第10話出会い
30-010
(梨花)に花梨は週に三日、火曜日、水曜日、金曜日に出勤して、夜八時から十二時までの勤務にした。
火曜日が一番身体的には楽で、水曜日は翌日ホームセンター関連のドラックストアーに早くから仕事に行く。
ドラックストアーの休みは水曜日、その為火曜日は多少飲みすぎても翌日は休みでゆっくりしていた。
その為、花梨目当ての二人は度々火曜日にお互いが出会ってしまう。
花梨も(梨花)で九年目に成っているのでベテランだと思っているが、何故か年齢の近い従業員が殆どで、しかも花梨の先輩が殆どだ。
美千代ママの従姉妹の、チーママ菅野優子は六十八歳、小菅恵美子四十二歳、田中弓子四十五歳、児玉杏子四十三歳、不思議と従業員は同じ様な年齢で同じ様な体形に成っている。
五人の女性が曜日に振り分けて出勤している。
ママの年齢に合わせた様に客も高齢の人が多く、若い客は殆ど連れられて来る人だけに成っている。
病気に成って来なくなる人、高齢で飲みに来る回数が減ってくる人。
年金で飲みに来るので、支給日の後は客が多く成っていた。
スナックもママの年齢と共に、賞味期限が近づいているのが、手に取る様に判り始めるが誰も口には出さない。
七時過ぎから、小さな建設会社の社長渡辺は店にやって来て、花梨が来るのを待っている。
恵美子が目当ての人は判っているが、渡辺に調子を合わせる。
もうこの店に来る様に成って二年が過ぎていたが、半年前から花梨に興味を持った様だ。
年齢は殆ど同じで、花梨が一番若く見えたからが原因と、昔居た若い女性が辞めて自動的に目に止まっただけなのだ。
不思議な物で、与えられた環境の中で人間は求める物が変わってしまう事は良くある事で、渡辺も酒の勢いと雰囲気でその様に変わった一人だった。
もしも、若くて可愛い子が居たら、そちらに目が行ったかも知れない。
兎に角数ヶ月前から花梨に目が行ってしまったのが現状だった。
同じ様に文房具店の社長大藪も、以前からこの(梨花)には来ていたが、それは月に一度程度で、お付き合いの範疇だったが、数ヶ月前今まで付き合っていた女性と別れた心の隙間に花梨が入って来た様だ。
彼が惚れる女性は、離婚経験の有る人が圧倒的に多い。
子供でも居たら、最高の条件が揃っているらしい。
生活費を出してあげるから、付き合いをしないか?が殺し文句に成る様で、いつの間にか関係が出来てしまう。
一度関係が出来ると、女性は罪悪感が無くなるのか?定期的にホテルに同伴してしまう。
離婚による身体の寂しさと金銭的援助の両方を利用するので、女性も知らない間に関係が続いてしまう。
定期的に貰えるお金はいつの間にか、必要な物に変わってしまうと、大藪の思うままに成っている。
それでも、次の女性を求めるのが大藪の変わった処なのだ。
基本的に気持ちが多いのだろう?自分が付き合っている女性は、総て嫌いでは無いのだが次を求めるのだ。
八時五分前に、この大藪も店にやって来て、花梨目当ての二人が揃った恰好に成った。
ママの美千代も、二人を見て腹の中で笑っていた。
花梨は、二人に全く興味が無いと笑っていたから安心しているが、今夜もバトルが大変だと思っていた。
だが、肝心の花梨が自転車で出勤の途中に、パンクで遅れると連絡をしてきたのだ。
二人が急に時計を見始めるが、二人共口に出さない。
その気持ちを察して「自転車がパンクして、遅れるそうよ」と微笑む美千代。
しばらくして、扉が開いて「入れるか?」と常連の客で富永が入って来る。
「何人?」と嬉しそうな美千代に「十五人程だ」と言う。
「大丈夫よ」と美千代が言うのと、二人の顔が曇るのが手に取る様に判った。
次ぐ次と入って来る客、(梨花)の店は広くて、三十人は入れるから、今二人の客が動かなくてもボックス席で充分収まるのだが、大藪と渡辺には面白くない状態だ。
ママの美千代が女性をローテーションさせてしまうから、カウンターに彼女が居る時間が少なくなるのが確実だ。
結局花梨が到着したのは九時少し前に成って、店内は盛り上がって五月蠅い状況に成っている。
今夜はママ美千代、優子、恵美子、そして花梨の四人だから、忙しいのは決まっている。
今夜もケーキを買って持って来た大藪だが結局ママに渡すと、カラオケが五月蠅くなったので、花梨の顔を見て微笑むと帰って行った。
「すみませんね、社長、五月蠅くて」と見送りに出る美千代。
今来た花梨は見送りにも出られない状況で忙しくしていた。
結局一時間後、渡辺も殆ど話を出来ない状況で帰って行った。
花梨は数年前から、ホームセンターの関連で薬品とかを置いている店に変わっていて、昔の様にホームセンターのバックヤードでの仕事から解放されて、手荒れもしないと喜んでいた。
数日後の土曜日、一人の男が店内の胃薬のコーナーで何かを捜しているので、花梨は「何かお探しですか?」と声をかける。
男は花梨を見て微笑んで「すみません金井さん、夜胸焼けで眠れなくて困りました」と言った。
いきなり金井さんと呼ばれて驚く花梨は「お客様を私は存じていませんが?」と怪訝な顔で尋ねると、男は花梨の名札を指さして微笑む。
「あっ、そうでしたか?」と微笑み返す花梨は「最近多い、逆流性食道炎ではないでしょうか?」と教える花梨に「逆流性食道炎?恐い病気ですか?」と不安な顔に成った男だ。
「最近は良い薬が出ていますから、治りますよ」と教える花梨。
「どの薬ですか?」と尋ねる男に「薬局では売れませんから、病院に行って下さい」と教える。
「そうですか?今日は病院休みですよね」と困った顔の男に「この薬でも多少は治まると思いますよ」と胃酸を押さえる薬を勧めると「金井さん、ありがとうございます」と丁寧に礼を言って帰って行った。
これが二人の、初めての出会いだった。
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