第5話迫る危機
30-05
八時迄誰も客が来ないので、二本目のビールを注文して女に飲ませると、益々悪口に拍車がかかって「躰で男を釣るのは、昔かららしいわ!巻き上げてしまうと、もう相手にもしないらしいわ」と二杯のビールで言い難い事を次々言う。
花梨が就職するのを邪魔してやろうとの魂胆が、見え隠れする程の悪口の連続だ。
時計を見ながら、出ようと勘定を済ませると「悪い事は言わないから、就職は辞めた方が良いわよ」とはっきりと言い出した。
花梨はありがとうと言って出ようとすると、酔っ払いの常連が入って来て「おお、新しい子か?」といきなり手を触ってきた。
怒ると「違います」と振り払うと店を慌てて出ていく花梨。
こんな店に来る客は、ろくな男が居ないと毛嫌いをしながら、隣の店に入って行った。
笑顔で「いらっしゃい」と二十代後半の綺麗系の女性が花梨を招き入れた。
もう既に、二人の男がカウンターに座ってビールを飲んでいた。
女が急に「面接?」とここでも同じ事を聞かれた花梨は「何の事、失礼な人ね」と怪訝な顔をすると、女は急に揉み手に成って「すみません、新店の応募なのかと思いましてすみまません」と謝りながら注文を尋ねた。
ビールの嫌いな花梨は「チューハイレモン下さい」と店員に伝える。
しばらくして、チューハイを持って来て「ごめんなさい、応募が多いので」と再び謝った。
花梨が「新店出されるのですか?」と尋ねる。
「そうなのよ、新町ビルに良い物件が出た様で、変わるそうよ」と女が言うので「ママさんでは?」と言うと「ママに見えますか?」と言うので「はい」と答えると、女は上機嫌に変わって「ここだけの話だけれど、ママの様な事は私には出来ませんよ」と小声で話す。
小声で話しても聞こえたのか「アキ!俺達常連だけれど、一度も拝まして貰えてないぞ!」とこちらを向いて笑う二人の客。
相当酔っている様に見える。
前の女性はアキと呼ばれているが、どうやらママの事を軽蔑している様に見えて、今後情報を聞くのに使えると思い始めた花梨だが、しばらくして三人の客が入って来たので、一杯だけ飲むと「また来ます、アキさんでしたね、話合いそうなのでまた来ます」と微笑むと「私、水曜、金曜が早出なの、ごめんなさい!混んじゃって」と謝って、二千円で良いと微笑んだ。
一杯二千円のチューハイに、安いとは思わないが、まけてくれたのだろうと思う花梨。
「ネーちゃん!帰るのか」と今入って来た酔っ払いが、花梨の後ろから言葉を浴びせる。
花梨は背中に鳥肌が出来るのが自分でも判る。
スナックに来る連中は、馬鹿の集まりだろう?こんな人間は屑だ!こんな人間は最低だ!と念仏を唱える様にスナックビルを後にした。
帰る途中、圭太が何故?お金を持って居る様に見えるの?と考え込んでしまう花梨。
花梨はアキが教えてくれた金曜日に、再び(千歳)を訪問して、探り出そうとしていた。
もし、今夜圭太がここに現れたら、大喧嘩に成って離婚に成るだろう?
今晩遅い時間に帰って来る事は事前に聞いてはいたが、それは(千歳)に立ち寄るからかも知れない。
その様な事を考えながら、八時丁度に店に入った花梨。
アキと名乗る女が「いらっしゃい」と花梨を見て嬉しそうな顔に成った。
「もう少し詳しく聞きに来たのね、やはり就職を考えていたのね」と自分で解釈して話した。
「チューハイレモン下さい」と注文をすると「今度の新しいお店も誰かに出して貰ったのですか?」
と尋ねた。
「そうよ、どんな仕事しているか知らないけれど、圭ちゃんって呼んでいるわ」
と話した。
「どんな感じの人?」
「アホだわね!金巻き上げられたら捨てられるわね」
「どうして?」
「元々のお金持ちは、ママには引っかからないからね、大体会社を途中で退職した男とか、ギャンブルで大穴当てた男が引っかかるよね」
「圭ちゃんって男は?どちらのタイプ?」と尋ねて見る。
「ギャンブルね、退職金貰える年齢ではないからよ」と笑うと「私も一杯貰っても良い?」と強請る。
アキは飲みながら「相当ギャンブルで儲けたと思うわよ」と微笑みながら言った。
花梨は「そうなの?」と不思議な顔をした。
今まで一度もギャンブルの話を聞いた事が無かったからだ。
「ママさんは、今夜は何時頃に来られるの?」と尋ねる花梨に「面接受けるの?」とこれ程話しても来るの?と呆れた顔のアキだ。
「違うわよ、アキさんがママさんの事をもの凄く言うから、見てみたく成ったのよ!働かないわ」と微笑むと「でしょうね」と言って安心顔でチューハイを飲み干した。
「ママは今夜多分デートよ、彼が出張から帰るからね、お金出して貰ったからサービスするのよ」と微笑む。
驚いて「えー」と顔に出てしまう花梨。
「どうしたの?恐い顔して」と聞かれてもう一杯勧める花梨。
「じゃあ、今夜は来ないの?」
「売り上げは見に来るわ、金曜日だからね!でも暇ね」と話すので連絡先の交換をしておけば、役に立ちそうだったから花梨は交換をした。
幸い自分の名前を書いてないので、適当に実家の名前を書いて教える。
アキは本郷晶子が本名で、昼間も仕事をしていて、子供が二人、離婚三年目だと教えてくれた。
「旦那さんが居るのに、飲みに出たら駄目よ」と笑うので「もう、駄目かも知れないの」と答えると「子持ちの生活は大変よ」と深刻そうに言った。
その時、五人の団体が入って来て、花梨は勘定を済ませて外に出る。
今夜は金曜日で、先日に比べて酔っ払いが多くて、花梨に「何処の店?」と尋ねて来る客が数人居た。
思わず「酔っ払い!」と大声で怒鳴って、お前達は普通の人間じゃない、屑だ!と心で叫びながら歓楽街を自転車で走り去った。
圭太が自宅に帰ったのは深夜の一時を過ぎていた。
あの女とラブホに行ってきたのか?汚らわしい、自分は子供の世話と家の家事をして、忙しくしている間に女を作って遊んでいたのか?と考えると目が冴えて眠れない。
反対に鼻歌を歌いながら、トイレに行ってから自分の部屋に向かう圭太。
いつ切りだして驚かせるか?はらわたが煮えくり返る花梨。
運命の時間は刻一刻と近づいていた。
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