第21話記憶

30-021

渡辺はライバルが一人も今夜は来なかったので、ワンマンショー状態で上機嫌で終始した。

花梨は渡辺の相手をしながら、あの夜の事を想い出そうと必死だったが、自宅に送ってくれたのは、菅原タクシーって書いて有った事までしか覚えていない。

自宅に一緒に、大藪とママが連れて入ってくれた様な気がしていたが?と考えていると里奈に帰った時間を聞けば、店が終わってから帰宅までの時間が判ると思い立って、メールを送った。

しばらくして(何を今頃!三時過ぎだったわよ、何も覚えて無いの?)と里奈からメールが返信された。

「えー、三時?」と携帯を見て口走る花梨に、渡辺が驚いて「三時って?明日でもデートしてくれるの?」と微笑む。

「うちの花梨さんはお客さんとはデートは一切しません、私はいつでもOKですよ」と笑う弓子。

「それが男心を擽るのだよ、弓子さんも見習ったら?」と言う渡辺に「私は、美味しい物が食べられるなら、誰とでも行きますよ」と笑うと「ホテルでも?」と渡辺が言う。

花梨の頭に、ホテル?三時?十二時過ぎに店を出たら、三時に自宅に到着する訳無い。

車なら十分も必要無いから、益々時間、写真と疑惑が湧き起こる。

でもSEXをしたと云う感じは全く無かったのも事実、翌朝目覚めた時、下着もそのままだった事は記憶していた。

でも空白の約三時間?気に成る花梨は仕事が終わって弓子に「少しお腹が空いたわね、ラーメン食べに行かない?」と誘って、その時の事を聞こうとする。


ラーメン屋に入ると直ぐに「私が、酔っ払った日の事覚えている?」と尋ねる花梨。

「凄い酔い方で、寝て居たわね」

「私家に帰ったのが三時過ぎだったのよ、大藪さんとママに送って貰ってね、何故?三時まで?」と尋ねる花梨。

弓子はあの日の事を思い出そうとしていた。

勘の良い弓子は、花梨の言葉で大体の話の筋道が判っていたのか?勘違いか?

「遅く成ったのは、ママが飲酒で警察に捕まったからよ」

「そうなの?飲酒で捕まったのは私が原因?」と驚く花梨。

「私も飲酒で捕まりそうだったから、車で待機してから、帰ったのよ」

「そうだったのね」

「多分警察に行ったから、遅く成ったのよ」と誤魔化す弓子。

花梨も半分納得して、ラーメンを食べて帰宅した。


その後花梨は、出勤の度に佐伯に貰った三点セットを一週間身に着けていたが、佐伯は姿を見せない。

勿論DSアサヒにも来る事が無かった。

メールもあの日、ピアスを貰った日から一度も届かない。

元々自分の方から絶対にメールを送ることが無い花梨も、流石に心配に成っていた。


数日後店に来た渡辺が「佐伯課長さん、入院されているらしいね」と恵美子に話した。

七時半で恵美子以外来ていないのだが「最近見ないと思ったわ、何処が悪いの?」と心配顔。

「定期検診で引っかかったので、検査入院だと聞いたけれど、年取ると人ごとでは無いよ」と微笑む。

八時に花梨が来たが、佐伯の話を渡辺はする事が無く、世間話に終始した。

大藪はあの日から、顔を見せないので、確かめる術が無い花梨。

十二時に成って恵美子が「佐伯さんって入院されているのね」と話したので「そうよ、後二ヶ月は入院らしわよ」花梨が言う。

「知っていたのね、それで来られないのに、気にしてなかったの?」

「まあね」と花梨は母親の具合が悪いので来られないと理解して、恵美子は花梨には既に連絡が有ったのだと理解して、お互いが誤解の中での会話に成っていた。


数日後、美千代が「課長さん、入院されている様よ」と何処で聞いてきたのか判らないが、店で弓子と恵美子に話した。

「花梨知っているのか?」と心配する美千代に、恵美子が「知っていると先日話していたわ」と言った。

「見舞いに行ったのかしら、世話に成っていたのだろう?」

「行ったから、知っているのでは?」

「それなら、良いけれどね」と話すと「今度の日曜に行って来ようと思っているのよ」と美千代が話す。


佐伯は役所の検診で肺に影が写って、検査入院に成ったが、そのまま県立病院に入院に成っていた。

父親も肺癌で、比較的早く亡くなっていたから、注意をして煙草も控えていたが、仕事の関係で廻りはヘビースモーカーが多く注意をしていても限界だった。

佐伯は隠しているが、母時子に知られてしまうのは時間の問題だった。


日曜日に病院に見舞いに行った美千代に「ママさん、態々お見舞いに?」驚きの表情で迎えた。

「そうですよ、最近来られないので、心配していましたら先日、役所の方から課長さんが入院されたと聞きまして、遅ればせながらお見舞いに来ました」美千代が微笑む。

「それは、すみません気を使わせまして」と元気そうに喋る佐伯。

「実は肺癌なのですよ、親父と同じですよ」と微笑む。

「容体は如何ですか?」

「来週手術の予定です」

「まあ、手術?」

「器具を入れて切除する手術で、全身麻酔でなくて局所麻酔で行うので、比較的簡単の様に先生はおっしゃっていました」

「でも、手術と聞いただけで恐いわ、花梨来ましたか?」

「いいえ、花梨さんには何も話していませんよ」

「そうなの?知っている様に言っていたのに、変ね」と果物の籠を置いて帰ろうとすると、引き出しから小さな包みを出して「これを、花梨さんに渡して貰えませんか?」と話した。

「何なの?」

「これは、花梨さんに渡そうと思って買った物なのですが、入院に成ってしまって渡せなく成ったので、お願いします」微笑みながら手渡した。

「自分で渡せば良いのに」と美千代が言うと「簡単な手術だと言っても、一応は覚悟が必要ですから、渡して置きたいのです」と真剣な表情の悟。

「そうなの、じゃあ、預かるけれど、何て言えば良いの?」

「それは、無事退院出来たら自分から言います、取り敢えず渡して下さい」と言うと、その後はその話には触れなかった。



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