は面白いことで満ち溢れています。

助けてくれる仲間もいます。

たまには外の空気を吸ってください。

外にも君の居場所がきっとある。

さようなら。

 タクヤ

 

俺は手紙に書かれていた通り、そこで待った。

 

でもアイツは戻って来なかった。

 

中央に連絡しに行くと直ぐに調査隊が派遣された。


そして討伐された大型セルリアンの中からアイツの持ち物が見つかった。

 

………

 

「…終わりっと」

 

それからというもの、俺は少しずつ外の世界に触れるようになった。

 

今じゃ酒の次に本が好きかもしれない。

 

今日みたいに図書館で半日以上を過ごすことは少なくない。

 

「次は何読むかな」

 

今の俺の居場所は間違いなくここだ。

 

「ツチノコ!ちょうどよかった!聞きたいことがあるんだけどさ!これってさ…」

 

この生活も悪くないな。

 

次の俺も、その次の俺もこうやって生活して欲しいな。

 

今更だけどさ、

 

ありがとう、タクヤ…

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