第19話酔っ払い

30-019

風呂場にようやく連れて行って、キャミソールを脱がせようとした時、室内の電話が鳴り響いて「何だ、五月蠅いな」と電話に向かう大藪に「大藪社長!何と云う事をするの?酔っ払って意識の無い女性を強姦すると犯罪ですよ」と美千代の甲高い声。

「えー、ママ」と驚きの声に成った大藪に「今、お風呂?花梨は気が付いたの?」大きな声が耳に響く。

「まだ、風呂には入ってない、酔っ払って寝て居る」

「そうなの?本人は気が付いてないのね」

「まだ、判ってない」

「今夜の事は、二人の秘密にしましょう、何事も無かった事に」と言うと電話が切れて、直ぐに扉をノックする美千代。

少しの時間でカメラを隠した大藪、美千代が入って来て浴室に行って、寝そべるキャミソール姿の花梨を見つけて「手伝って、服を着せて自宅迄送って行きましょう」美千代は一安心の顔。

「何故?ここが判った?」と不思議な顔の大藪。

「同じタクシーに乗ったのよ」

「菅原タクシーか?」

「菅原さんは、うちの子だと知らなかったのよ」と言われて、大藪は美千代に黙ってくれる様に頼む立場に変わった。

しばらくして、菅原のタクシーに乗せられて花梨は公団に帰って行った。

公団に到着の頃に成って、漸く酔いが少し醒めたのか「すみません、酔っ払ってしまって」と謝る言葉を話した。

それでも歩けなくて、公団の自宅迄肩を貸して二人で運んだ。

中から里奈が驚いて「ママ、こんなに酔っ払って?大丈夫」と言いながら迎え入れた。


帰りのタクシーの中で、美千代は今までと変わらず接して欲しいと大藪に念を押した。

大藪は大きな秘密を美千代に握られたので、従わざるを得ない。

美千代を自宅で降ろすと、菅原タクシーで自宅に帰って行く大藪が「菅原さんの、上客がママだったのは、知らなかったな」と驚いた様に話した。

「社長も、酔い潰して店の子に手を出したらいけませんよ、犯罪で訴えられても、仕方が無かったのですから」と厳しい意見を言う菅原。

大藪は警察に通報までして、上手く事が運んだと喜んでいたのに哀れな結末で、諦め切れない気持ちが大きく成ってしまった。


自宅に帰った花梨は、水を飲むと死んだ様に眠ったが、翌日は完璧な二日酔い状態で、何処にも行かずに、夜の仕事も休む事に成ってしまった。

幸い昨夜の事は何も覚えていない事に、安心に成った美千代だが、世間は恐い何処からこの話が漏れて花梨の耳に聞こえるか判らないので心配の美千代だった。


木曜日に成っても頭が痛い花梨は、もう二度とブランデーは飲まない様にしようと、三日酔いに苦しんでいた。

昼過ぎ「最近、佐伯さん買い物に来ないわね」と同僚が花梨に話す。

確かに最近DSあさひで、佐伯に会う事は無いが店にも来てない気がしていた。

夜は先日三人で遅い時間にやって来たのを確認していたが?

佐伯は、母時子が入院をしたので、おむつとかの必要が無くなっていたのだ。

完全看護の病院だから、安心なのだが大腿骨の骨折で手術をして、入院に成っていた。

病院に行くと「あの女の人とは、その後どうなの?」と尋ねる時子。

「どうって?」と惚ける佐伯に「悟、好きだったのでしょう?」と確かめる時子。

相手の気持ちが判らない佐伯には、はっきりと答えられない。

「しっかりしなさい、悟は女性に優しすぎます」と手厳しい時子の声に「はい、すみません」と項垂れて謝る佐伯だ。

時子は骨折の手術は成功したが、年齢が年齢なのでリハビリと合わせると三ヶ月以上の入院に成る。

最初の病院で一ヶ月、そこから転院してリハビリが普通で二ヶ月、長ければ三ヶ月に成る。

転院先も完全看護の病院を予定して、佐伯は病院に毎日行なくても良い様にする。

先日(梨花)に行った二人は、その病院を紹介してくれた方と病院の婦長さんで、元々男性は飲み友達で、婦長赤松さんは彼森田の友人だ。

食事をご馳走して、スナック(梨花)に誘ったのだった。


佐伯は、(梨花)に来る日も少なく成って、月に二度程しか来なく成った。

母の病院に行くので、酔っ払っては行けないのが理由のひとつで、もう一つは花梨を食事に誘っても来て貰えないので、半ば諦めも有った。

店に行っても、殆ど別の客の処に行って佐伯の前には来ないのが、足が遠のく理由に成っていた。

母の時子に言われた様に、好意は持っている悟だが、相手にされない状況は致し方無い。


大藪事件から二週間が経過して、大藪も少し罰が悪かったのか、週に一度少しの時間だけで帰って行った。

相変わらず週に二日程度来るのは、渡辺社長だけだった。


しばらくして佐伯も母時子がリハビリの病院に転院して、近くなったので久々に(梨花)の扉を開いた。

「いらっしゃい、課長さんお久しぶり」と恵美子が笑顔で迎え入れた。

今夜に限って、既に大藪と渡辺がカウンターに座っていて、渡辺が「佐伯さんお久しぶりです」と会釈をした。

一応は役所の元課長で、昔は世話に成ったので、遠慮はしながらの態度だ。

恵美子が今夜はどの様な展開に成るのだろう?と興味津々だ。

しばらくして、ママの美千代がやって来て「課長さん、お久しぶり」と笑顔で挨拶をした。

しかし、恐い顔で大藪の処に行く美千代。

運転免許が停止に成っているので、最近は菅原タクシーを足に使っていた美千代。

その菅原が「これ誰だか判りますか?」と写真を見せたのだ。

美千代の顔から血の気が引いた一瞬だった。

それは、花梨の下着姿の写真を菅原に見せられたから、美千代は興奮して大藪の処に向かったのだ。

大藪以外に犯人は居なかったからだ。

大藪は全く異なる女性に、写真を見せて「この女四十五歳で、先日抱いたのだよ、お前より綺麗か?」と尋ねていた。

他の女を引っかけるネタに使っていたのだ。

その女性が「私の方が断然若いし、綺麗だわ!見てみる?」と話してメールの写真でこの女が誰か?と菅原タクシーに乗った時に尋ねたのだ。

世間は狭いから、直ぐに菅原から美千代に伝わったのだった。

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