lovestoryは突然ではない。
あの日、あの時、あの場所で
君に会えなかったら
僕らはいつまでも
見知らぬ二人のまま。
「もしもーし。」
「あーどうした?」
「どうしたって?何もなかったら電話したらだめなわけ?」
「いや、普通はなんか用があるから電話するんでしょ。」
昨日の夕方あずみから電話がかかってきた。別に特段用事があるわけでもなく、
たわいもない会話に5分ほど付き合って電話をきった。よくあることだ。
きっとまた旦那とケンカでもしたんだろう。
運命の出会いなんていうは幻想だ。
クリスハートのカバー曲アルバムを聞きながら、突然起こり得るlovestoryなんてのはドラマの世界だけだと、妙に冷めた考えが頭に浮かんだ。
恵と出会ったのも運命的とかそんなんじゃない。ただ職場が一緒で、恵は事務所書類を処理して、僕は現場でひたすら硝子を研く仕事をしていた。
普段は話す機会はあまりないけど、昨年の
会社の忘年会で席が隣で意気投合。
良くあるパターンだ。
恵はあずみの担当してるradioを聞くのが好きらしく、あずみが友だちだと教えたら話がはずんだ。
ーLINEー
「待ち合わせ20時少し遅れるね。🙇」
「了解👌大丈夫?なんかあった?」
「電車が遅れてるみたい。」
「まぁゆっくり来て😃」
恵は事務仕事なので、土日休みの17時定時。今日は当然仕事だ。一度家に帰ってから来るつもりだったらしい。
僕は今日は休みだ。交代勤務なので休みは不定期。4日仕事して2日休みで勤務時間が変更される。
家は駅から歩いて10分ほどの距離だ。
余裕を持って15分前に家をでる。
ビニール傘をさして国道沿いの道を駅に向かって歩いて行く。
雨にぬれた道路は帰宅を急ぐ沢山の車のヘッドライトで妙にまぶしく感じた。
駅に着いて10分ほどで恵が来た。
「ごめんねー!」
「いや別に恵が悪いわけじゃないから。」「うん!じゃー行こうか!」
「さぁ何を食べようかな。」
二人で月に一度は必ずいくお店はいつも繁盛している。念の為20時に予約をいれておいたが、あまりに時間に遅れると電話がかかってくる。
とりあえずまだかかってきてないので、大丈夫だと思う。
「いらっしゃい!何名さん?」
「あっ予約した…」
奥から店長がでてきた。
「あー安積ちゃん。毎度どうも!」
毎月通っていれば自然と顔馴染みなわけだ。「とりあえず生」
「私はグレープフルーツ酎ハイで」
「はい、生いっちょ、酎ハイGFいっちょね!」
「あいよー!」
ほとんど狭いカウンターだけの店は、平日20時の時点でほぼ満席だった。
「予約しておいて良かったな。」
「本当に、いつもこんでるね。」
隣には同世代のカップル?
二席先にはアジア系の、(多分中国人)の若い女の子を連れた40代の男性がいて。
角の席は女性3人がいる。
焼き鳥屋さんの割には男性の割合が少ない。
味ももちろん美味しいが、店長の人柄に集まる客も多い。
「この間久しぶりにあずみちゃんがきたよ。」
「あーそう。誰と?」
「なんか女の子と二人で。」
「そうなんだ。」
なんて言いながら、どこかで少し安心してしまったりする。
となりに彼女がいるのに、ついあずみの事を考えてしまう。
「あずみさんとも来た事あるんだ。」
「そりゃ付き合い長いからなー。まっ腐れ縁てやつだよ。あいつ人に対して文句多いからさ。」
「なんか焼きもちしちゃうなー!」
「何にもないって、気にしすぎ!第一あいつ結婚してるじゃん。来たっていっても大分前だよ。恵と出会う前の話。」
「…。」
なんか自分でも言い訳がましい気がする。「私トイレに行ってくる。」
「あー。」
彼女を見送りビールを飲み干すと、店長が素早く寄ってきて小声で
「なんかいらん事言ってしまったかいな?」「大丈夫ですよ!」
「飲み物どうしよう?」
「じゃ生もう一杯。」
「はい生いっちょ!」
なんだかんだで商売上手だ。
トイレから帰ってきた恵は何事もなかったように、普段の恵に戻っていた。
僕の本心はどちらなのだろうか?
正直自分でもよくわからなくなっていた。
恵の事は好きだし、
将来的には結婚だって考えている。
でも今のままでは、
心のどこかにあずみを置いたままでは、
いつも恵の前では良い彼氏を演じている気がする。
店をでるとまだ中途半端な雨が降っていた。
傘を差すべきか、悩むほどの小雨。
恵を自分に寄せて一本の傘で僕の家に向かった。
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