第13話媚び
30-013
役所の人で白髪?佐伯さんと同じだわ?でも佐伯さんはとてもスナックには来られないわね、お母さんの世話で毎日大変だから、同じ役所でも大きな違いなのね!と花梨は考えて、佐伯はスナックに来る人間では無いと、勝手に決め付けて微笑んだ。
「何よ!花梨さん、気持ち悪いわ?含み笑いをして」と杏子が花梨の顔を見て笑う。
「それはね、花梨の知り合いに似ている人が居るからよ」と弓子が話す。
「えー、それって花梨さんの好きな人って事?」と尋ねる杏子に「違うわよ、弓子ったら変な事言わないでよ」と言うが、頬は赤く成っていた。
数日後、DSアサヒに佐伯が、いつもとは異なる健康補助食品を買いに来て、花梨をコーヒー店に誘うと「いつもお世話に成って、何もお礼が出来なくてすみません、これ好みなのか判りませんが?」と若干緊張気味に差し出した小さな袋。
明らかに装飾品の包みだと判ったが「何ですか?」と嬉しそうに受け取る花梨。
中には小さな箱が入っていて、リボンで結んである。
「開けても良いですか?」と言いながら開ける花梨が「わあー、ネックレス」と小さく言った。
「気に入って貰えるか判りませんが?」と照れる佐伯に「ありがとうございます、高価な物をすみません」と満面の笑みで喜ぶ花梨。
仕事柄、イミテーションの飾りは結構持っているが、このネックレスは間違い無く本物だと判る。
しばらくすると、直ぐに休憩時間が終わって佐伯が帰っていく。
その時から、花梨の気持ちは浮き浮きした気分に変わって、終日機嫌が良くて自宅に帰っても続いた。
「お母さん、機嫌が良いわね」と里奈に言われて「そう?判る?」と笑った首には、ネックレスが輝いていた。
目敏い里奈が「それ!何!」とネックレスを見て叫んで、近づいて見て「本物?」と尋ねる。
里奈には一度も母が、この様な物を夜の仕事の時以外、身に着けていなかった事を知っていた。
「どうしたの?」と驚きの顔。
「判る?」と微笑む花梨。
「ダイヤだよね!金も本物?馬蹄の形は幸福を招くのよ」と里奈が羨ましそうに言う。
安い物でも一度も買った事が無い花梨、装飾品は総て偽物。
その様な物にお金を出すなら、食費に廻さなければ成らない。
幸い里奈が公立高校に入学してくれて、助かったと思う花梨。
もうしばらく、里奈の学費と結婚の為に少しでも貯めたい花梨には、装飾品を買う余裕は全く無いのが現実だ。
「誰かに貰ったのね?」と聞かれて、顔を赤くする花梨に「お店のお客さん?大藪さん?渡辺さん?」と客の名前を出して尋ねる里奈に「飲み屋のお客さんに貰った物は、私用では着けません!」と強い調子で言う花梨。
里奈は「お母さんに春が来たのか?」と笑いながら自分の部屋に消える。
翌日花梨は店にも、ネックレスを着けて出勤をする。
早速弓子が見つけて「良いわね、買ったの?珍しいわね」と小声で囁いた。
花梨の「ええ、まあ」と曖昧な言葉に「あっ、貰った!」と小さく叫んだ。
顔が緩む花梨に「正解だ!誰?大藪さんに?渡辺?」と話していると、丁度そこに大藪がショルダーを肩にかけて入って来た。
いつも持っている鞄の中身に、一時興味が湧いて尋ねた事が有ったが「仕事の道具ですよ」と笑って誤魔化された。
「いらっしゃい」と元気よく声を出した花梨に「今夜は機嫌が良いですね」と微笑む大藪。
弓子が「大藪さん負けていますよ」とグラスを出しながら小声で言う。
花梨が奥に付き出しを造りに入った時に、そう言って教えた。
「何が?」と言うと、弓子が自分の首を触って大藪に教えた時「高野の炊いたのは好きですか?」と言いながら大藪の前に置いた。
大藪は、直ぐに花梨のネックレスを見て、目で弓子に合図を送ると頷く弓子。
大藪は勝手に、渡辺が持って来たと解釈してしまった。
弓子も、この二人のさや当てを、半分焼き餅、半分は楽しみで見ていたのだ。
ライバル心は面白いので、次の日渡辺が来ると今度は杏子が教えると、渡辺も大藪に貰ったと解釈をしているから、傍目からは面白いのだ。
数日後、DSアサヒに佐伯が、いつもの物を買いに来て、コーヒーを飲みに行く花梨が、先日のプレゼントのお礼を言ってから「佐伯さんは、夜の仕事している女性はどの様に思われていますか?スナックとかで働く女性」と一番気に成る事を尋ねる花梨。
しばらく考えて「色々な女性が働いて居ますから、一概には言えませんが、生活の為に働かれている方は大変だと思います」と言った。
一安心の様に「そうですよね、離婚して子供を抱えたら、生活大変ですからね」と言うと「金井さんの様に、昼間の仕事で生活出来る人ばかりではありませんからね」と微笑む。
佐伯が「中には悪い女も居ますよ、私の知っている人の話ですが?そのスナックのママは、客の退職金を狙って、身体を使って巻き上げると噂を聞きましたよ」と話す。
花梨は自分の元の旦那鎌田圭太と同じだと思って、世の中同じ様な事をするママが居るのだと驚いて聞いていた。
佐伯が「夜の仕事をする時に絶対に気をつけなければ、行けない事は、女性は客に媚びを売っているのだと云う事ですよ」と言い切る。
「媚び?」と聞き返すと「思っても居ない事を言って、褒める事ですよ」と教える。
「成る程」と身に覚えの有る花梨は頷く。
「それは、鰹節の様に、自分の気持ちを売りますから、心がやせ細ります、そしてそれは普通の判断力を失っていく事にも繋がるのです」と論じる佐伯に「難しい話ですね」と聞き入る花梨。
飲みに行かない様な人が、よく研究しているのねと思いながらコーヒーを飲む花梨。
別れる時に佐伯が「似合って居ますよ」とネックレスを見て、微笑みながら言う。
「そうですか?ありがとうございます」と再びお礼を言って、店内に消えて行った。
佐伯は、自分のプレゼントを喜んでくれたと、安心感と喜びに包まれて帰って行った。
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