第20話最後のプレゼント

 30-020

小声で「大藪さん、貴方!あの日写真を写していたでしょう?」と言う美千代。

「えっ!」と驚く大藪。

小声で「ネガ出しなさいよ!」と詰め寄る美千代。

廻りには写真としか聞こえないが、何か複雑な話に聞こえている。

だが、直ぐに弓子と一緒に花梨が入って来るので、話を中断してしまう美千代。

花梨は大藪の処にママが居るので、佐伯の前に行く事にする。

「課長さん、久しぶりね」と微笑むと、佐伯も微笑んで「母が入院していたから、来られなかった」と答えると「何処が?悪かったの?」と心配顔で尋ねる。

「転んで、大腿骨を骨折してしまったのです」

「まあ、転んで?」

「歳ですからね、足腰が弱っているのですよ」今夜は花梨が佐伯の前に絶えず居座る。

大藪の前には美千代が陣取って動かないから、仕方無いから前に居るのだが、佐伯は自分の事を気にして、居てくれると解釈をするから楽しい。

渡辺が弓子と歌を歌い始めると新しい客が入って来て、恵美子が相手をするので益々花梨と佐伯は話し込む事に成る。

流石に写真で窮地の大藪は、チャンスが有れば逃げだそうと考えていた。

美千代が厨房に消えるのを待っていた様に、恵美子に帰ると手振りで伝えて、勘定は後日の仕草をすると、急いで店を出る大藪。

すると慌てたのは花梨で、あの酔っ払って世話に成ったと思っていたから、お礼を言おうと追い掛ける体勢に入ると、厨房から美千代が飛び出して来て、追い掛ける。

「写真!花梨の写真置いて行って!」と大きな声を出す美千代。

花梨が遅れて出て来て「せんじ。。。。。。」で言葉が止まってしまった。

「何?」「私の写真?」「大藪さんに?写真って」と次々と独り言を言って、美千代の後に付いて行くと、急に美千代が振り返って「逃げて。。。。。。。か、り。。。。」と言葉を失う美千代。

「ママ、私の写真って?」と尋ねる花梨。

「いや、その何でも無い」と慌てて誤魔化す美千代は作り笑いで、店の中に花梨を連れて入る。

しばらく花梨と佐伯は会話を楽しんだが「帰りに病院に立ち寄りたいので、帰ります」

と機嫌良く立ち上がる佐伯。

「遅い時間で大丈夫ですか?」と花梨が病院の時間を気にする。

「少しなら」と言うと勘定を済ませて外に出ると、花梨だけが見送りに出て来た。

佐伯は最後のプレゼントのピアスの小箱をポケットから出して、花梨に放り投げる様に渡した。

「これは?」と驚き顔でキャッチした花梨が言う。

「今夜は楽しかった、沢山話も出来ました、貴女に似合うと思います」と照れながら言う佐伯。

小箱を開けて「綺麗なピアス!」と喜びの表情をする花梨。

「セットですから、また近い内に見に来ます」と佐伯は嬉しそうに帰って行った。

花梨は大事そうに小箱を、胸に店に戻りながら、やっぱり男はアホだな、少し話をするだけで、こんな物を貰えるからねと含み笑いで店に戻った。


時計は九時半を過ぎた処で、今夜は結構早く大藪が帰ってしまったのだと考える花梨。

でも先程のママの「写真、花梨の写真置いて行って!」が頭に蘇って、自分が大藪の写真のモデルに成った覚えも無かったが、大藪が高級カメラをいつも持っていて「写してあげましょうか?」と何度か言われた事は想い出した。

でも一度も応じた記憶が無いのに、何故?と考え込む。


病室に行った佐伯が「お母さん、一度話してみようと今夜決めたよ」と時子に言った。

「悟が嬉しそうに、遅い時間に来るから、何事かと思ったわ」と微笑む時子。

「今夜ね!色々話をして、改めて良い人だと思ったよ」と嬉しそうな佐伯。

「お前が決めたのなら、お母さんは何も言わないよ、まだ長い人生だから一人は寂しいよ」と息子の心配をする母親。


自宅に帰っても花梨は、写真の言葉と慌てたママ美千代の姿を想い出す。

貰ったネックレス、ブレスレット、ピアスを揃えて着けて見る花梨は、ご満悦の顔に成るが、また写真の話を想い出す。

若しかして、私が酔っ払って倒れていた写真を撮影された?

そうだわ、間違い無いわ!寝て居て記憶が無かったから、撮影されちゃったの?恥ずかしいわね!と考えながら眠る花梨。


翌日も美千代は、再三電話をするが居留守で、電話に出ない。

美千代はあの写真が悪用されたら、困るので必死に成っていた。

花梨は早速三点セットを身に着けて、機嫌良くやって来た。

目敏い弓子が「それ、セットじゃないの?ダイヤ?」と目を凝らして見て「ダイヤだ!本物ね、それ程高くないけれど、三点セットだからね」と微笑む。

そして「誰に貰った?大藪さん?そうでしょう?大藪さんだ!」と言い切る。

「違うわよ!]と花梨が言うと「気をつけなさいよ、大藪さんホテルに連れ込むと必ず写真写すらしいわよ!写されてない?」と尋ねる弓子の言葉に背筋が凍る美千代。

花梨は「大藪さんじゃ無いから、大丈夫よ!写真な。。。。。。。」で言葉が止まる花梨。

「どうしたの?」と怪訝な顔の弓子に「何でも無いわ、兎に角大藪さんは関係無い」と言い切る花梨。

その時、渡辺が入って来て「いらっしゃい」と声を揃える三人に渡辺が「似合っていますよ」と花梨の装飾品を見て言ったので、弓子は渡辺が花梨に贈った物だと決め付けた。

「お客様に、色々頂いてすみません」と美千代まで渡辺にお礼を言う。

顔では笑っていた花梨は、写真、大藪、ラブホの言葉が頭の中で、渦巻いていた。

記憶を取り戻そうと必死に成っている自分が、そこに居たのだ。

あの日、ブランデーを飲みすぎたのは、夕方の祖父母の事が原因で興奮して、店に入った。

佐伯が三人出来て、今まで見た事がない女性と同伴だったのを見て、飲みすぎた?

何処かで胸を圧迫されて、吐きそうに成った?

あれは?何処?とラブホのベッドで、寝て居た記憶が途切れ途切れに出て来る。

「どうしたの?花梨さん、ぼんやりとして?」と弓子に言われて、我に返る花梨。




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