第8話涙のクリスマス
30-08
圭太は両親には、退職金は総て花梨に養育費として渡したと話して自分が残りを持っていた。
「どうするのだよ、仕事辞めてしまって?」と心配顔の智己。
「給与を差し押さえられたら、生活出来ないから同じだよ」とふて腐れた様に言う。
「失業保険は直ぐには出ないだろう?」
「直ぐに就職するから、安心してよ」とは話したが、条件の良い仕事は中々無い。
再び暇に成った圭太は(千歳)に行き始める。
成るべく顔を会わさない様にしている清美に、晶子が「圭ちゃん、勤めていた仕事辞めたらしいですね」とママに話してしまった。
清美は直ぐに、店に再び現れたのは退職金が入ったと思った。
すると早くもその金を狙おうと、連絡を自分からする清美だ。
連絡を貰った圭太は喜んで出向いていく。
仕事もなく遊んでいるから暇そのものだから、直ぐに清美の罠に填まった。
この時既に小柳課長との関係が始まっているので、気を使いながら圭太とラブホに行く清美。
花梨は里奈との生活を始めて、パートで働く事にして近くの工場に九時から十四時までの仕事に就く。
里奈の病院代、生活費で貰ったお金がどんどんと減っていく。
年末には例年はボーナスを貰って、ギリギリの生活だったのにパートの収入では補えない。
近くの工場で、年末迄の期間パートの募集を見て、賃金が高いので今のパートを少し休んで期間パートに行く。
年末のおせちとクリスマス商品の製品ピッキング作業、時給が高く少しでも沢山貰って、里奈のクリスマスプレゼントを買ってやりたい花梨。
自分が悲しく成ってしまう程、この時のバイトは辛かったのだ。
一方の圭太は上手に清美に巻き上げられて、殆どを(千歳)の遊興費と清美との遊びに使ってしまう。
そんな圭太の話を、面白可笑しく伝えて来る晶子。
「本当に馬鹿よね、もう総て巻き上げられたわね」と笑い転げる晶子。
「そうなの?馬鹿な男ね!」と呆れた様に言う花梨も、先月で三十六歳に成っていた。
年末二十五日に給料を貰うと、一日遅れのクリスマスプレゼントを買って、里奈に渡す花梨の目から涙が流れ落ちていた。
元亭主は退職金を飲み屋の女に吸い取られて、自分は子供のクリスマスプレゼントを買う為に必死で働いている。
悔しいのと、余りにも惨めな自分がそこに居たから耐えられない花梨だった。
正月から元の仕事に戻って働くが、このままでは生活が出来ない。
母子家庭の手当では、普通の暮らしは出来ないと考え込む花梨。
服も化粧品も何も買えないし、子供の物だけで限界の生活が続く。
母久美子が年金から援助はしてくれるが、限界に近づいていた。
その様な時に話し相手に成ってくれたのが晶子だった。
一月のある日、晶子がご馳走をしてくれると言うので、里奈を連れてレストランに行く。
離婚してから何度も電話とメールでは、会話が有ったが会うのは随分久しぶりの二人。
小学生の里奈は、持病も徐々に良く成って来たので、それだけが花梨には救いだった。
花梨に「随分窶れたわね」と晶子は開口一番花梨を見て言った。
花梨は始めて会った時は離婚問題で悩んでいたのだと説明をして、現在はこの子と二人で住んでいると話した。
花梨の話を聞いて「養育費貰ってないの?」と驚く晶子に「仕事してないのよ」と答えると「そりゃ駄目ね」と言って「現在の住まいも、ワンルームは高くて狭いでしょう?母子家庭に優遇の公団に住めば広いし安いわよ」と教えてくれた。
貴女がいつも馬鹿にしていた圭ちゃんが、自分の亭主だとは言えない花梨。
花梨が「でも、この子も大きく成ると沢山お金が必要よ」と心配顔に成って里奈の頭を撫でる。
「何か良い仕事無いかな?」と尋ねる花梨に「金井さんも化粧すれば綺麗から、水商売すれば?生活楽に成るわよ」と言うと「酔っ払いの相手なんか出来ないわ、絶対無理よ」と強く否定する。
「飲めないのでは、なかったわよね」と尋ねる晶子。
「飲めますけれど、あの様な。。。。」と言いかけて口を閉じる花梨に「良いのよ、気を使わなくても」と言う晶子。
「スナックに行く人を私は軽蔑しています」と恐い顔に成る花梨。
「そうか、旦那さんはスナックによく行って、金井さんを困らせたのね、女でも作ったのかな?」と笑うが、花梨の顔は恐い顔に成っていた。
だが花梨の思惑とは異なって、鎌田の家から急に「子供を引き取るなら、考えても良いわ」と電話が入って「えー、本当ですか?」と急に嬉しく成る花梨。
そう成るのなら、お金を稼がないと親子三人生活が出来ないと、花梨は清水の舞台から飛び降りる気持ちで晶子に「あれから考えて、夜の仕事を少し入れても良いかなと想いましたので、何処か私が働けそうな店有りませんか?」と連絡をしていた。
「聞いてみてあげるわ、貴女の町でないと無理だからね」と少し離れた晶子の町では子供の面倒を見て貰えないと晶子は察して、捜してくれる事に成った。
鎌田の家では、全く働かない圭太に業を煮やした祖父母が、興奮して圭太に言った事に現実味を持たせる為に花梨を利用していたのだ。
「恥ずかしく無いの?元嫁に跡取り息子まで取られてしまったら、私達は死んでも死にきれないわ」と泣きながら訴えた。
しばらくして、その効果が出て圭太はタクシー運転手の面接に行くのだった。
晶子が花梨に「仕事が見つかったわ、五十代後半のママだけれど、繁盛しているお店よ」と連絡してきた。
そのお店が、花梨の町に在る(梨花)と云うスナックだった。
子供の為だと覚悟を決めて、面接に向かう花梨。
(梨花)のママは細身で気が強そうな小池美千代で、昔は商社の営業をしていたと話す。
「うちの店の子は、殆どが離婚経験者よ、お互いの気持ちはよく判るわ」と話す。
「私、この仕事始めてなのですが、大丈夫でしょうか?」と不安な顔の花梨。
「飲めるの?」と尋ねる美千代は、従業員が最近辞めたので猫の手も借りたかった。
「はい、ビールは苦手ですが」と微笑む花梨に「飲めたら、大丈夫よ」と笑顔で採用だと言った。
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