吉田さん

Let the sky fall

When it crumbles

We will stand tall

Face it all together


空が落ちてくるよう

それが崩れていくのを

私たちは高いところから

一緒に全て見ている


重厚感のあるAdeleの声と

想像力を掻き立てる詞が

すごく心に響いてくる。

inspirationはいつも意外なところから生まれる。

英語はあまり得意ではないけれど、心に響く歌は歌詞がわからなくても感情を奮わす。


僕の音楽の原点はB'zに始まる。

14歳になるまで音楽というものには無縁で、マンガばかり読んでいた。

年の離れた姉たちは、リンドバーグやプリンセスプリンセスを好んでいたようだが、あまり興味がもてず、僕が聞いていた曲と言えば、親父が古いカセットテープを使って聴いていた、西田敏行 当時好きな時代劇のエンディングに流れていた里見浩太朗そして谷村新司といったラインナップだった。


そんな中友人宅できいた、

「孤独のrunaway 」

は衝撃的だった。UPテンポなロックなのに、ちゃんと歌詞が頭に入ってきて、完全に頭の中で情景が映像化されていた。


 恵(けい)と付き合い始めたのもその頃だ。

彼女は美術部で、放課後は美術室で僕には良く理解できない絵を書いていた。

僕は隣の教室で部員が3人しかいないギター部でコードをひたすら覚えていた。その教室を恵はたまに覗きに来ていた。


「ねえ渡辺君この曲ひける?」

「なに?」

「DEENの、このまま君だけを奪い去りたい。」

「あー多分。」

「また、多分か!」

覚えたてのギターのコードを探りながら、たどたどしい音を奏でる。


静かにたたずむ街並み…。


「下手くそ!」

「だから多分て言ったじゃん!」

「でも声はいいね。」

「ん?」

「私は好きだよ渡辺君の声。」

声の事を誉められただけなのに、愛の告白を受けている気分になる。

「もう少しがんばるよ。」


何をがんばるのか?

ギターの練習?

カラオケで歌の勉強?

あの時の僕はもっと恵に好きになってほしい為に頑張ろうとしていたのだと思う。

地道にギターを勉強していつか歌い手になることを夢にみていた。


そんな恵と別れてもうすぐ一年がたつ。


意気込んで上京したくせに、半年もしないうちに、今までいくらでも書けた詞が全く浮かばなくなった。

恵と一緒にいたら次々と頭に流れていた曲が、うかんできた詩が都会の雑踏にかきけされていく気がした。

いくら電話やメールで話しても、心が満たされない。

会いに帰ればいいのに、志半ばで帰省する事に抵抗を覚えた。

それに…

彼女の方から会いに来て欲しいという願望もあった。

自分が愛されているか確かめたかったのかもしれない。


そして僕は寂しさに負けたのだ。

あの時どうして僕は彼女に素直に会いたいと言えなかったのだろう…。


Adeleの歌を聞いていたら、 

そういう詩を書きたくなった。




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