第6話祝開店
30-06
すると「圭太、遅くまでご苦労さんだったね」と祖母が起きて、階下から労いの声をかけた。
「アホか!馬鹿親子!」と小さく口走る花梨。
今度は息子の宏隆が、寝惚けて起きたのか「パパ、お帰り」と同じ様に声をかけた。
呆れる花梨は、小学校でも気の弱い子に育っていると、参観とか家庭訪問で言われて、甘やかし過ぎが原因だと思っていたが、祖父母の可愛がり方は一向に変わる事が無かった。
数週間後、スナックビルの(千歳)は閉店に成って、新町ビルに引っ越した。
翌週には華々しい開店の日に成って居た。
勿論、開店の花を贈っていた圭太、胡蝶蘭の鉢植えは高価な香りを漂わせて店内を飾った。
今宵の開店は七時半に繰り上げて、多勢の客を捌く準備を整えている清美ママはご満悦だ。
知り合いの店から助っ人の女性も投入で万全の体制。
アキも張り切って常連客を捌くが、心ではママに対する妬みと嫌悪感が燻っている。
「本日は、奇しくも私の誕生日と重なったおめでたい開店日に成りました、今後ともよろしくお引き立ての程よろしくお願いします」と挨拶をした清美。
多勢の人が「おめでとう」「開店も誕生日もおめでとう」と祝福をする。
しばらくして、誕生日の歌が流れて「清美ママ、おめでとう」「誕生日おめでとう」の声が常連客から聞こえる。
シャンパンが配布されて、再び「乾杯」「乾杯」と祝福の嵐に、満面の笑みの清美だ。
近くで、微笑みながらシャンパングラスを飲み干す圭太の姿。
この微笑みの為に、結局圭太は三百万以上のお金を清美に吸い取られて、蓄えは後僅かな金額に成っていた。
その後、また増やそうとギャンブルに投資したが、全く当たらずにピンチに成っていた。
それ以外にも、清美との遊びの為にも数百万を使っていたのをもう既に清美は察知して、今夜を機会に圭太とは別れる準備に入っていた。
圭太も、もう小遣いが底をつく事は充分感じ始めているが、今まで費やしたお金で大事にして貰えると思っていた。
数週間後に成って、圭太が母親の智己に「お金無いか?」と切りだした。
「有る訳無いよ、年金生活で宏隆の服も買ってやれないよ」と言う母智己。
(千歳)に行きたいがお金が無い状況に、困り果てる圭太だ。
既に五万の付けが出来て、清美に付けを払わないと困るわと言われて「敷金出してあげたのは、俺だ」と言うと「それはそれ、これはこれ、返済はするわ!まだ数週間だわ」と簡単に断られてしまう。
すると晶子から花梨に「もうあの男捨てられたみたいだわ、新しい男は役所の課長だった男だわ」と嬉しそうに電話をかけてきた。
余程、圭太の失脚が嬉しかったのだろう?
まさか花梨は、その捨てられた男が自分の亭主で、観光バスの運転手なのよとは言えなかった。
圭太は流石に花梨には小遣いの要求は出来なかった。
子供の里奈にお金が必要な事が判っていたからだが、清美に会いたい気持ちは日に日に募る。
翌週、再び(千歳)に向かったが、清美に「駄目よ、付け払ってよ」と追い返されてしまう圭太。
遂にクレジットカードで、キャッシングをしてしまう圭太。
週末店に行くと、お金を突きつけて「これで良いだろう?」と言う圭太だが、清美には今夜は役所を退職した建築課の課長小柳が来る事に成っていた。
小柳は退所金を貰って、嘱託の様な形で今後も役所で働く事に成っている。
清美はこの小柳の退職金を狙っていたのだ。
もう調査は終わって、娘が二人居るが嫁いでいた。
妻は昨年癌で亡くなって、今は寂しく一人で過ごしている。
殆ど毎日の様に居酒屋で飲んで、時々(千歳)に来る様に成った。
勿論、居酒屋で清美がモーションをかけたのだ。
カモには敏感な清美は、絶えず自分のカモに成りそうな男には神経を尖らせている。
「圭ちゃん、今夜は行けないわよ、せ、い、り」と耳元で囁く清美は、もう圭太の事は眼中に無かった。
その夜、小柳課長は清美の毒牙に引っかかったのは云うまでもなかった。
結局圭太は、清美とラブホにその後も行けない状況が続く。
三回逃げれば、お金が続かない事を計算している清美、店に来ると若い女の子達に相手をさせて「圭さん、ソフトドリンク」「私は梅酒」「私も、ウーロン茶」と強請られて、お金を巻き上げられるから、直ぐに底をつく。
一ヶ月が瞬く間に過ぎて、花梨の元にクレジットの請求書が届いた。
仕事先での急な出費に持っているカードに、キャッシングの文字。
帰りを待って「これは?何?」と差し出す請求書に「あっ、それは仕事先で急に。。。」と口籠もる圭太。
「二十万も何故必要なのよ?何も言わなかったわ」と興奮の花梨。
今までは自分の儲けたお金で遊んでいたから我慢をしていたが、遂に家計に手をつけた事で我慢の限界を超えた。
(千歳)の借金を払って、ギャンブルで一儲けを目論だが失敗、当然の結果に成ってしまった。
「貴方が、何処でこのお金を使ったか知っているのよ!」と言う花梨の言葉に青ざめる圭太。
「ど、どこだ?」と言葉に詰まりながら言う圭太。
「新町ビルの(千歳)ってスナックのママに、入れあげたでしょう!」と遂に我慢の限界を超えて、怒鳴ってしまった花梨。
唯ならぬ空気に、子供達も両親も唯、聞き耳を立てている。
「幾ら使ったの?始めは臍繰りで、遊んでいたのよね」と強い言い方に成った。
「。。。。。。。。」無言の圭太。
「新しい店の敷金まで出したのよね!」
「。。。。。。。。。」花梨の言葉に無言で驚く圭太。
何故その様な事を知っているのだ!と驚きの表情。
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