第26話再発
30-026
花梨は自分が送ったメールに何も反応が無いのは、佐伯が怒っているからだと考えていた。
日曜日なら自宅に居るだろう?一度行ってみようと、DSアサヒを早退して、先日行った時に庭木が雑草だらけだったので、軍手と鎌を持って行こうと何故か思いついた。
夕方四時前に自宅に到着したが閉まっている。
先日よりも一層、草木が伸びて、植木を覆う程に成って、幽霊屋敷かと思う程に成っている。
玄関横の庭に、軍手を履いて入っていく花梨。
鎌で草を刈り始めると、しばらくして「先日の方ですね」と初老の女性が声をかけた。
物音がしたので見にきたのだが、花梨を見て先日の女性だと気が付いたのだ。
「今日は、草刈りですか?佐伯さん放りっぱなしだから、雑草凄いですね」と微笑む。
「あっ、こんにちは、先日寄せて頂いた時、雑草が多かったので、今日は鎌を持って来ました」と微笑む花梨。
「名前聞いてなかったわね、親戚の方?」と尋ねる。
「はい、そうかも知れません」と笑顔で答える花梨に女性は「男は歳取って一人に成ると何も出来ないわね」と話すと、自宅に戻って行った。
花梨は佐伯が草刈りが終わっても帰らないので、仕方なく帰る事にした。
時計を見ると六時前に成っていたが、佐伯は帰って来ない。
最近佐伯は、日曜日に成ると自転車で近所の一円パチンコに行って時間を潰す事が多くなっていた。
この日も昼前から行って、帰って来たのは夜の八時を過ぎていた。
最近パチンコに凝りだしたので、昔の普通のパチンコは直ぐに負けるからする事は無いが、これなら時間を十分潰せるから、凝りだしたのだ。
自宅に帰っても、暗いので庭の草が綺麗に成っている事に気が付かない佐伯。
コンビニで弁当を買って、インスタントのみそ汁を作って食べ始める。
明後日に肺癌の定期健診に行くが、佐伯は役所に退職届を出す為に書き始める。
もう、働く気力が無くなっていた。
殆ど仕事らしい仕事も無く、日々を過ごす事に疲れていた佐伯。
もし、次回の検診で肺癌が再発していたら、その様な事も考えるとノイローゼの様になっていた。
母が亡くなり、肺癌で入院、恋心を抱いた花梨には大藪と云うお金持ちの社長が居て失恋。
もしも自分が亡成ったらどうすれば良いのだろう?
母の遺書の通りにする事が正しいのだろうか?と思い悩んで、佐伯は美千代宛の手紙を書き始めた。
美千代様へ
同封しました手紙は私の母が残した遺言書の様な物です。
もし、私が肺癌を再発しましたら、この手紙を読まれて、ママの判断に委ねます。
この様な手紙を委ねる事は大変心苦しいのですが、何方にもお願いする術が有りませんので、よろしくお願いいたします。
花梨さんには、今大藪社長さんとのお付き合いが有るとお聞きしましたので、迷惑に成る様でしたら、寄付も考慮に入れて頂けたら幸いです。
唯、母の思いも有りますので、この様な手紙を送ってしまいました。
僅かな期間でも楽しい思いを致しました事を、うれしく思っています。
佐伯 悟
翌朝、退職願いを持って、家を出る佐伯が「あれ?」と玄関の横の庭が綺麗に掃除されている事に気が付く。
隅にはビニール袋に刈り取った草が、詰め込まれて置かれて在る。
不思議な光景を見て、役所に向う。
退職願いを渡すと「病気で、大変でしたね、これからはゆっくりして下さい」と厄介者が居なくなったと思われる様な言葉で受理された。
「有給が残っていましたら、使って下さい」と来月末まで、休んでも全く支障が無い様に言われて、夕方いつもの様に、コンビニで弁当を買って帰る。
自宅の前で、隣家の女性が「自宅を手放されるの?」と急に尋ねた。
「いいえ、考えていませんが?」と答えると「じゃあ、再婚されるの?」と今度は笑顔で尋ねる。
「どうしてですか?」不思議な顔で尋ねる佐伯。
「昨日夕方、庭の掃除に来られていた方、先日お越しに成った方でしたから」
「えー、その女性が掃除をしていったのですか?」驚く佐伯。
「二時間程かかっていましたよ、私がそのビニール袋お渡ししましたのよ」
「えー、それはありがとうございます」とは言ったが、母が何か手続きをしたのだろうか?急いで小さな金庫を開いて調べるが、別に変わった書類も入っていなかった。
佐伯は何故か胸を撫ぜおろしていた。
母が何か手続きをしているのに、あの手紙をママに送ったら、とんでもない事成ってしまうからだ。
翌日佐伯は県立病院に検査の為に向かう、胸には美千代宛の封筒を持っていた。
「佐伯さん、その後の体調は如何ですか?」
「悪くも無く、良くも無くです」と話しながら始まる検査。
胸部のCT撮影で調べる。
胸部CT検査は、胸の部分を様々な角度から連続でレントゲン撮影をして、その情報をコンピューターで解析し、癌の大きさや発生場所、リンパ節への転移の有無謎を調べる。
しばらくして、医師が「佐伯さん、もう少し詳しく調べますから、近いうちに検査入院して下さい」と言った。
「再発ですか?」と尋ねる佐伯に「いいえ、そういう訳では有りませんが、もう少し細部に調べて、転移とかを調べて、完全に治ったのを、確かめたいと思いますので」と言われて「はい」と答えたが、佐伯は癌が再発してしまったと思い始めた。
来週に三日程入院と言われたが、殆ど聞いていない状況で病院を後にした。
駅前に見える郵便ポストに、持っていた封筒を投函して、コンビニに入るが弁当を買う気力も無くなっていた。
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