第3話恐い関係

30-03

圭太は意外とケチな性格で、人には中々ご馳走しない。

ギャンブルで儲けたお金はこっそりと貯金をして、家族に判らない様に使っていた。

両親もケチな性格なので、持っている事が判ったら忽ち没収されてしまう危険が有った。

この時隠していたお金が約八百万も有ったとは、流石に家族の誰も知らなかった。

だがこのへそくりがその後の離婚劇に繋がるとは、その時の圭太に判る筈も無かった。


数年後、宏隆は祖父母にこれ以上に無い程甘やかされて育って、花梨に待望の女の子が誕生した。

だが里奈と名付けた子供は身体が弱く、喘息の持病を持っていた。

圭太は花梨の妊娠中も、羽根を伸ばして遊んでいた。

その後祖父母は長男宏隆を可愛がるが、長女には全く興味を示さず面倒を見てくれない。

その為、花梨は里奈の出産を機にガイドの仕事を退職して、育児に専念すると決めたのだ。

収入が減る両親は反対をしたが、女の子の面倒は見たく無い両親は、花梨の退職を認めた。


圭太はその為に小遣いを減らされたが別に苦にする様子も無く、一見真面目に働いている様に見えた。

長男は甘やかされて育ち、長女は持病を持っているので、花梨は目を離せない状況に成って、圭太の行動に目が向かない。

その様な状況で、圭太は旅先での遊びでは物足りなくなって、近場で遊ぶ様に成ってきた。

今までは仕事場が同じだったから行動が筒抜けで、いつ出張でいつ非番なのかは判ったが、花梨が職場を離れて三年が経過すると、もう全く判らない状況に成っていた。

圭太はギャンブル運も有ったのか、時々買うG1レースは尽く当てて貯金は殆ど減らない。

やがて花梨の知り合いも結婚とかで退職して、情報は殆ど入らなく成った。


そんな時啓太はバスの運転手の飲酒の問題がクローズアップされて、前日遅くまで飲んでいた同僚の代わりに、広島までの運転が急遽決まってしまった。

この臨時の仕事が、圭太の新たな遊びの火種に成るとは、圭太自身は考えもしなかった。


広島の帰り圭太が会社近くのスナック(千歳)に行って楽しんだ。

その後日帰りの仕事の時は必ず立ち寄る様に成ってしまった。

(千歳)のママは北海道生まれの二十九歳で圭太の好みのタイプ、ある夜酔った勢いで自分では覚えていないが、臍繰りの話をしてしまった。

赤城清美と云うママは、これはと思う客を離さない為に肉体関係を持って、吸い尽くす人間だと知らない圭太。

従業員にも若い女性を数名交代で配置して、客の取り込みに余念がない。

圭太はママの事も気に入っていたが、他の二十前後の可愛い女性達にも興味が起こって通い始めていた。


この時圭太は四十歳、花梨三十三歳の春、二人に悲劇が近づいていた。

結婚十年目、花梨は娘の世話と家の掃除、洗濯、家事に追われる毎日に、圭太の事は疎かに成る。

宏隆は完全にお婆ちゃん子で、小学校の参観にも祖母の智己が行く。


圭太の帰りはいつも十二時前、夕食はお茶漬けかおにぎりで、日帰り運転の日も泊まりの日も殆ど区別が無い状態。

圭太は「仲間が、仕事終わって飲もうと誘われる」と花梨が尋ねると答える。

花梨は里奈の入院に付き添うから、自宅を留守にする事も多い。

小遣いを少ししか渡してないので安心の花梨だった。

余分な小遣いは、旅行の時に時々チップを貰う程度で、最近はチップも少なく成って殆ど貰えないと考えていた。

翌日に残らない程度の飲み方をしなければ、運転業務停止に成るのに殆ど毎日飲んでいる圭太。


それからしばらくして、今夜もスナック(千歳)に足を運んだ圭太。

店は暇でママの清美が「今夜は暇だわ、何処かに遊びに行かない?」と誘う。

「何処に?」急に誘われて驚く圭太。

「食事まだでしょう?」

「そうですが?」と答える。

「行きましょう」と二人は商店街に向かって歩くと、焼き鳥屋に入っていった。

しばらくして酔ってきて「今夜は私がご馳走するわ」と笑顔で言う清美。

同じ様に上機嫌で「悪いな」と話す圭太は、この時清美に誘われたらホテルまで行ってしまいそうな気分に成っていた。

この時清美はタイミングを狙っていた。

「今夜は、このまま何処かに行きたいわ」の一言で、圭太は「今夜急に夜行バスの運転頼まれたので、明日に成るよ」と父健司に電話をした。

花梨は病院に付き添いで留守、母は宏隆と楽しく遊んでいるので何も支障は無い。

二人はタクシーに乗って郊外の、ラブホに向かう。

清美はこれまで何度となくこの方法で、お金を持った客を陥れて巻き上げてしまうまで吸い尽くす。

別にお金を獲るわけではなく、店に毎日の様に来る様にして、高価な酒をキープさせて、ゴルフに誘ったり、温泉に誘ったり、遊びの相手をさせるのだった。

清美は綺麗系の女性で圭太の好みのタイプだ。

ラブホのベッドでも、上手に艶技を演じて圭太をその気にさせる。

花梨に比べると若くて、身長も高く、スタイルもよくて、艶技も上手で圭太はすっかり清美の獲物に成ってしまった。

この日を境に、清美と圭太は月に二回はラブホに行く関係に変わって、時には出張の無い日も誤魔化して会う様に成っていた。

会い始めて数ヶ月後「圭ちゃん、私ね!お店変わろうと思っているのよ」と言い始めた清美。

「今の店では駄目なの?」と尋ねる圭太。

「今はカウンターと、四人座れるテーブルだけだもの、団体を受け入れないでしょう?」

「そうりゃ、そうだが?高いのだろう?」

「丁度、新町ビルに空き家が出来たのよ、あそこならカウンターとボックスで二十人は入れるのよ」

「ここより相当広いな」

「それでね、敷金を助けて欲しいの?」と強請る清美だ。


この頃に成ってようやく里奈の具合も改善が見られて、手が少し離れ始めたのも花梨が圭太の行動に目を向け始めていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る