第2話妊娠
30-02
花梨は昼の休憩の時、圭太の側に行って「お疲れ様です」と肩を揉んだ。
花梨にはそれ程凄い事では無かったが、圭太にとっては大変記憶に残る出来事だった。
肩を女性に揉んで貰った記憶が無かったので、大変嬉しかったのだ。
清水寺に子供達を降ろすと、花梨は引率で付いて行く。
戻って来るまで暇な圭太は、土産物売り場を見て歩いて時間を潰していた。
その時目に止まった招き猫の置物を買い、学校に戻って生徒達が下車してから「これ、可愛いので、買っちゃった」と恥ずかしそうに花梨に渡した。
「えっ、貰って良いの?」男性から物を貰う事も少なかった花梨は、非常に嬉しく成って圭太を意識し始めた。
圭太も花梨のさり気ない行為に、喜びを感じていたので二人の仲は急速に接近していった。
その後、一緒のバスでの仕事は中々来なかったが、老人会の北陸山代温泉旅行で久々に一緒に成った。
観光バス二台で、もう一人は仲の良い最上智子で、運転手は今年五十八歳の芝崎さん、最上は予てから、二人が好意を持っている事を知っていたので交代してくれたのだ。
この善意が二人を完全に結び付けるのだから世の中判らない。
普通、観光バスの添乗員と運転手には部屋が与えられて、男女二部屋が用意されている。
午後の四時には旅館に到着して、大浴場で寛いでから大広間で宴会が始まる。
その為、四時過ぎには運転手とガイドはフリーの時間に成って、圭太と花梨は私服に着替えて別の旅館に二人だけで宿泊すると云う大胆な行動に成った。
智子が芝崎に上手に話してくれて始めて二人は結ばれて、花梨と圭太の仲はその時を境に急速に結婚に近づいて行った。
この時花梨は圭太の足の爪を切って、靴下を履かせて、自分が育った両親と同じ事をしたのだが、圭太はこの花梨の行動にすっかり惚れてしまって公然と付き合いを始めた。
鎌田の家は圭太が長男で姉が一人いるが、既に嫁に行って実家には両親と圭太の三人住まい。
しばらくすると具体的な結婚話に成って、花梨が同居は嫌だと言うが、鎌田家では同居を望んでいた。
父親の鎌田健司は既に会社を定年に成って年金生活、圭太が入れてくれるお金も両親には大切なお金に成っていた。
交際三ヶ月目に自宅に招いた圭太、両親が連れておいで同居を説得してみると、至れり尽くせりの歓待で花梨を迎えて、お昼の食事には近くの寿司屋の特上にぎりを注文してのサービスをした。
花梨は悪い気はしなかったが、それ程大きな家でも無いのに、同居は絶対に嫌だと頑なに拒否をした。
しばらくして花梨は「結婚は無理」と言いたいのに、逆に妊娠をしてしまって、家族に知られる前に結婚か?堕すかを迫られる事に成ってしまった。
いち早く圭太に知らせて何とか打開策をと相談したが、逆に圭太はその事実を両親に伝えてしまった。
今度は逆に「子供を産みなさいよ!私達が面倒見るから、花梨さんは勤めを続けて」と言われてしまった。
産休で休んで仕事を続ければ収入も増えるし、同居で家計も楽に成ると鎌田の両親は考えたのだ。
その上観光バスの会社に、花梨の妊娠の噂を吹聴して、二人の結婚と出産の筋書きまで作ってしまった。
花梨は自分の妊娠が社内に知れ渡ってしまい。
中絶も出来ない状況に追い込まれて、最終的には両親にも知られてしまって、出来ちゃった婚をしなければ収集が出来ない状況に追い込まれた。
観光バスの会社も、ガイド不足と経験の有る可愛い花梨が退社されると困るので引き止めに動いて、結局妊娠五ヶ月での挙式と成って、圭太の実家に同居の形に成ってしまった。
同居をすると手の平を返した様に、何もしてくれない圭太の両親、二人の部屋は二階の六畳と四畳半の二部屋、階下には圭太の両親が住み、気が休まる暇がない花梨。
「これなら、子供を両親に預けて、仕事に行った方が楽だわ」と言うと「それが良いよ、親父もお袋も、それが暇つぶしに成るからな」と言い出す。
まだ六十代の両親は元気で、いつまでこの息苦しい生活を続けるのかと、考え込んでしまう花梨。
三ヶ月後に実家の兄も結婚して、近くのマンションに住んで、夫婦水入らずの生活を楽しんでいる。
自分は大きなお腹を抱えて、圭太の両親に「妊娠中によく運動すれば、安産なのよ、貴女の様に小さい子は、難産に成り易いのよ」と嘘か本当か判らない話をして、炊事、洗濯をさせる。
圭太は花梨の妊娠中の、遠出で羽根を伸ばして遊んでいた。
この頃から既に温泉地とかでは同僚と飲みに出かけて、遊ぶ癖が始まっていた。
その後、両親の話と同じなのかは判らないが、安産で長男宏隆を出産した花梨。
圭太の両親は、内孫の跡継ぎだと大喜びで、可愛がり様は半端で無く、花梨が仕事に復帰するのを急がせる状況に成る程だ。
花梨が仕事で出て行くと、子供を自分達が独占出来るからだった。
職場では夫婦の同乗は認められず、お互い同じ仕事場には居ない。
圭太は花梨の妊娠中から、飲み屋とか温泉場で遊ぶ事が多く成って、花梨の目が届かない出張先では、徐々に大胆に成っていた。
その原因は運転手仲間が競馬とか競艇をするので、つい遊び心で参加した事が思わぬ大穴を当てて、内緒の小遣いが出来た事に起因していた。
花梨にも家にも内緒の大金を掴み、更にその金で賭けたG1レースでも当たって、一気に裕福な懐具合に変わったのだ。
地元とか自宅近辺では使わない圭太だが、観光地に行くとはめを外して遊んでいた。
運転手仲間には判らない様に気をつけながら、遊ぶスリルも楽しんでいたのかも知れなかった。
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