第75話 けったいな話

 そりゃあ、けったいな話やね。と虎造はのけぞって笑った。つられて取り巻きの青単も愛想笑いを浮かべた。→冗談じゃない。どこがけったいなものか。ほんまの話やぞ。俺は切れ味鋭いカウンター並のタイミングで切り返したつもりだったが、時すでに遅し。話の輪に加わっていた皆の目から既に興味が失せ、その挙動は日常のそれに軌道修正中だった。


 →いったいどこがけったいやねん。と女々しく取りすがる俺に虎造が「そもそもヌシ、けったいの意味知っとんのか」と鉾先を変えて攻めてきた。→あたりまえだ。俺の話には奇妙な点も、忌々しいようなことなど何も無い!と撥ね付けると、「阿呆。そもそもの意味や。」と首を絞められた。ううむ。そもそもって?


「ヌシは八卦(はっけ)を知っとるか。」→そいつは引っかけ問題か。生憎こちとら占いは信用しない性分でね。それとも、中国武術の方を指しているのか。と応戦すると、「がはは。八卦掌ではなく、乾兌離震巽坎艮坤(けんだりしんそんかんごんこん)の方じゃ。」と畳掛けてくる。→だから、俺は「易経」なんか知らないと言っているだろ!む?


「がはは。語るに落ちるとはこの事じゃ。やはり知っておろう。儂は卦体(けたい)が悪いと思うたから言ぅたまでじゃ。」→うう、何故そこまで言うのだ。縁起は悪くないぞ! →その説は確かに有力だが、稀体が語源という説もあるぞ!「ふはは。無駄無駄。あり得んて。昔からの言葉じゃよ。生活に八卦が結びついていたからこその言葉じゃよ。」


 →むむ、そこまで看破されているとはー。降参だ。潔く認めよう、俺の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。「がはは。そいつはええよ。それよりも、この話、儂に売ってくれんか。久々に本当のような与太話だもんで気に入ってしもうてな。」→え。そいつは、けったいな。

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