雨の日に聞くSUN
君の声を聞かせて
雲をよけ世界を照らすような
君の声を聞かせて
遠いところも
雨の時も
全ては思い通り
「はーい今日最後の曲は、星野源でーSUNー でした。きみのこえーをきかせーて!なんて言われたいですよね。落ち込んだ時、悲しい時聞きたくなる声ありますよね。私?私はもちろんリスナーさんの声が聞きたい!!……って旦那さんじゃないんかー!まぁそういうわけでね、radiostation火曜日あずみは、今日はここまで、来週もまた皆様のリクエストや投稿お待ちしてます。じゃーまた来週までバイバイ!」
フェードアウトしていく音楽を聞いたところで、スマホのradioを消して辺りを見回した。
約束の時間は19時だった。
あと5分程ある。
少し離れた所に大きな大学があるこの駅は、若い人達で溢れていた。
朝から降っていた雨のせいで、濡れた路面に
街灯が反射して、雲がかった夜空のわりに、街並みは白熱球の明かりのような温もりのあるあたたかさにつつまれていた。
ふたつある駅の階段の、どちらから彼女が降りて来るのかを目を凝らして懸命に探す。
しかし一斉に群れをなして降りてくる人混み、空を見上げながら手をかざし雨模様をうかがう人たちのなか、彼女を見つけるのはかなり至難な事だろう。
「こりゃ無理だわ。人がバラけて行くのをもう少し待つか…。」
と言い切るか言い切らないうちに、突然足の力が抜けてカックンとなった。
世間で言う「膝カックン」と言うやつだ。
「うわ!」
「お待たせ!」
「さっ佐藤さん!」
カックンなった僕を見て大爆笑!
本当に楽しそうに笑う。
「ごめんごめん!」
靴を買いに行った日、やはりすれ違ったのは佐藤さんだった。
ソフトタッチの生地のグレーのスニーカーを購入した僕は、ラジオの公開スタジオを見に同じビルの一階へ向かった。
公開スタジオといっても渋谷のスペイン坂のように観客が沢山いるわけでもない。
平日のなんでもない日にいるのは、学校帰りにたまたま通りかかった女子高生と、普段何をしてるのか不明の、あまり関わりたくない少し変わった感じのおじさん?おじいさん?が2~3人ウロウロしながら、見学しているくらいだ。
一階についた僕は遠目からスタジオの方に目をやる。年に何度か見に行く時はいつもこのスタイルだ。
だけどその日は思わずスタジオ前の柵のところまで近づいた。先程すれ違った女性がスタジオ内にいたからだ!
そのまま彼女のコーナーが終わるのを待って、裏口からでてきたところで声をかけた。
「いやーしかしあんなところで会うなんて本当にびっくりしたよ。」
「私も驚いたよ。どうする?どっかお店はいる?」
「ご飯食べる?それとも一杯飲む?」
「一杯いきますか!」
「どこかいいところ知ってる?」
「あー焼き鳥屋さんでよければ!」
「いいね!」
「OK行こうか!」
やみかけの雨、傘をさす人も少い。
彼女も黒地に白い水玉の傘を左手に持っていた。白い七分袖のシャツにカーキ色のロングスカートという春スタイルは、若者の多い小雨の街並みに溶け込んでいた。
おしゃれな店ではなく、あえて赤提灯の焼き鳥屋さんを選んだのは彼女を意識しないようにだ。
「私この店この前友だちときた!」
「えーじゃあ別の所にしようか?」
「いや、めっちゃ美味しいからいいよ。」「何が一番美味しかった?」
「なんだっけな?あの…まぁ店に入ったら思い出すかな。」
「そりゃそうでしょ。」
二人で笑う。
カウンターが20席くらいならんでいて、前と後ろにボックス形の4畳ほどの席があるだけ。
昔から良く通う馴染みの店なので、店長ともカウンター越しに良く話す。
「まいど!」
「あーいらっしゃい。久しぶりだな。珍しいな今日は二人?」
「はい。」
「飲み物何にしよう?」
「生ビール。佐藤さんは?」
「じゃー私も。」
「あいよ!ドリンクで生ダブルね!」
「あいよー!」
「あーこれこれ、純愛ってやつだよ!」
「いやいやそれは純鶏でしょ!?」
「あー読み間違えた。」
この店のおすすめはなんといっても純鶏というオリジナルの串だ。
鶏肉の旨味がギュっと凝縮されている。
それにしても佐藤さんは昔から天然的な読み間違えをする。
一緒に仕事をしている頃に、来月引っ越す予定のバイトの娘に、
「私一人暮らししたことないからなー憧れるわー。」
とか言ってるので、
「どんな部屋に住みたいんですか?」
と聞くと
「うーんとね、とりあえずお風呂とトイレはセレパートで間取り4WDくらいがいいかな!」
と突っ込みどころ満載の回答。
一瞬バイトの娘らも唖然としてる。
「いやいや佐藤さん、とりあえずセレパートじゃなくてセパレートでしょ。」
「え?」
「それで間取りが4WDって?車に住むんですか?それを言うなら4LDKでしょ。それから一人暮らしで4LDKは相当広すぎるから、それじゃあ子供が二人くらいいる家族世帯用くらいですよ!」
「ハハハッ!めっちゃまちがえてるね私。」ここでようやく一瞬凍りついてたバイトの娘らも笑いだす。
まぁそんな職場が僕は好きだった。
昔話をあてに、カウンターに横並びで二人で焼き鳥を頬張りながらビールを流し込む。
一見ロマンチックとは程遠い絵面だが、狭い店のカウンターの二人の距離は以外と近い。
横並びなので腕はあたるし、顔がすぐ横にある。焼き鳥の匂いにまぎれてたまに彼女の髪の匂いがする。
今何をしているのか?お互いの近況報告に始まり、昔話を一通り話してしまうと、次は
何から話せばいいのかわからないまま時間は過ぎていく。
浮かんでは消えていくのはありふれた、日常の会話だけ…。
窓の外の景色はやみかけた雨。
いろいろありすぎてうまく言えないけど、
やはり僕は彼女の事が好きだったし、
きっと今も好きなんだと思う。
彼女と出会わなかったら、僕の人生もまた違ったのかもしれない。
頭に浮かぶギターの軽快なカッティング音。
今の想いがあまりにも、「LOVEstoryは突然に…。」と重なって、
妄想のラブレマンスに自分を埋め込んだら、なんだかおかしくなって一人でクスクス笑ってしまった。
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