第15話同じ人種

  30-015

「これね」とボトルを見つけたが、あのDSアサヒで見た佐伯の母の言葉が蘇った。

「これからも悟の事、よろしくお願いします」。。。。。。。。。。。。。。

「白髪の悟?」とボトルを持ってカウンターに置いた時「いらっしゃいませ」と弓子の声に入り口を見た花梨の表情が凍った。

「いら。。。。。。。。」で止まってしまって、急いで厨房の中に走って行った。

優子が「どうしたの?顔真っ青よ!」と花梨の表情に驚く。

「急に、気分が悪く成ったの、休ませて」と言うのと、佐伯が「先に、トイレ」と行って向かった。

花梨は「すみません、駄目みたいです」と荷物を持って、店を飛び出してしまった。

「どうしたの?」の優子の声を後ろに、出て行くとしばらくして(急に気分が悪くなったので、今夜は仕事出来ません、すみません)と美千代にメールで謝った。

「どうしたのよ、花梨具合悪かったの?」と優子に尋ねる美千代。

「急に、気分が悪くなった様で」と目の前で話す二人に、佐伯が「どうかされたのですか?」とたずねる。

「女の子が、調子悪くて帰ったので、心配で」と美千代が説明をする。

「花梨さんって、お名前ですか?」と尋ねる佐伯。

「そうですよ、変わった名前でしょう?」と美千代が言うと「可愛い感じがしますね」と答える佐伯に「本当に可愛いわよ」と言う。

「それは、会いたかったですね」と微笑むと、早速カラオケの器具を持って、同伴の男性に勧める。


佐伯さんが店に来ていたのだ!随分前から、来ていたのよね!同じ人種だったのか!と思うと無性に腹が立つ。

自転車で数分の公団が、今夜はもの凄く遠く感じていた。

好きになり始めていた気持ちは、自宅に着くと完全に消えて、最低の男だと思っている。

自分が裏切られた心境に成ってしまった。

自宅に戻ると里奈が「今夜、店に行くのじゃ?」と驚いて尋ねる。

すると直ぐにチャイムが鳴って、里奈が「お婆ちゃんだよ」と伝える。

「今夜は気分が悪いのよ!何も貸さないわ!」ともの凄い剣幕で、追い返した。


しばらくして、佐伯がDSアサヒに行っても、隠れてしまって会いには出て来ない。

係が「金井さん、居ませんね」と佐伯に詫びる。

二度目も佐伯が行く時間には、花梨は姿が見えない。

メールを送っても返事が返って来ないので、逆に心配に成ってしまう佐伯。

三度目の時「すみませんが、金井さんはお仕事来られていますよね」と尋ねる。

「金井花梨さんですよね!」と店員が確認をして「金井さんは、花梨さんと?」と聞き返した。

「はい、そうですよ、今日は休まれていますが、別に病気とかでは無いと思いますよ」と答えた。

佐伯の頭に「花梨」「花梨」と念仏の様に呟いて、何処かで聞いた名前だと想い出そうとしていたが、中々想い出せない。

「あっ、(梨花)だ!」と声をあげて、若しかして自分に会うのが?スナックで働いているのを見られたから?との疑問が湧き上がってきた。

遅番の日には、店には出ていないから、火曜、水曜、金曜のどれかで働いているのだ。

あの時、金井さんは自分の姿を見たから、気分が悪いと言って帰ったのだと決め付けた。

佐伯は、自分に夜のバイトが見つかったので、隠れて居るのだと解釈をしていた。

花梨は、少し好意を持ち始めた佐伯が、圭太と同じ軽蔑の人間だった事にショックを感じて、これ以上の付き合いをしない為に、会って居ないとは思っていない。


メールを送ろうかと思ったが、気にして職場を辞めてしまっては、余りにも気の毒なので、火曜日に店に行こうと決めた佐伯。

火曜日に、佐伯は一人で七時過ぎに(梨花)に入って、恵美子に「ここに勤めて居る花梨さんって、金井さんって名前でしょう?」と尋ねた。

「えっ、課長さん、知っているの?」と不思議な顔をして尋ねる恵美子。

「DSアサヒにお勤めでしょう?」と言うと「もしかして、私が紹介したデイサービスの?」と勘の良い恵美子が驚きの声を上げた。

大きな瞳を一層大きく見開いて驚いてみせた。

「そうです、私も気が付きませんでした、お世話に成っていたのに、お礼も申し上げなくてすみません」と会釈をした佐伯。

「世間は狭いですね」と微笑む恵美子だが、花梨の気持ちは全く判らない恵美子だから、佐伯を避けている理由も判らないのだ。

一曲歌った時に、優子がやって来て、しばらくして花梨が扉を開いた。

「花梨さん、お待ちかねよ」と恵美子が笑顔で花梨に言うと「こんばんは」と白髪の佐伯が花梨に会釈をした。

驚いたが、もうどうする事も出来ない花梨は「ご無沙汰しています」と苦みを殺した笑いを浮かべた。

直ぐに、大藪が入って来て、花梨は大藪の前に行ってしまう。

佐伯は、照れくさいのだな?私は花梨さんが夜の仕事をしていても別に、何とも思っていませんよと、十時に店を出てメールを送った。

十時迄花梨は一度も、佐伯の前には来なくて、最後の見送りの時だけ美千代と表に出て来たのだ。

店が終わって、駐輪場で佐伯のメール(驚かせて、すみませんでした。また会いに来ます。お休みなさい)をこの時初めて見た。

花梨は帰り道「ふー」と大きな溜息をついて、自転車を漕ぎ出した。

そうだ、大藪さんと同じ人種だと思って付き合えば良いのよ!今更店も変われない!別に自分が悪い訳でもない。

忘れよう!と考えるが、何かを期待していた自分が思わずそこに居た事を、意識していたのも事実だった。


一方の佐伯は、内緒にしていたのに店に行ったのは失敗だったのかな?返事が来ないな?

怒っているのだろうか?と色々考えていると眠れない。

熟睡出来ないまま朝に成っても、花梨からのメールは届かない。

心配な佐伯は(おはようございます。私は、金井さんがスナックのバイトをしていた事を聞いて、驚きましたが、今は何とも思っていませんよ)と花梨には意味不明のメールを送るのだった。

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