第17話貢ぐ

30-017

花梨は、この様にすれば男から色々な物を貰えるのだわ!

圭太が昔(千歳)のママに毟り取られたのが判る気がするわ、飲み屋に来る男はみんな同じ動物なのね!

佐伯に貰ったブレスレットを手首に着けて、鏡の手首を見ていると「お母さん!それダイヤね、ネックレスとお揃い?」そう言われて、鏡台の引き出しから取り出す。

「ほんとうだわ!」と並べて見ると、確かに同じデザインの、金扡にダイヤが散りばめられていた。

「お母さん、同じ人にまた貰ったのね?」と意味深に尋ねる里奈に「馬鹿な客よ、帽子も時計も同じ様な物よ」としらけた様に言う花梨。

「じゃあ、私に頂戴」と強請る。

「駄目です、高校生が着ける品物では無いわ!」とブレスレットを見ながら微笑む。

「もっと、貰えれば頂戴ね!」と笑う里奈。

昔は食べ物とか、何処かの旅行の土産が多かったが、最近急に高級品を貰ってくるから、何かが変わったと思う里奈。

母も女としての時間が少なく成っているから、自分に遠慮しないで楽しんで欲しいと、最近思える様に成っていたのだ。


子供の思いとは全く異なる事を考えている花梨。

DSアサヒでは、佐伯に会わない様にして、その後も何度か佐伯は来ていたが、隠れる花梨。

完全に佐伯は夜の仕事の人に変わっているので、会いたく無い。

佐伯は昼間の仕事場では会えないので、梨花に足が向くので、週に二度花梨の出勤時に店に行く。

美千代は「花梨のファンがまた増えて、売り上げには助かるわ」と喜ぶ。

佐伯は週に一本か、二週間で一本のペースでボトルを飲んでしまうので、大いに助かる。

花梨は「仕事場で、夜のバイトの人と話す事は、良く思われないので、声をかけないで下さいね」と微笑みながら言った。

佐伯は、ここのお客さんに声をかけられる事が有って、困った事が有ったのだと解釈して、その後はDSアサヒで見かけても声は掛けなく成った。


数日後何処で調べたのか、鎌田の祖父母がDSアサヒにやって来て、買い物をしてから、お金を忘れたと言い始めて「私はここに勤めている、金井の親だ!」と言って、逃げも隠れもしないと騒いで、早番で帰った花梨に連絡が店から有ったのだ。

金額を尋ねると五千円程度だったので、私が払いますと言って終わったが、店に行く用意の最中で、もう少しで呼び出される寸前だった。

この事件で、花梨は興奮の中で店に向かった。

この興奮が花梨に、異なる事件を巻き起こす元に成ってしまうとは、その時判る筈も無かった。


八時に店に入ると既に、大藪がカウンターに座って待っている。

渡辺と佐伯が今夜は来ていない様だから、ママが大藪の前に行きなさいと目で指示をする。

「こんばんは、いらっしゃいませ」と言うと「もうボトルが空ですよ、花梨さんが来たら、あのボトルを新しく飲もうかと、待っていたのですよ」と指を指す。

この店でも飾り用に先日置いた高級ブランデーで、酒屋が飾りで置いていたら店の箔が付きますよ、中に一人位飲んでくれる人が居たら最高ですと言って、置いたのだ。

売れれば酒屋に支払う置物の様な酒を、早速大藪が飲もうと言い出した。

「大藪社長、本当にこれを?」と美千代が驚き顔で確認をする。

「ママ、それ十万程でしょう?」と尋ねる大藪の顔が笑っていた。

「大藪社長のおっしゃる値段にしますよ」と笑顔で答える美千代は、棚から下ろして大藪の前に置いた。

「ロック?」と花梨が尋ねると「ストレートで飲みますよ、チエイサー下さい」と微笑む大藪。

ここに、二人のどちらかが来たら、どうなるの?と微笑みながら、ブランデーグラスを目の前に置く恵美子。

「もう一つ下さいよ」と大藪が言って、花梨に勧める。

「私、ブランデーは弱いので」と遠慮をすると、美千代が「こんな上等なお酒中々飲めませんよ」と自分が飲みたい様に言った。

「ママもどうぞ」と言うと、恵美子が「私も飲みたいな」と言うので「皆さんで飲みましょう」と笑う大藪。

昔、花梨はブランデーを飲んで悪酔いした記憶が、有ったので飲むのを控えようとする。

「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」と三人が言って「はい、乾杯」と大藪がストレートで一口飲んで「美味しい!」と声を上げる。

一口飲んでも美味しいと思わない花梨だったが、美千代も恵美子も声を揃えて「美味しいわ」と言うので「美味しいです」と言う花梨。

しばらくして、客が二人入って来て、恵美子がその客の前に移動する。

いつもなら、来る時間では無いのに、佐伯が役所の先輩と女性の三人一緒に、九時に成ってやって来た。

弓子も一緒に店に入って来て「そこで、会ったのよ」と言うと、美千代が「課長さん、今夜は遅いですね」と微笑む。

佐伯はチラッと花梨を見たが、花梨は「いらっしゃいませ」と言っただけで、おしぼりを三人に渡すと直ぐに大藪の前に戻って「美味しいわ」とブランデーを一気に飲み干した。

佐伯が女性を真ん中に、楽しそうに話をしているのが、何故か腹が立っていた。

夕方の鎌田の祖父母の事を、大藪に話し始める花梨は、どんどん腹が立ってきたのか、二杯目のブランデーを飲み干してしまう。

「美味しいでしょう?」と大藪が強要する様に言う。

美味しくは無いが「はい、高いお酒は格別ですね」と饒舌に成っている花梨。

そこに、五人の団体客が入って来て、ボックスに座ったので、ママがボックスに行く。

しばらくして、佐伯と女性がデュエットを歌い始める。

梨花の女性は、それぞれの客で忙しくしているので、花梨がどれ位飲んでいるのか判らない。

大藪が、十時半を過ぎた辺りで花梨が酔っ払っている事に気が付いて、これは面白そうだと自分は飲む事をセーブし始めている。

チャンスが有れば、いつでも狙っているのが、大藪だとは普段は警戒していた花梨も、酔いが廻って思考力が無くなっていた。

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