渡辺君

何度も何度も繋いだ手が

いつまでも輝けばいいなー

何度も何度も見上げた背中は

前を向いたまま…。


星野源の生まれ変わりだ。

私の好きな曲の一つだ。

車の運転中はFMにかぎる。

好きな歌手はいるけれど、毎日の通勤ずっと聞いていたら飽きてしまうから。

その点ラジオは良い。

新しい曲、流行りの歌手が、邦楽洋楽問わずに聞ける。

それに話がうまいDJさんなら最高だ。


 昔付き合っていた彼は歌手を目指して東京に行った。よくドライブしながらお互いのリクエストをradioを送ったものだ。

私は決まってドリカムの「LAT.43゚N」をリクエストした。

寂しい感じが好きだった。

ベース音と彼を待つ心境とが響きあって、歌詞に同調して悲しくなるのが好きだった。

結局自分も同じ目に合うとは知らずに…。


しかし今日はひどい雨風だ。

事故でもあったのだろうか?

ひどく渋滞している。

いつもは30分も走れば家に着くのに

道沿いの湖をかれこれ45分は見ている。

先程から折れた木々や、小石が車にあたる音がする。こういう運転は気が疲れる。

少し休憩しよう。

さっきの小石が当たった音も気になるし。

この先に道の駅があったはずだ。


あの日もこんな雨が降っていた。

彼を乗せて家路に向かっていた。

同じ県内のradioのイベントに彼が出演したのだ。

と言ってもB級グルメのフェスの舞台。 


「この曲おまえの事考えながら作った。」

「本当に?」

「いやうそ!」

「もうっ!!」


真意は聞けなかったけれど、私はその曲が好きだった。 

でも…

彼は東京から帰ってはこなかった。

大成しなかったくせに、

別に女を作って…。


どんなに愛しても

電話のキスじゃ遠い…。

冷たい受話器に唇押しあてた。


皮肉なものだ。

まぁもう何年も前の話だ。


そんなこと考えていたらちょっと彼の曲が聞きたくなった。

車を停めて自販機に向かう。まだかろうじて残っていた、温かいコーンスープを冷えた手でころがした。

「あるわけないか…。」と思いながら、スマホでradioにリクエストしてみる。

リクエストはみんな通るわけじゃない。

なければとばされるだろう。

プルトップをあけて、

温かいスープをすすった。

もう4月だというのに、

風が本当に冷たい

体があったまってきたところで

エンジンをかけて走りだす。

「あっ!車のキズあるか見るの忘れた…」

なんて一人なのに声にだしてみる。

まっいっか!帰ってから見よう。

そして再び混み合う車の列に入った。


「さてじゃあリクエストいきましょうか。

 えー私は何年か前のradiostationのイベントで聞いた曲が忘れられません。私の知る限り今その方は歌い手ではありません。そういうのもかけられるのでしょうか?

 ふっふっふっ見つけましたよ。でもね実は彼はまだ歌手やってますよ。去年の別のイベントでご一緒したんですよ。渡辺君 今は「ルーラ」ってバンドのボーカルで地元で活動してますよ。調べてみてくださいね!それではいきましょう、ルーラで、ONCHI」

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