第7話離婚

30-07

この日を境に二人の会話は完全に消えた。

勿論、圭太のカードは没収、小遣いも減額されて返済に廻された。

(千歳)のママに連絡をして敷金の返却を要求するが、問答無用に断られてしまった。

二人の関係は悪化の一途に成ってしまった。


花梨が晶子に、様子を伺うと「完全に剥ぎ取られて捨てられたわ」と笑って「馬鹿の見本の様な男だったわね」で電話が終わった。

花梨はその後も、晶子とは何度か連絡をする事に成って、花梨の運命もかえてしまうのだが、それはもっと後の事に成る。


数週間後、義理の母智己が「花梨さん、貴女圭太と口も利かない様だけれど、いつまで怒っているの?」と窘める様に言った。

「お母さん、夫婦の事に口を挟まないで下さい」と強い口調で言う花梨。

「お金を稼いでいるのは、息子よ!息子がお金を使ったと言って怒るのは筋違いじゃないの?」と言う智己。

「誰も、お金を使った事に怒っていません!」と恐い顔で怒る花梨。

「じゃあ、何よ」と恐い口調。

「圭太さんは、女に使ったのです、それも何百万も、違うわ!一千万以上です!」と叫ぶ様に怒る花梨。

「えーーー、一千万!」と腰を抜かしそうな声で驚く智己。


もう、この家には暮らせないと決意する花梨。

夕方に成って、鞄に荷物を詰めて里奈を連れて出て行く花梨。

呆然と見送る祖父母「宏隆の事はお願いします」と学校から戻っていない長男を待たずに出て行った。


行く当ての無い花梨が実家に戻ると驚く母久美子。

自分の部屋に招き入れると事情を聞くと、感極まったのか泣き始める花梨。

傍らでぼんやりと母の姿を見ていた里奈が、久美子の側に行って怯えた様子に成っていた。

事情を聞いて「困った圭太さんだね、どうするのよ?」と心配する母。

「今日、お母さんにも話してしまったので、居辛くなって」と言うと再び泣き崩れる花梨。

異様な空気に、兄嫁の登美が聞き耳を立てる。

「お父さんが生きていたら、帰っておいでと言うだろうけれど、今は私も居候だからね」と久美子が花梨を諭す。

「今晩だけ、泊まって明日は帰りなさい」と言う以外に久美子には術が無かった。


その頃鎌田の自宅では、圭太に連絡をして仕事を早く終えて帰って来た。

「圭太、どうするの?」と母親が心配する。

「もう、無理だよ」と簡単に言う。

「お前が浮気で、女にお金を貢いだのだろう?」と尋ねる。

圭太は「里奈が生まれてから、俺達もう上手くいって無かった」と全く異なる話をする。

「怒っていたから、もう帰って来ないかも知れないね」と母が言う。

しばらくして「俺はもう無理だと思う」と投げやりな圭太に「そうだね、私も始めから無理だと思っていたのよ、最初から同居嫌っていたからね」と母も離婚に賛成の立場に成っていた。

「宏隆は大事な跡取りだから、絶対に渡すなよ」と祖父も決めていた様に口を挟む。

「宏隆も、お婆ちゃんのお家が良いだろう?」と尋ねると「お父さんとお母さん別れるの?」と哀しそうな顔に成る。

だが鎌田の家では、三人での話し合いの結果、里奈は病気が有るので面倒を見るのが大変だから、一緒に追い出せで結論が出た。

「養育費で百万も払えば充分だ」と言う圭太。

母も「だって蓄えは無いので払えないわよ」で一致していた。

どうせ実家に転がり込むから、それで充分だと三人が言うと、話し合いの余地は無くなっていた。


翌日戻った花梨に、鎌田の祖父母は「荷物を取りに来たのか?」と尋ねる。

恐い顔で「早く纏めて出て行け」と祖父も言う。

祖母も「圭太も別れると、昨日話していたわ」と罵声を浴びせた。

花梨も売り言葉に買い言葉で「出て行きますよ!宏隆お母さんと一緒に行こう」と言うと「馬鹿な事を言わないで、宏隆は鎌田家の跡取りです、渡せません」と言う母智己。

恐い顔の花梨に「宏隆はどちらにするの?」と尋ねられて、祖父母の後ろに隠れる。

花梨は自分の簡単な荷物を纏めると「今日は帰りますが、協議をしに来ますので、よろしく!」と腹立たしく言うと、勢いよく鎌田の家を飛び出した。

だが、行く宛は無い花梨だった。

「お母さん、何処に行くの」と里奈の不安な顔に、母久美子に電話で事情を話す。

今夜は実家に泊まりなさいと優しく言ってはくれたが、明日以降の心配が頭を過ぎる。

一応通帳、印鑑とお金に成る物は持って来た花梨。

だが、鎌田の両親は知り合いの弁護士に直ぐさま頼んで、口座の凍結を申し出ていた。

その為、当日引き出した普通預金十五万円のみが、花梨の当面のお金と成ってしまう。

実家に泊まった翌日には、兄嫁から一泊二泊は構わないが、長期は困ると釘をさされる。


しばらく実家に泊まって、結局花梨は実家の近くのワンルームマンションに、久美子の蓄えたお金で入居して、鎌田の家から自分の荷物を運び込んで、離婚の交渉に入っていく。

圭太は養育費も、お金も全く花梨に渡そうとはしない。

困った花梨は、友人の紹介で離婚に詳しい人に会って色々とアドバイスを受けた。

その中のひとつで、給与の差し押さえが出来る事を聞いて、観光バスの会社に乗り込んで交渉を始めた。

しかし、経理の人間が悪気は無かったが、圭太に喋ってしまった。

その話に逆上した圭太は、勢いで観光バスの会社を退職してしまったのだ。

後日連絡をした花梨に、バス会社は「鎌田さん、退職されましたので、給与の差し押さえは出来ません」と言われて呆然と成った花梨。

昼間、学校から帰ると祖母久美子が夜迄里奈の面倒をみて、花梨は生活の為に働きに出る事にする。

そんな時、圭太が「退職金の半分百五十万を、養育費として支払う」と言って来た。

それは微々たる金額だったが、今の花梨には一円でも貴重なお金の為と、これ以上引き摺っても何も無いと思って、離婚に同意してしまった。

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