第16話変わる人格

   30-016

花梨は殆どスナック(梨花)のお客とは、同伴をする事がない。

時々、店のママに言われて同席した事は有るが、基本的には酔っ払いで軽蔑している人種と、二人きりで食事に行く事は極端に嫌う。

店の従業員とも閉店後に、食事に行くのも成るべく断るのだ。

働き出した当初は里奈も小さかったから、早く帰りたかったのと、翌日の仕事の事も有ったので、休息が必要だった。

翌日佐伯がメールで(食事に行きませんか?美味しいお寿司が有ります)と送ってきた。

もし、スナックで会っていなかったら、花梨は喜んで行くと返事していると思った。

今は、佐伯は大藪とか渡辺と変わらない人種に成っているので、返事も送らない。

佐伯は、少なからず好意を持っていると考えていたので、昨日からの返事が無い事が気に成ってしまう。


返事の無いまま夜、(梨花)に向かう佐伯。

優子が今宵は早番で「いらっしゃいませ、今夜は早いですね」と招き入れる。

時計を見ると、七時に成っていない。

佐伯には、昨夜から花梨のメールが無い事が気に成って、開店も待たずに飛び込んで来たのだ。

「(梨花)さんではもう古いのですか?」と急に尋ねる。

「私?」と指を指す優子。

「違いますよ、花梨さんです」

「花梨ちゃん?もう十年程に成ると思いますよ」と答えて「課長さんは花梨ちゃんとは知り合い?」と逆に問い正した。

「昼間のドラッグストアーで、お世話に成ったので知っています」

「そうだったの?世間は狭いわね」と微笑む。

「花梨さんは、何曜日に来られるのですか?」

「花梨ちゃんは、火、水、金よ、だから今日も来るわ」と話す優子。

優子は直ぐに、佐伯が花梨に好意を持っていると感じ取った。

下手をすれば、今夜は渡辺さんとご対面に成るかも知れないと考える優子。

その予感は直ぐに的中して、渡辺が入って来て「佐伯課長!」と驚いた様に言った。

優子は、二人の目的が同じだとは言えないが、二人は何も知らずに仕事の話で飲んでいる。

しばらくして、ママの美千代がやって来て「課長さん、連チャンですね」と笑って「毎度おおきに!」と笑った。

優子がママを、厨房に呼んで二人の関係を話して、出て来ると困った顔をしていた。


しばらくして弓子と花梨が、一緒に入って来た。

「おはようございます」と言うのと「いらっしゃいませ」が同時の二人。

花梨は直ぐに二人の姿を発見すると「渡辺さん、佐伯さん!いらっしゃいませ」と会釈をした。

今夜も長い夜の始まりだと思う花梨だった。

二人の前に弓子と花梨が就いて、世間話が始まると「暑く成ってきて、帽子役に立っていますか?」といきなり尋ねる渡辺。

「は、はい助かっています」と曖昧な返事の花梨だが「先日プレゼントしたのですよ」と嬉しそうに言う渡辺。

優子が、わあ!これはまた大変な事に成るわ!と云う顔に成る。

弓子が火に油を注ぐ様に「渡辺社長さん、花梨さんに気が有るのよね!」と笑う。

佐伯も負けてはいない「渡辺さんは奥様も、ご健在で仲が良いと聞きましたが?」と笑いながら言うと「課長さん、冗談ですよ、お遊びですから!家内には内密に頼みます」と両手を合わせる渡辺。

花梨は、このアホな連中にはお金をたっぷり使わせないと駄目だわと思って微笑む。

しばらくして「今夜は母が家に居ますので、帰ります」と佐伯が席を立つ。

美千代が「花梨、お見送り」と言って佐伯を見送らせる。

扉を出ると「気にしていませんから」と花梨に向かって言って、ポケットから小さな包みを花梨の手に渡した。

そして「ネックレスと揃いの、ブレスレットです」と言う佐伯に、満面の笑みを作って「えっ、貰えるのですか?ありがとうございます」とお辞儀をしながら、ケースを開けると、以前に貰ったネックレスと同じ宝石が散りばめられた綺麗なブレスレットが見えた。

「ありがとうございます」と会釈をすると手を振って帰る佐伯。

儲かったわ、どんどん使って頂戴、圭太も沢山貢いだらしいから、私も沢山頂いても罰は無いわ!と微笑みながら店に帰っていく花梨。


佐伯は自己満足の世界に慕って、帰路についていた。

「悟、嬉しそうですね」と帰ると開口一番、母時子が微笑みながら言った。

「判りますか?」と微笑む。

「判るわよ、金井さんに会えたのだろう?先日から会えないと、気を揉んでいたからね」と微笑む時子。

「はい、彼女スナックでバイトしていまして、そこに行って来ました」と言う。

「知っているわよ、何回も聞きましたよ」と笑う。

「子供さんを抱えて、もう十年以上一人で苦労してきたのだから、夜の仕事でもしなければ生活出来ないわよ」と時子が言う。

「お母さん、何故そんなに知っているのですか?僕話しました?」と怪訝な表情の佐伯。

「知り合いに聞いて貰いました」と話す時子は、花梨の身の上を調べて粗方は知っていた。

「上に、お兄ちゃんが一人居るのよ、独立してとび職しているけれど、良い子よ!お酒も飲まない、ギャンブルもしないわね」と話す母。

「お母さん、調べたの?」と驚く佐伯に「悟が好きに成る女性は、久しぶりだから、気に成ったのよ!もう私も歳ですからね!心配だからね」と微笑む。

「前の旦那さんは、今はタクシーの運転手よ、子供達の祖父母は金井さんと同じ公団に住んでいるのよ、何が目的か判らないけれど、近くに越して来たらしいわ」

「凄い調査力ですね、まるで結婚するみたいですね」と笑う佐伯。

「お前はどう思っているの?」と逆に聞かれて「。。。。。。。」言葉に詰まる悟だ。

同じ宝石でネックレス、ブレスレット、そしてイヤリングを同時に買い求めて、持っていた佐伯。

何かの時に渡そうと思って、自分の部屋の引き出しには入っている。

今夜、二つ目を手渡した。

三つ受け取って貰えたら、最後は指輪を買って渡したいと考えている佐伯だった。



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