高木さん
育ってきた環境が違うから
好き嫌いは否めない
夏だめだったり
セロリが好きだったりするよね。
「セロリは嫌いだ。」
なんて彼女が言うから、
思わずSMAPのセロリが頭をよぎる。
「私は香りの強い野菜は嫌い。セロリ、茗荷、パクチー。パクチーなんて最低でしょ。あれの別名知ってる?カメムシソウだよ。
亀虫食べる意味がわからない。」
薄暗いカウンター
大人を思わすローテンポな洋楽
アダルトコンテンポラリーなんて言うらしい。低い天井のせいなのか、ベース音がやたらと耳にのこる。
もう20時をまわるのに客足は少ない。
カウンターにならんだ料理
「バーニャカウダー」
と名付けられた野菜スティックを口に運び、
ジンライムを傾ける。
甘いお酒は苦手、
昔からジンが好きだ。
僕はどちらかと言うと、彼女とは違い香りの強い独特な物が好きだ。
「なんで結婚したんだろうな?私」
「そりゃ行き遅れないようにでしょ。」
「うるさい!…。嫌いじゃないんだけどね。なんか楽しくないんだよね。」
「考えすぎじゃない?毎日たのしくて楽しくて相手の帰りが待ち遠しくて…なんて人いないんじゃない?いたとしても希少価値だよそういうの。」
「うーんそういうんじゃないんだよね。」
本当は彼女の言いたい事はわかっている。
もう20年程の付き合いだ。
小さい時から気のきく娘だった。
いつも相手の事ばかり考えている。
転んだ子がいれば、
すぐにかけよりてをさしのべる。
先生が探し物をしていれば、
直ぐに察して一緒に探す。
呑みに行っても、
みんなのサラダをとりわけ、
焼き鳥は串から外し、
空のグラスをみつければ店員より早く
「次何にします?」
と聞いてまわる。
そして店員さんの動向も気にしている。
タイミングをみて注文する。
自分はたいして呑みもせず。
自分が本当は何がしたいのか?
自分が何をして良いのかわからない。
だから僕が知っている以上に彼女は自分の事をわかっていない。
気を使いすぎる性格なのだ。
きっと旦那にもそう接してるに決まってる。
「お前はどうしたいの?」
答えられるわけがない。
「私?…わからない。」
ほらね。
「でも、旦那さんが笑っていて私が満足ならそれでいいかも。」
「笑わないの?」
「そうだね。なんかいつも疲れた顔してる気がする。」
僕の持論だが、いつも与えられている人は満足なんてできない。
何故なら自分も本当は相手に幸せを与えたいからだ。
相手が幸せな顔してる事による満足感。
それは相手を幸福にしていると実感できる瞬間であって、自分が幸せな時である。
つまり自信に繋がる。
愛されている実感てそういうものだと思う。
「今のあずみは、一方通行なんだよ。」
「どういうこと?」
少し眉をつり上げる。
「それは自分で考えなきゃ。」
「なんか上から目線。むかつく!そんなんだから、いつまでも結婚できないんだよ。」
「俺は結婚できないんじゃなくて、結婚したくないの。」
「それじゃ恵ちゃん可哀想だよ。」
言われずとも分かっている。
恵も今年で29歳だ。
このままで良いわけがない。
踏み切れない理由は自分でも分かっているつもりだ。
それがいかにくだらない理由でも、
そこを乗り越えるか、立ちきらなければ前に進めない事も。
「都合悪くなると黙るんだから!」
「あーいや、なんだっけ?ちょっと考え事してて。」
「だから…もういいや!何でもない。」
アダルトコンテンポラリー…。
その店の雰囲気で選べる有線のチャンネルだ。
なんとなくnervousな気分でいると、英語なんてわからないくせに、店内に流れる曲が感情を共有していく。
「これなんて曲か知ってる?」
「えーと、Adeleの、Sky Fallだと思う。」
「詳しいな。」
「まぁお仕事がらね。」
Sky Fall 秋の空か…
「なるほどね。」
意味もなく納得して、
しばらく二人でグラスを傾けながら
Adeleの世界感にひたっていた。
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