第22話母の遺言
30-022
美千代はその包みが、装飾品だと直ぐに判った。
それも、指輪?だと感じ取ったが、佐伯と花梨の関係はよく判らないので、次回花梨が店に来たら佐伯さんの病状を話して渡そうと思った。
時子に連絡が届いたのを佐伯は知らない。
身内の承諾を貰う為に時子に連絡がされて、時子は大きなショックを受けて、一気に衰えていた。
美千代が花梨に会ったのは、火曜日の八時過ぎ「花梨、佐伯さんの入院知っているのかい?」
「はい、お母さんの入院は知っていますよ」と平然と答える。
「ちがうわよ、課長さんの方よ」
「えー、知りませんが?」と驚く花梨。
「県立病院に入院されているわ、肺癌らしいわ」
「えー、肺癌?」と病名を聞いて尚更驚く花梨。
「時間作って、お見舞いに行って来たら?」と美千代が言うと「私一人が見舞いに行くのは、変でしょう?」と言い始める花梨。
「花梨は世話に成っているでしょう?」
「別に特別には何も無いわよ」と言うので「これ預かって来たわ、自分で渡したかったけれど、来週手術だから、気に成るから渡して欲しいと言われて、預かって来たのよ」と包みを渡すと、早速開く花梨。
「わあー」と驚きの声を上げる花梨に、恵美子が見に来て「わーダイヤの指輪」と言った。
「こんなの、貰うと困るわ、変な関係だと思われる」と言い始める花梨。
「そう思うなら、自分で返してきなさいよ」と美千代が言う。
恵美子が「この指輪、結構な値段よ」と食い入る様に見る。
そこに杏子がやって来て「わー、指輪!誰の?」と尋ねる。
「お客さんの課長さんが花梨さんに、プレゼントしてくれたのよ」と恵美子が教える。
「課長さんは帰られたの?」
「ママが病院で預かって来たのよ、課長さん肺癌なのよ」
「えー肺癌、もう駄目なの?」杏子は勝手に話を飛躍させる。
そこに、五人の客が入って来て、話は途切れてしまった。
杏子が小声で「貰っておきなさいよ!若しかしたら、亡くなるかも知れないし、花梨の為に買ったのだろうから、返されるとショックで。。。。」と脅かす様に話した。
帰る頃には、圭太が貢いだと思えば良いのよね、高いって云っても十万程度だろう?
杏子が言う通りだわ、返すとショックに成ったら駄目だから、頂いておこうと決めてしまった。
弓子はラーメン屋で尋ねた花梨の話が気になって、大藪と何か有ったのだと機会が有る度に菅原タクシーを探していたが,中々巡り合わず随分経過してから漸く見つけた。
「(梨花)の方ですよね」
「そうです、聞きたい事が有るのですが?」
「何でしょうか?」
「もう随分前の事なのですが?」と粗方話し出すと「その話ね、知らなかったのですよ!店の女の子だと知っていたら、大藪さんの彼女執念深いでしょう?」と話すので「やはりね、行ったのね」納得した。
「内緒ですよ、ママに叱られますからね」菅原は何度も大藪の彼女に、他に何処の女性をとか、その後はどうなった?とか何度も聞かれて、うんざりしていたのだ。
ついに店に乗り込んだから、尋ねに来たと勘違いをしていた。
弓子は勝手な想像をして、菅原にお金を少し渡してお礼を言った。
あの日、大藪にラブホに連れ込まれたのね、時間もそれ位に成るわね、面白い秘密だと微笑んでいた。
翌週に成っても、花梨は病院に見舞いに行った様子も無かった。
美千代が「お見舞いに行ったの?今週手術だと聞いているのよ」と教えても「お見舞い誰も行かないのでしょう?私だけ行ったら変でしょう?」と困り顔に成る。
「でも指輪貰ったでしょう?見舞いに入った方が良いのでは?」美千代が言う。
「飲み屋さんに来る人って、自分が遊ぶ為にプレゼントするのよ、渡辺さんも大藪さんも他の人も色々貰いましたよ、その度に見舞いに行っていたら,身体が持ちませんよ」と笑う花梨。
美千代も呆れてしまうが、確かに大藪は花梨の身体を目当てに、ホテルに連れ込んで変な写真を写していた。
美千代はそれ以上の事を言うのを諦めた。
機嫌を損ねて、店を辞められても困ってしまう、結構花梨目当ての客も多かったからだ。
数日後佐伯の手術は無事に終わって、後数週間の入院で退院の見込みに成っていたが、母時子の容体が悪く成っていたのだ。
電話で婦長が連絡をくれるので、悪い事は知ってはいたが、自分もまだ動ける状況ではないから、どうする事も出来ない佐伯。
美千代さんは花梨さんに渡してくれたのだろうか?お礼のメールも一切届かないので、不安になる佐伯。
花梨に、預けていた物は気に入りましたか?とも連絡できない佐伯。
母は、花梨と自分が結ばれると信じていた矢先、癌が見つかっての入院から手術に不安が大きく成る佐伯。
ピアスを渡した時の反応から、次回は指輪を渡して告白しようと思っていたが、思わぬ病でママに品物だけを預けてしまった自分を悔いていた。
でも、もしも手術が失敗なら、せっかく買った品物が無駄に成ってしまうと。。。。。。。
今は後悔の日々に成っている。
月末に成って漸く退院をした佐伯は、母の病院に急いで向かった。
母時子は、痩せこけて眼光だけが鋭く見えた。
「お母さん、心配をかけました、無事手術も終わり今日退院しました」と言うと「よ、か、った」とか細い声で言う。
「そ、こ、に」とベッドの側の引き出しを指さす。
「何か?取るのか?」と引き出しを開けると、手紙が入っている。
「これを、どうするの?」と尋ねる佐伯に「や、ぶ。。。。」と言うと、意識を失う。
驚いて、緊急ボタンを押す佐伯「お母さん!」と叫ぶと、隣の患者が「昨日も危なかったわ」とのぞき込む。
九十歳を超えた時子に、息子が癌だとの知らせは、精神的にも、肉体的にも大きなダメージを残していた。
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