第4話新店
30-04
年金暮らしの両親、バス会社勤務の運転手の夫、長男宏隆十一歳、長女七歳、花梨の家族は六人が狭い家に窮屈に生活をしていた。
勿論、里奈が生まれてからは一度もSEXは無い。
具合の悪い里奈と花梨はいつも一緒に眠って、宏隆は一階で祖父母と眠る。
二階の上がり口で六畳の間に圭太は眠る。
横の部屋に花梨と里奈、お風呂は共同で使うので、全員が揃っていたらラッシュアワーに成る。
花梨は「子供も大きく成って来たから、マンションに引っ越さない?」とある日圭太に相談する。
「あ、そうだな」と曖昧な返事の圭太は、清美から強請られている事で、今は頭が一杯に成っていた。
数日後、ラブホテルで「清美、幾ら必要なの?」と圭太が尋ねると「圭ちゃん、出してくれるの?」と喜ぶ清美。
元々お金を持っている事を知っている清美は、今でも最低五百万程度は隠し持って居ると思っていたから「二百万程よ、設備は総て揃えてくれるから、安いかも知れないわ、儲かったら直ぐに返すから安心してね」と微笑む。
「それなら、出してやるか」と言うと、直ぐに「嬉しい、圭ちゃん!好きよ」と抱きついて、いつも以上に艶技を大袈裟に行って圭太を喜ばせる。
清美は遂に手に入れたと、心で叫びながら抱かれていた。
数日後、圭太は清美と休みの日の昼間に、新町ビルの店を見に行く二人。
賃貸の営業マンの案内で、ビルに入ると「ほら、圭ちゃん広いでしょう?」と嬉しそうに言う。
「ほんとうだ、天井も高いから、大きく見えるな」と言うと、営業マンがカラオケの機材を鳴らす。
「いい音でしょう?」と圭太に聞かせる。
「今の店とは、設備が違いますよ、最新式ですよ」と営業マンは得意顔で言う。
二人が上機嫌で新町ビルを出て来た時、花梨が丁度銀行から出て来て二人を目撃してしまった。
「あっ、圭太!」と口走ると、自転車を押して後を尾行して行く。
少し離れた場所のコインパーキングに、止めて在った赤い車に乗り込むと走り去って行った。
ナンバーを一生懸命に覚える花梨の前に、先程のビルから営業マンが出て来たので「すみません、先程ここから出て来た二人は?」と尋ねると「あっ、募集に来られた方?」と逆に尋ねられたので「はい」と訳が判らず答えると「連絡先、教えましょうか?」と営業マンは話した。
ビルの掲示板の様な場所に(カウンター嬢、募集!近日開店千歳)と書いてある。
営業マンが連絡先を花梨に教えると「働き易そうな、ママですよ」と言って歩いて行った。
その後ろを追い掛けて「一緒の男性は?御主人ですか?」と尋ねる。
「違いますね、スポンサーの方ではないでしょうか?」と微笑む。
花梨はお辞儀をして、自転車を押しながら「スポンサー?」と独り言を言いながら、呆然と歩いて帰る花梨だった。
自宅を出る時、今日は友人と出かけると言って昼食が終わって出て行った圭太。
スナックのママとデート?書いて貰った(千歳)の連絡先と住所を握り締めて、紙がくしゃくしゃに成る程の力で握り締めて自宅に戻った花梨。
自分は自宅の家事と里奈の世話で、殆ど圭太の事に目が向いてなかった事を良い事に浮気をしていたと決め付けていた。
花梨は証拠を掴んでから、懲らしめてやろうと思っていたが、その日の夜それどころではない出来事が起こって、花梨は実家に飛んで行った。
父の金井敏之が、心臓発作で倒れたとの知らせだった。
そのまま父は、息を引き取って悲しみに包まれる金井家に変わってしまった。
悲しみの祭壇には花梨酒の瓶が奉られて、花梨酒の好きだった父は突然亡くなった。
元々気管が弱いと自分で思っていたのが原因で、飲み始めた花梨酒を生涯飲み続けた。
その後、父が亡くなると兄康一の嫁登美が、葬儀を仕切って行われて、その後の金井家は兄夫婦が実権を握って、母久美子は居候の様に成って行くのだった。
花梨が元の生活に戻ったのは、十日後に成っていた。
ようやく落ち着いて、急に圭太の事に目が向いて、夜に成ると自転車で(千歳)の近くに行って、様子を伺う。
酔っ払いがうろうろして、花梨を見て「何処の店?」と尋ねて来る男もいて、不愉快な思いをしても、(千歳)の入っているビルの前で様子を伺う。
しばらく待っていると、圭太が向こうから歩いてくるのが見える。
先日の女性と楽しそうに、話をしながらビルに入って行く。
何処かで待ち合わせをしていたのだろうか?荷物を一袋提げて、エレベーターに乗り込んで行く。
翌日から、圭太は三日間老人を積んで、四国八十八カ所バス旅行だと話して居たから、その間に一度店を見に入ってやろうと考えて、その夜は腹立たしさを押さえて帰って行った。
翌日花梨は(千歳)に乗り込んで行った。
七時にビルに到着した花梨は、(千歳)の隣の店が開店していたので、隣の様子を聞こうと思って入った。
三十代後半で花梨より少し歳上の女性が「いらっしゃいませ」と微笑んで迎え入れた。
ビールを注文すると早速「隣のお店は何時からですか?」と尋ねると「八時からだと思うわ、ママが来るのはもう少し遅いかも?面接に来たの?」と尋ねるので、新店の事を知っているのだと思って「新しい店にはいつ越されるのですか?」と尋ねた。
「来月じゃないかな?」
「今度のお店は大きいのですか?」
「女の子が大きい店に成ると話していたわ」
「お隣繁盛されているのですね?」と尋ねると「若い子置いているからね、今度はもう少し年配も置くのね」と花梨を見て言う。
「隣のお店の常連さんって若い人が多いのですか?」
「そうでもないわ、男はみんな若い女の子を求めて来るから、結構爺も来ているわよ」
「ママさんやり手ですね、店を大きくするなんて」と言うと、微笑んで「あれを、やり手と云うならやり手でしょうね」馬鹿にした様に言った。
「あれ?って?」と不思議そうに尋ねる花梨。
「ここだけの話だけれど、男を銜え込むのが上手だって噂ですよ」小声で微笑みながら話す。
この女、隣の店に妬みを感じているのか、その後も良い話は殆どしない。
「最近も四十過ぎの男銜え込んで、店を大きくしたって噂よ」と言われて、自分の夫圭太の事だと思う花梨は、飲めないビールを一気に飲んでしまった。
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