鈴木君

せわしく行き交う人々の

冷めた目線に怯えてた。

ギター片手に空を見上げたら

薄紅色の花びらが 

誰かの笑顔に見えたから、

格好悪いと言われても僕は歌う。

君を描いたlovesong


新作のパンを持って上司とスタジオに向かう。このラジオ番組に出演するようになってもう1年がたつ。

いつも笑顔の、このDJさん「あずみちゃん」とは、プライベートで飲みに行くほどなかが良い。

今日も番組終了後に来月の打ち合わせをしたあと、ご飯に誘うつもりでいる。


「ルーラはですね、来月近くのライブハウスでもライブがあるんでね、よかったらホームページ等確認してみてくださいね。CMのあとは、元町屋提供のパンだいすきー!のコーナーです。今日も佐藤さんが新作のパン持って来てますよ。お楽しみにー!」 


ADさんがCMカウントを指で合図する。

4・3・2・1…。

「はいCMです。」

毎度ながら見事にぴったりだ。

私は月一とはいえ1年やっても噛みまくるのに…。まぁプロだし当たり前か!

「喜美子さん久しぶり!」

「久しぶりって、先週ご飯食べに行ったやん!いやーいつ来ても緊張するわ。」

「ルーラの曲良くない?私結構好き。」

「そうやね、初めて聞いたけど良いかも!」「はいCMあけまーす!」


いつも笑顔の愛らしいキャラ。

ファンも多いが、みんな良質なファンではないらしい。昨年結婚した彼女は先月ストーカー被害にあっている。怪文が彼女宛にラジオ局の本社に送られてきたらしい。


結婚は人を狂わす。

私自身一度失敗している。

初めは優しい夫だった。

二人ともパンが大好きで、彼はパンを作り、私はそれを売った。

いつか小さなカフェを開こうと二人で必死に働いてお金を貯めた。

彼は腕も良かったが、

企画力にも長けていた。

美味しくて、他では見ない独創的なパンとこだわりのカフェオレのセット、テイクアウトも出来るとあって直ぐに2件目をだすスポンサーがついた。

小さなカフェが2店舗めをだした頃、彼はあまり家に帰らなくなった。

忙しいので仕方がない、最初はそう思っていた。でも彼はバイトの女子高生と浮気をしていたのだ。

精神的に不安定だったので、本店の副店長だった鈴木君にいろいろと相談していた。

店の事、彼の浮気の事…。

そして彼はクビになり、私は離婚届けを突き付けられた。理由は鈴木と浮気をしたからだそうだ。

めちゃめちゃだ。

納得いかない反面戦う力は私にはなかった。

鈴木君には悪い事をした。

何もないのに巻き込んでしまった。

何も悪くないのに、

何も言わずに辞めて行った。

その後何をしているか知らない。


そんなことを考えながら上の空でパンを紹介してしまった。あずみちゃんのフォローでなんとかコーナー終了。


「大丈夫?なんか悩んでる?」

「あーごめん大丈夫。」

「次のCMあけ何か好きな曲かけてあげようか?」

「ありがとう!じゃあーねー、山崎まさよしのセロリ」

「OK!ノンちゃんお願いね!」

「了解!じゃ40秒後にCMあけまーす!」



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